上 下
100 / 683
第五幕 転生歌姫ともう一人の転生者

第五幕 5 『モーリス公爵邸』

しおりを挟む

「さて、父上と母上がお待ちかねでしょうから、そろそろ行きましょうか」

「あ、はい。レティシアさん、ありがとうございました。凄かったです。明日乗るのが楽しみです」

「ふふ、喜んでもらえて良かったです(また、あとで…)」

 レティシアさんが耳打ちしてきたので、軽く頷く。

 初めて出会った私以外の転生者だ。
 私としても色々と話がしたい。

 機関車が保管してある車庫のようなところから、公爵邸に戻って本邸に入って行く。

「「「いらっしゃいませ、お客様。リュシアン様、レティシア様、お帰りなさいなさいませ」」」

 正面入口から入ると、ずらっと並んだ使用人、メイドさんたちが出迎えて挨拶をしてくれる。
 流石は公爵家の使用人というだけあって、息ピッタリで動きも揃って洗練された感じだ。

 そして、使用人たちが並んだその先にはリュシアンさんによく似た雰囲気の紳士と、こちらはレティシアさんを大人にしたようなご婦人が。

「皆様、ようこそおいでくださいました。私は当家の主人で、アンリ=モーリスと申します」

「妻のアデリーヌです」

 リュシアンさんとレティシアさんの両親でモーリス領の領主ご夫妻だね。
 最高位の貴族の方たちだが、丁寧で物腰が柔らかく、優しそうな雰囲気に少しホッとする。

「本日はお招き頂きまして誠にありがとうございます。私はダードレイ一座の座長を努めておりますダードレイと申します」

 流石に今回は父さんも真面目に挨拶をする。
 …やればできるじゃないの。

「同じく、座員のカイトです。お会い出来て光栄です」

「カティアと申します。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。リュシアン様には大変お世話になっております」

「公爵様、奥様、お久しぶりです。本日はお世話になります」

 父さんに続いて、カイト、私、ルシェーラも挨拶をする。


「イスパルの臣下として、カティア様を我が家にお迎えするという栄誉にあずかり、大変嬉しく存じます」

「えと…私のことはどこまでご存知なのでしょうか?」

「カティアさん、父と母には私の知り得たことは全て報告しております。申し訳ありません」

「あ!いえ、それは当然だと思いますよ。ただ…まだ正式に認められてるわけでもないのに、そういうふうに扱われるのがちょっと心苦しいと言うか…」

 未だピンと来てないし、将来的にそういう立場になるかも知れないという事も想像が出来ていない。
 だけど、ディザール様との約束もあるし、私にできる事が広がるのなら真剣に考えなければならないだろう。

「ふむ…確かに、これまで市井で過ごされておいでなら戸惑われるでしょうな。しかし、カティア様の望む望まないに関わらず、今後は王族として振る舞わねばならない場面も出てくるでしょう」

「…ええ、それは分かっています」

 あの教団を止めるためにも、私の王族という立場はあった方が色々動けるだろう。
 だけど、以前リュシアンさんに言った通り…私はダードレイ一座の歌姫でありたい。
 両方を求めるのは、我儘なのだろうか…?

「ご理解されているのならば私がこれ以上あれこれ言うことではありませんな。なに、焦らずとも良いのです。ご自身でじっくり考え、結論を出すのがよろしいでしょう」

 私の葛藤を見透かしたかのように、優しく助言してくれる。
 最初の印象通り優しい人みたいだ。

「はい、ありがとうございます」


「あなた?皆様お疲れなのですから立ち話はこれくらいにして、皆様をお部屋に案内するのが先じゃないかしら?」

「おお、これは失礼しました。先ずはお泊りいただく部屋に案内致しましょう。晩餐の用意が出来ましたら邸の者がお迎えにあがります」


 と言う事で、先ずは今日泊まる部屋に案内してもらう事に。
 一人につき一部屋(ミーティアは私と一緒)、それぞれ使用人に案内してもらう。







「カティア様のお部屋はこちらでございます」

 とメイドさんに案内された部屋は…
 …絶対客室じゃないよね、コレ。

「ママ、おへやがすごく広いの!」

「そうだね~…」

 まあ、王族を下手な所に泊めるわけにはいかない、って事かな…
 う~ん…色々と気を遣わせちゃって逆に申し訳ないなぁ…
 この辺、【俺】の小市民意識がどうしても出てきてしまう。
 もうあんまり気にしない方が良いかな?

 入口を入って直ぐの部屋は使用人の控室らしく、御用があったらお申し付け下さい、だって。

 実際に私が過ごす部屋は更に奥、まず広々とした居間が出迎える。
 そこから浴室、寝室などの各部屋に繋がっているようだ。

「ママ~!ベッドもすごいよ~!」

 と、室内探検していたミーティアが報告してくる。
 彼女が言うとおり、天蓋付きの豪奢なベッドはキングサイズを優に超え、10人くらいでも寝られるんじゃ無いだろうか?


 広すぎて落ち着かないけど、取り敢えず居間のソファに座る。

「夕食…晩餐があるって言ってたよね。正装に着替えたほうが良いかな?」

 そう思ったとき、部屋の扉がノックされ声がかかる。

「カティア様、よろしいでしょうか?」

「あ、はい、どうぞ」

「お寛ぎのところ失礼致します。カティア様、御召替えであればお手伝いさせていただきます」

 …私の呟きが聞こえたかのようなタイミングだね。

 最初は断ろうかとも思ったけど、彼女の仕事だろうし…あとで怒られるかもしれないと思い直して頼むことにした。

 私が了承すると、続々とメイドさんたちが部屋に入ってきた。

 …え?
 何か大袈裟すぎじゃない…?









「こっちのドレスもお似合いよ」

「いいえ、こちらの方がカティア様の可憐なイメージにぴったりだわ」

「何言ってるの、カティア様のお美しい髪を引き立たせるには、この色のほうが断然良いわよ」

 …何やら私が着るドレスの事でメイドさんたちが揉めている。

 お風呂に入ったあと、マッサージやら香油やらいろいろケアされ、さあ着替えを…というのが今の状況だ。

 最初は私が持っているドレス(以前、リファーナ様に貰ったやつ)に着替えようとしたのだが、是非私達に選ばせてほしいと言われて、そのあまりの勢いに押されて思わず了承したのだが…

「とにかく!モーリス公爵家メイド隊として無様な仕事はできないわよ、皆!」

「「「おー!」」」

 …あれ?
 私の中のメイドさんのイメージと何か違う…

「申し訳ありません、カティア様。普段レティシア様があまりお世話をさせてくれないので…カティアさまのお美しさに、荒ぶるメイド魂が触発されて張り切ってるのでしょう」

 そう言うのは、私を案内してくれた…確かパーシャさんだったかな。
 メイドさんたちの中では高い地位の人みたい。
 しかし、メイド魂って荒ぶるものだったのか…

 レティシアさんは…まあ、作業着つなぎで作業してるところを見ると、あまりお嬢様っぽくは見えないしね。
 もしかして前世は男だったり?

 それにしても、ルシェーラと言いレティシアさんと言い…私が出会う貴族令嬢は何でこう…令嬢っぽくないのだろうか。
 ルシェーラは口調はそれっぽいんだけどねぇ…


 ちなみに、隣ではミーティアもお世話されてる。
 時々、「きゃー!可愛いっ!」とか「うにゃー!?」とか聞こえてくるよ…


「では、御髪を整えさせていただきますね。[霧風]、[熱風]…」

 パーシャさんが、霧を発生させる魔法と熱風の魔法を巧みに調整して髪を整えてくれる。
 これ、結構繊細なコントロールが必要なんだけど、流石は公爵邸の使用人ともなると優秀な人が揃ってるんだろうね。


「ほんとう、お美しい髪ですね…レティシアさまの眩いばかりの黄金も素敵ですが、カティア様の髪色はまるで星の光のような神秘的な輝きです…」

「あ、ありがとうございます…」

 ストレートに褒められてちょっと照れる。
 そして、星の光というくだりで忌まわしき二つ名も思い出してしまった…



 そんなふうに、張り切ったメイドさんたちに徹底的に身嗜みを整えられて、私達は晩餐に向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

真紅の髪の女体化少年 ―果てしなき牝イキの彼方に―

中七七三
ファンタジー
ラトキア人―― 雌雄同体という特性を持つ種族だ。周期的に雄体、雌体となる性質をもつ。 ただ、ある条件を満たせば性別は固定化される。 ラトキア人の美しい少年は、奴隷となった。 「自分は男だ――」 少年の心は男だった。美しい顔、肢体を持ちながら精神的には雄優位だった。 そして始まるメス調教。その肉に刻まれるメスのアクメ快感。 犯され、蹂躙され、凌辱される。 肉に刻まれるメスアクメの快感。 濃厚な精液による強制種付け―― 孕ませること。 それは、肉体が牝に固定化されるということだった。 それは数奇な運命をたどる、少年の物語の始まりだった。 原案:とびらの様 https://twitter.com/tobiranoizumi/status/842601005783031808 表紙イラスト:とびらの様 本文:中七七三 脚色:中七七三 エロ考証:中七七三 物語の描写・展開につきましては、一切とびらの様には関係ありません。 シノプスのみ拝借しております。 もし、作品内に(無いと思いますが)不適切な表現などありましたら、その責は全て中七七三にあります。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

処理中です...