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第六幕 転生歌姫の王都デビュー
第六幕 16 『テンプレ』
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午前中の稽古が終わって、私とミーティア、ケイトリンはギルドに向かう。
ルシェーラは侯爵邸に帰って行った。
…一人で。
相変わらずの放任主義ですな。
王都のギルドには転入手続きのため一度訪れている。
場所は第一城壁大西門にほど近い広場に面したところ。
劇場からは結構遠いから辻馬車を使っても良いのだけど…徒歩とそれほど時間が変わるわけではないし、散策がてらには丁度いい距離だ。
これが王城を挟んで反対側だったりすると、さすがに徒歩ではゲンナリするけど。
レティの鉄道が成功すれば路面電車とかも出来るかもね。
「カティアさま、ギルドには何の用事で?」
「『様』付けじゃなくてもいいよ?」
「いや~…マリーがうるさいし、咄嗟に切り替えできなさそうだし、普段から慣らしておかないと」
「そう…じゃあしょうがないね。で、ギルドなんだけど、どうやら指名依頼があるみたいで連絡が来てたんだ」
「指名依頼…ですか?」
「うん。まあ、予定も色々詰まってるから受けるかどうかは分からないのだけど、話だけでも聞いておこうかと思ってね」
個人を名指しで依頼する指名依頼は、通常よりも報酬が割高になるので冒険者にとっては積極的に受けたいものだろう。
当然、実力があって名が売れているという事が前提になる訳だが。
私はこう見えてもAランク…事によったらSになるかも知れないし、ブレゼンタムの軍団襲来の一件で名前も売れている。
…あの二つ名と共にね。
だから、私宛に指名依頼が来ることはそれほど不思議なことではない。
私がダードレイ一座の歌姫である事、その一座が王都に本拠を移したことを知られているというのも関係があるのだろう。
「なるほど~。さすがはカティアさま。冒険者としても一流で、もはやその名を知らぬ者は無し!ですもんね」
「いや、そこまでじゃないと思うけど」
「そんなこと無いですよ!ブレーゼン領の事件の話はこっちでもニュースになりましたし、『聖光の歌姫』の活躍も伝わってますから。あとは、吟遊詩人が挙って詩にしてますね」
「…それ、どんなの?」
聞くのが怖い…
「曰く、戦場に轟く神の怒槌の如き雷撃をもって万の敵軍勢を尽く屠り阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、ひとたび歌えば万軍を死をも恐れぬ地獄の軍勢に変える…と」
表現が物騒すぎる!?
どこの魔王の所業なの、それは…
敵も味方もだいぶ水増しされてるし。
「大袈裟すぎるよ。雷撃の魔法で削れたのはせいぜい千くらいだし、そもそも敵軍勢は5千、味方はそれより少ないくらいだったし」
「まあまあ、そう言うのは誇張されるもんだし、民衆にはその方がウケますしね。そもそも魔法で千の敵を倒すのは『せいぜい』ってレベルじゃないと思いますけど…。まあ、国には正確な情報がちゃんと伝わってますし、心配はいりませんよ」
「はぁ…」
公演とかに変な影響が出なければいいけど…
暫く街中を歩いて、第一城壁大西門の近傍にあるギルドまでやって来た。
請負人相互扶助組合イスパル王国統括本部、と言うのが正式名称だ。
もちろんそんな長ったらしい名前で呼ぶ者は皆無だが、その名の通りイスパル王国内のギルドを統括しているところだ。
因みに全ギルドを統括する総本部はアスティカントにある。
国内の取りまとめを行ってると言うだけあってブレゼンタムよりもかなり大きい建物だが、雰囲気は似たような感じだ。
開放されている大きな扉から中に入ると、既にピークは過ぎているにも関わらず随分多くの人がいる。
一先ず指名依頼の話を聞くためにカウンターの受付の一つに向かう。
それなりに人が多いとは言えカウンターに並ぶほどではないので、待つことなく受付へ。
「こんにちは、本日はどのような御用でしょうか?」
「はい、私宛に指名依頼が来ていると連絡を受けまして…」
と、ギルド証を提示しようとしたとき、隣の窓口にいた冒険者の男が話しかけてきた。
「おいおい、何の冗談だ?こんな細っこい嬢ちゃんに指名依頼だとよ!子守の依頼か何かか?」
「「「ははははっ!!」」」
?
ああ…今の私の格好は確かに冒険者には見えないだろうね。
ミーティアも連れてるし、子守というのも間違ってないかも。
まあ、そんな周りの反応も気にせずにギルド証を取り出して受付のお姉さんに渡す。
「!…カティア様ですね、確認いたします」
ギルドカードを見て一瞬驚いた表情を見せたお姉さんは、しかし直ぐに気を取り直して確認を始めた。
周りも私の金色のギルド証を見てざわつき始める。
と言うかそんなにジロジロ見て、この人達暇なの?
「Aランクだと!?てめえみてえなガキが何で!?」
いや、何でって。
大体この世界って見た目じゃ実力は測りにくいんだし、あんたこそ何でそんなに驚くのさ。
…ミーティアみたいなのは流石に例外だろうけど。
「おい、お前ぇ、どんなズルしたんだ?ああ?」
「はいはいそこまでね。それ以上この人に絡むようだと私も黙っちゃいられないよ?」
しつこく絡もうとする男に向かってケイトリンが警告する。
彼女は略装だが騎士の出で立ちなので、男もその素性は即座に理解したらしい。
「けっ!何でぇ、騎士様が護衛についてるってこたぁお貴族様ってことかい。やっぱ金かなんかでランクを買ったんだな」
周りの冒険者たちの何人かも、男に同調するようにニヤニヤ笑って眺めてる。
「はぁ…王都のギルド員には随分レベルが低いのがいるんだね」
「んだとぉっ!?てめえ!!」
あ、思わず本音がポロッと出てしまった。
馬鹿はほっときゃいいと思って無視してたのに、あまりのおバカっぷりに、つい…
「お金でランクなんて買えるわけ無いでしょ。そんな事大声で喋ってたら、ギルドから怒られるよ?ねえ、お姉さん」
「え?え~と……そうですね。確かに今の発言はギルドと言う組織そのものを侮辱しているとも受け取られかねません。度が過ぎれば処罰の対象になりますよ」
お?
話を振った私が言うのもなんだけど、荒くれにも萎縮せずに毅然と言い放つとは…なかなかやるもんだね。
「はっ!信じられるかよ、こんなガキがAランクになんかなれるわけねーだろが」
「「「そうだそうだ!!」」」
うるさいな~…
もう面倒だからまとめて…
「ね~、ママ…このおじちゃんたちあんまり強くないのにぼうけんしゃなの?危なくないの?」
「ミーティア、冒険者の仕事は討伐だけじゃないよ?採取依頼とか街中の雑用だって…大事な仕事はたくさんあるの」
「あ、そっか~」
「うわ~…この母娘、なんてナチュラルに煽るんだろ…恐ろしい」
やだなぁ、ケイトリン…煽るだなんて人聞きの悪い。
事実を言っただけだよ。
「ふ、ふ、ふ…」
あれ?
身体を震わせて…笑ってる?
「ふざけんなぁーーっ!!!」
違った。
突然、男は激昂して殴りかかってきた。
……おっそ。
何か風呂に入ってるのかも怪しげだったので、間合いは詰めながらも極力触らないように体捌きを駆使しつつ服を掴んでフワッと投げ飛ばす。
隅落…空気投とも言われる、投げ技の極意の一つだ。
男は呆気なくコロッと地面に転がった。
何が起きたのか分からずにキョトンとした表情を晒す。
地面に叩きつけられないように一応気を使ったので、怪我もしてないし痛くもないはずだ。
「お見事!いや~、物凄くキレイな投げ技でしたよ。カティア様、無手でも強いですよね」
「ふふ、ありがと。…護衛なんじゃないの?」
「いや、今のは別に必要なかったでしょう?」
「まあ、そうだけど」
「ママ!かっこいいの!」
投げられた男は毒気を抜かれて呆けている。
これ以上絡まれても面倒なので、もうひと押ししておくか。
私は少しだけ意識を戦闘モードにして…いわゆる『闘気』とか『剣気』とでも言うようなものを男に浴びせる。
何なら魔力も込める。
それを受けた男は、ビクッとなり…転がったままこちらを見上げる。
「…一つ忠告を。見た目で侮るようでは長生きできませんよ?魔物相手でも、人間相手でも」
コクコクと男は何度も頷いて後退りし、慌てて立ち上がってそそくさと立ち去っていった。
周りで一緒に馬鹿にしていた一部の冒険者たちも同様だ。
しかし、定期的にあんなのに絡まれる気がするよ。
まあ、何度も繰り返されるのがテンプレのテンプレたる所以ということか。
ルシェーラは侯爵邸に帰って行った。
…一人で。
相変わらずの放任主義ですな。
王都のギルドには転入手続きのため一度訪れている。
場所は第一城壁大西門にほど近い広場に面したところ。
劇場からは結構遠いから辻馬車を使っても良いのだけど…徒歩とそれほど時間が変わるわけではないし、散策がてらには丁度いい距離だ。
これが王城を挟んで反対側だったりすると、さすがに徒歩ではゲンナリするけど。
レティの鉄道が成功すれば路面電車とかも出来るかもね。
「カティアさま、ギルドには何の用事で?」
「『様』付けじゃなくてもいいよ?」
「いや~…マリーがうるさいし、咄嗟に切り替えできなさそうだし、普段から慣らしておかないと」
「そう…じゃあしょうがないね。で、ギルドなんだけど、どうやら指名依頼があるみたいで連絡が来てたんだ」
「指名依頼…ですか?」
「うん。まあ、予定も色々詰まってるから受けるかどうかは分からないのだけど、話だけでも聞いておこうかと思ってね」
個人を名指しで依頼する指名依頼は、通常よりも報酬が割高になるので冒険者にとっては積極的に受けたいものだろう。
当然、実力があって名が売れているという事が前提になる訳だが。
私はこう見えてもAランク…事によったらSになるかも知れないし、ブレゼンタムの軍団襲来の一件で名前も売れている。
…あの二つ名と共にね。
だから、私宛に指名依頼が来ることはそれほど不思議なことではない。
私がダードレイ一座の歌姫である事、その一座が王都に本拠を移したことを知られているというのも関係があるのだろう。
「なるほど~。さすがはカティアさま。冒険者としても一流で、もはやその名を知らぬ者は無し!ですもんね」
「いや、そこまでじゃないと思うけど」
「そんなこと無いですよ!ブレーゼン領の事件の話はこっちでもニュースになりましたし、『聖光の歌姫』の活躍も伝わってますから。あとは、吟遊詩人が挙って詩にしてますね」
「…それ、どんなの?」
聞くのが怖い…
「曰く、戦場に轟く神の怒槌の如き雷撃をもって万の敵軍勢を尽く屠り阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、ひとたび歌えば万軍を死をも恐れぬ地獄の軍勢に変える…と」
表現が物騒すぎる!?
どこの魔王の所業なの、それは…
敵も味方もだいぶ水増しされてるし。
「大袈裟すぎるよ。雷撃の魔法で削れたのはせいぜい千くらいだし、そもそも敵軍勢は5千、味方はそれより少ないくらいだったし」
「まあまあ、そう言うのは誇張されるもんだし、民衆にはその方がウケますしね。そもそも魔法で千の敵を倒すのは『せいぜい』ってレベルじゃないと思いますけど…。まあ、国には正確な情報がちゃんと伝わってますし、心配はいりませんよ」
「はぁ…」
公演とかに変な影響が出なければいいけど…
暫く街中を歩いて、第一城壁大西門の近傍にあるギルドまでやって来た。
請負人相互扶助組合イスパル王国統括本部、と言うのが正式名称だ。
もちろんそんな長ったらしい名前で呼ぶ者は皆無だが、その名の通りイスパル王国内のギルドを統括しているところだ。
因みに全ギルドを統括する総本部はアスティカントにある。
国内の取りまとめを行ってると言うだけあってブレゼンタムよりもかなり大きい建物だが、雰囲気は似たような感じだ。
開放されている大きな扉から中に入ると、既にピークは過ぎているにも関わらず随分多くの人がいる。
一先ず指名依頼の話を聞くためにカウンターの受付の一つに向かう。
それなりに人が多いとは言えカウンターに並ぶほどではないので、待つことなく受付へ。
「こんにちは、本日はどのような御用でしょうか?」
「はい、私宛に指名依頼が来ていると連絡を受けまして…」
と、ギルド証を提示しようとしたとき、隣の窓口にいた冒険者の男が話しかけてきた。
「おいおい、何の冗談だ?こんな細っこい嬢ちゃんに指名依頼だとよ!子守の依頼か何かか?」
「「「ははははっ!!」」」
?
ああ…今の私の格好は確かに冒険者には見えないだろうね。
ミーティアも連れてるし、子守というのも間違ってないかも。
まあ、そんな周りの反応も気にせずにギルド証を取り出して受付のお姉さんに渡す。
「!…カティア様ですね、確認いたします」
ギルドカードを見て一瞬驚いた表情を見せたお姉さんは、しかし直ぐに気を取り直して確認を始めた。
周りも私の金色のギルド証を見てざわつき始める。
と言うかそんなにジロジロ見て、この人達暇なの?
「Aランクだと!?てめえみてえなガキが何で!?」
いや、何でって。
大体この世界って見た目じゃ実力は測りにくいんだし、あんたこそ何でそんなに驚くのさ。
…ミーティアみたいなのは流石に例外だろうけど。
「おい、お前ぇ、どんなズルしたんだ?ああ?」
「はいはいそこまでね。それ以上この人に絡むようだと私も黙っちゃいられないよ?」
しつこく絡もうとする男に向かってケイトリンが警告する。
彼女は略装だが騎士の出で立ちなので、男もその素性は即座に理解したらしい。
「けっ!何でぇ、騎士様が護衛についてるってこたぁお貴族様ってことかい。やっぱ金かなんかでランクを買ったんだな」
周りの冒険者たちの何人かも、男に同調するようにニヤニヤ笑って眺めてる。
「はぁ…王都のギルド員には随分レベルが低いのがいるんだね」
「んだとぉっ!?てめえ!!」
あ、思わず本音がポロッと出てしまった。
馬鹿はほっときゃいいと思って無視してたのに、あまりのおバカっぷりに、つい…
「お金でランクなんて買えるわけ無いでしょ。そんな事大声で喋ってたら、ギルドから怒られるよ?ねえ、お姉さん」
「え?え~と……そうですね。確かに今の発言はギルドと言う組織そのものを侮辱しているとも受け取られかねません。度が過ぎれば処罰の対象になりますよ」
お?
話を振った私が言うのもなんだけど、荒くれにも萎縮せずに毅然と言い放つとは…なかなかやるもんだね。
「はっ!信じられるかよ、こんなガキがAランクになんかなれるわけねーだろが」
「「「そうだそうだ!!」」」
うるさいな~…
もう面倒だからまとめて…
「ね~、ママ…このおじちゃんたちあんまり強くないのにぼうけんしゃなの?危なくないの?」
「ミーティア、冒険者の仕事は討伐だけじゃないよ?採取依頼とか街中の雑用だって…大事な仕事はたくさんあるの」
「あ、そっか~」
「うわ~…この母娘、なんてナチュラルに煽るんだろ…恐ろしい」
やだなぁ、ケイトリン…煽るだなんて人聞きの悪い。
事実を言っただけだよ。
「ふ、ふ、ふ…」
あれ?
身体を震わせて…笑ってる?
「ふざけんなぁーーっ!!!」
違った。
突然、男は激昂して殴りかかってきた。
……おっそ。
何か風呂に入ってるのかも怪しげだったので、間合いは詰めながらも極力触らないように体捌きを駆使しつつ服を掴んでフワッと投げ飛ばす。
隅落…空気投とも言われる、投げ技の極意の一つだ。
男は呆気なくコロッと地面に転がった。
何が起きたのか分からずにキョトンとした表情を晒す。
地面に叩きつけられないように一応気を使ったので、怪我もしてないし痛くもないはずだ。
「お見事!いや~、物凄くキレイな投げ技でしたよ。カティア様、無手でも強いですよね」
「ふふ、ありがと。…護衛なんじゃないの?」
「いや、今のは別に必要なかったでしょう?」
「まあ、そうだけど」
「ママ!かっこいいの!」
投げられた男は毒気を抜かれて呆けている。
これ以上絡まれても面倒なので、もうひと押ししておくか。
私は少しだけ意識を戦闘モードにして…いわゆる『闘気』とか『剣気』とでも言うようなものを男に浴びせる。
何なら魔力も込める。
それを受けた男は、ビクッとなり…転がったままこちらを見上げる。
「…一つ忠告を。見た目で侮るようでは長生きできませんよ?魔物相手でも、人間相手でも」
コクコクと男は何度も頷いて後退りし、慌てて立ち上がってそそくさと立ち去っていった。
周りで一緒に馬鹿にしていた一部の冒険者たちも同様だ。
しかし、定期的にあんなのに絡まれる気がするよ。
まあ、何度も繰り返されるのがテンプレのテンプレたる所以ということか。
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