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第六幕 転生歌姫の王都デビュー

第六幕 9 『護る者、護られる者』

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「そうだ…話が途中でしたけど、ミーティアも一緒に泊まっていいですよね?」

「ああ、もちろんだ」

「ママと離れるのは嫌よね~、ミーティアちゃん?」

「うん!」

「そう言えば…ミーティアもここに呼ばれたということは、この子の正体はご存知って事ですよね?」

 唯の子供だと思ってるなら態々この場に呼ぶはずがない。
 多分、ルシェーラ~侯爵閣下のルートで情報が上がってるはずだし。

「ああ、神の依代…だったな。聞き及んでいる」

「ですよね。ではこの場に呼んだのは…」

「いや、単に興味があったのと、お前とは親子同然だと聞いたからな。なら俺にとっては孫みたいなものだろう?」

「あら、そうすると私はおばあちゃんになっちゃうのね」

「ふにゅ?おじいちゃん、おばあちゃん?」

「そうだぞ、お前のママのパパとママなんだからな」

「わ~い!おじいちゃん!おばあちゃん!」

 と、二人に抱きついて甘えに行く。
 二人はデレデレだ!

 お二人とも孫がいるような歳にはとても見えないけど、この世界って割と早婚で出産年齢も低かったりするから珍しいと言うほどではないんだよね。

「血の繋がりこそありませんけど…私の魂の影響でこの姿になったみたいなので、まあ本当の娘みたいなものですよ。…この子がエメリール様のシギルを発動したことはご存知で?」

「ああ、聞いている。リッフェル領の事件のときだな」

 あの時ルシェーラは目撃してたはずだから、報告が上ってるのは予想通りだ。

「…俺ぁ知らなかったぞ?」

「あ、そう言えば…父さんには言ってなかったね」

「…まあ、いいさ。おいそれと話せるようなことでも無えしな」

「いや、単純に忘れてたよ…。ともかく、この子はシギルを発動しただけでなく、素の能力も見た目通りではありません。…ウチの一座の皆が色々仕込んだおかげで、少なくともC~Bランクの冒険者並みの力があります」

「何と…そこまでか」

「まあ!凄いのね~ミーティアちゃん」

「えへんっ!」

 母様に褒められてミーティアは得意げだ。
 そして、ちゃっかり膝の上に座ってる。


『それだけでは無いぞ』

「にゅ?」

「「「!?」」」

 突然響いた男の声に皆驚き、父さんや父様 (ややこしい)、リュシアンさん、閣下、近衛騎士が警戒体勢を取る。
 あ、リュシアンさんはさっき戻ってきてた。

 それにしても、流石は父様…伊達に『英雄王』とは言われてないね。
 他の現役戦闘職と遜色ない動きで警戒して、今もまるで隙がないよ。
 現役じゃないという点では閣下も同じだ。


 …って、感心してる場合じゃない。
 すっかり忘れてたけど、この場にはもう一人(?)いたんだったね…

「あ、皆さん、大丈夫ですよ。…ゼアルさん、驚かさないでくださいよ」

『おお、済まねえな。そんなに驚くとは思わなかったぜ』

 と言いながら、ミーティアの身体の中から出てきて姿を現す。
 人間形態だが、実体のない思念体なので半透明でゴーストみたいな感じ。
 しかしその存在感はそんなものとは比べ物にならないくらい圧倒的だ。

「カティア…?彼はいったい…?」

「この人…人じゃないけど…はゼアルさん。ディザール神殿総本山の聖剣の守護者だったの。で、ミーティアに取り憑いて私達についてきたんだ」

「…我を悪霊みたいに言うんじゃねえ」

「ゼアル……確かその名は…」

 と、母様が呟いてる。
 イスパル王家になにか伝わってるのかも。

「なるほど、イスパルの血を引いてるのは王妃か。ならば我のことは伝わってるかもしれねえな。…我こそは炎竜王ゼアルである!!」

「…思念体ですけどね(ボソッ)」

「炎竜王ゼアル…!!まさか…ディザール様や初代国王陛下とともに数多の魔境の主を倒したという…あの伝説の?」

「その通りだ。ディザールやイスパルは我の友だったのだ。さあ、敬うがいい!!」

「「「はは~っ!!」」」

 …えっ?何そのノリ。
 ツっこんだほうがいいの?

「…自分でやっておいてなんだが、ノリがいいなお前ら」

 あ、自分でツっこんだよ…




「あ~…じゃあ、気を取り直して…。『それだけじゃない』というのは何です?」

 ほっといたら進まないので話を元に戻す。

「ミーティアの事だ。間借りしてて分かったのだが、こいつの潜在能力は人間のそれを遥かに凌駕するもんだ。殆ど神に近い」

「…スペックが高いのは分かってましたけど、そこまでですか…」

「この『神の依代』ってえのは多分、その名の通り神が現世に降臨する際に使用する肉体として創られたものなんだろう。それに耐えうるだけのキャパがあるんだ。だからな…そこに入る魂が普通の人間程度では、出力不足で身体を動かすことすらままならねえはずだ」

「…つまり、ミーティアは神の依代となる肉体を十全に扱うだけの魂の力がある、と」

「そうだ。神の依代たる肉体はもとより、それだけの魂の力があるんだ。その潜在能力は計り知れないってもんだ」

「なるほど…」

 リル姉さんの話では、ミーティアの魂のベースは『異界の魂』で、私の魂を取り込んだことでその性質が変わったということだった。
 強大な力を持つというのは、ベースがそうだったということなんだろう。

「ミーティアの魂はカティアの性質を引き継いでるみてえだからな。エメリールのだけじゃ無く、ディザールのシギルももしかしたら発動できるかもしれねえな」

「あれ?私がエメリール様のシギルを発動できるって話しましたっけ?」

「見りゃ分かる」

 はあ…流石は、ということか。


 と、そんな話を聞いても、私にとっては結局のところミーティアはミーティアだ。
 大切な娘であることに変わりはない。
 そういう想いを、この場の皆にも伝えておく。

「ミーティアが凄い力を持ってるということは分かりました。ですが…この子は私の大事な『娘』です。普通の子供のように、ただ愛情をもって守り育てる…それだけです」

「そうだな、俺にとっても孫ってことだ」

「我らにとってもだな。なあ、カーシャ」

「ええ、もちろんです。…ただ、カティアの外聞も気にしないと。もともとミーティアに来てもらったのは、単に会いたかったという他にその話をしたかったと言うのもあります」

 今15歳の私が、5歳くらいのミーティアを娘って言うのは、確かに外聞がよろしくないね。
 ましてやこれから王女として認めるのであれば、王家としては醜聞を避けるためにも看過できないところだろう。


「…お前たちにその気持ちがあるなら、我の心配は杞憂かもしれんな」

「心配?」

「ああ。人間ってなぁ異質なものを排除しようとするだろう?」

「…そう言う人がいるのは否定できませんね」

「いくら力があろうと、ミーティアの心は無垢な幼子そのものだ。お前たちはこいつに神にも近しい力があると聞いてもなお…ただ庇護すべき者として見ているが、そうでは無いものもいるだろう。だから守ってやってくれ、って言おうと思ったんだが…既にそのつもりみてえだし、その必要はなかったな」

「いえ、ミーティアの事を考えてくれてありがとうございます」

「おう。なんせ俺にとっても大切な宿主だかんな」

 …このひといつまで居候するつもりなんだろ?








「…と言う訳でミーティアちゃんのことなんだけど…あなたがこれまで対外的に説明してきた通り、養女と言うことにしようかと思うのよ」

 母様が先程言いかけた話の続きをする。
 まあ、それが順当だよね。

 当のミーティアは母様の膝に抱かれてうとうとしている。
 お菓子食べ過ぎでお腹いっぱいになったね。
 全くもう…


「ただ、その特徴的な髪も含めてカティアと容姿が似てますから…王家の親類の子を引き取った、と言うことにしましょう」

「口裏合わせは必要だがな、既に協力してもらえそうな外戚の目星は付けている」

「…ありがとうございます。すみません、正直なところそこまで深くは考えてませんでした」

 王族として生きて行くなら、こういった諸々も気にしないといけないんだね。

「なに、これから色々覚えていけば良いし、何も一人で考える必要などないのだ。先に言った通り、一人で国は動かせんのだからな。大事なのは、信頼の置ける者の意見はよく聞くということだ」

「はい、よく覚えておきます」

 王に限らず、組織のリーダーと言うのはそういうものだろうね。


 人を見極め、信頼し、任せ、時に決断する。
 人の上に立つ者が求められるのはそういう事なのだと思う。
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