【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!

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第四幕 転生歌姫の世直し道中

第四幕 1 『窮状』

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「お、俺たちは盗賊だ!し、死にたくなかったら金目のものを置いて行くんだ!!」

 いま私達の目の前には10人程の男達が行く手を阻んでいる。
 そして、盗賊お決まりの脅し文句を言うのだが…


 ……何というか。
 明らかに慣れてない。
 武器を持つ手も震えていて、全く迫力がない。
 うちのメンバー達も、どうしたもんかと悩んでるようだ。


「おじちゃんたち、なんでふるえてるの~?」

「あ、こら、ミーティア、下がりなさい」

「こ、子供が…お、お嬢ちゃん、危ないから下がってなさい、ほら」


 …う~ん、どう見ても善良そうな農民って感じなんだよねぇ…
 


「おい、おまえら」

「…な、何だ!…でございましょうか?」

「ちょ、調子が狂うな……いいのか?剣を向けてきた以上は、こっちも手加減は出来ねえぞ?命をかける覚悟はあるんだろうな?」

 と、父さんが凄んで言い放つが、実際のところは手加減しまくりだろう。

 もともと人の命を奪う傭兵稼業に嫌気がさして辞めたんだから、うちのメンバーは基本的に人間相手は不殺だ。
 もちろん必要なときにはそれも辞さない覚悟も持っているが。

 今回の相手はどう見ても殺すほどの相手ではない。
 …寝覚めが悪すぎるだろう。


「ひぃ~っ!?すみませんすみません!!出来心なんです許してください!!」

 と、武器を放り出して鮮やかな土下座で謝り始めた。
 …何か、こっちが悪者みたいだよ。
 て言うか、土下座…あるんだね…

 どう見ても普通の農民にしか見えないような人たちと、筋骨隆々のむくつけき男ども。
 絵面だけ見てどっちが盗賊か?と問われたら、十人中十人が後者と答えるだろう。
 はっきり言って獲物に選ぶ相手が悪すぎる。


 とにかく、戦闘は開始されることなく終了。
 いつまでも土下座させておくわけにも行かないし、うちの男どもじゃ怖がらせるだけなので、私が事情を聞くことにする。


「怖がらせてごめんなさいね。良かったら事情を聞かせてもらえませんか?」

「きかせてなの~」
 
 ほ~ら、怖くないよ~。
 かわいいかわいい幼女ミーティアもいるよ~。


(…まあ、この二人も大概見た目詐欺なんだがな)

 うっさい!外野!
 大体、ミーティアをこんな風にしたのはあんたらでしょーが!


「おお…女神様…お許しください。我々はなんと罪深いことをしでかそうとしてたんでしょう…」

 はあ!?
 今度は片膝ついて私に向かって祈りを捧げはじめたよ!?

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!とにかく、事情を聞かせて!」



 そうして、何とか彼らを落ち着かせて話を聞いてみると…

 曰く、近頃になってリッフェル領の領主は代替わりしたらしいのだが、新しい領主は就任早々に税を大幅に引き上げたのだそうだ。
 それも、国の法律で定められている上限をも大幅に超えているのだと言う。
 当然、そんな急激に増税されては、税を納められない者もいるだろう。
 そういった人達に対して特別な救済措置もなく、容赦なく取り立てが行われ、土地や家財を差し押さえられる者が続出。

 結果、今のリッフェル領は貧困層が急激に拡大しているそうだ。

 そればかりでは無く、差し押さえられて住む場所を失った若い女性ばかりが集められて領主のもとに送られている、なんて噂もあるらしい。


「何という愚かな行い…!庇護すべき民を虐げるなど、貴族の風上にも置けぬ外道!!この私が成敗してくれますわ!!」

 あ~…お嬢様って見た目によらず熱血なんだよね~。
 ブレーゼン家はみんな領民第一って考えてるからね。
 もちろん、私だってそんなやつ許せないと思う。
 でも…

「まあ、落ち着け、ルシェーラ。他領の貴族が下手に干渉するのも問題だろう?」

 そうだよね。
 政治の事はよく知らないけど、それぞれの領の政治については領主の裁量に任されている部分が大きいはずだ。
 下手に口出ししたら、逆にブレーゼン家の立場が悪くなるんじゃないかな?
 極端な話、内戦になる事だって無いとは言えない。


「ですが!」

「大体、国の監査官なんかは何してるんだ?」

「…噂では、そいつらもグルだって…」

 父さんの疑問に、盗賊…改め、農民のリーダーらしき人が答える。

「どいつもこいつも腐ってやがるな。…だとしてもだ、こんな大っぴらに動いてるんだ、そうそう隠し通せるもんじゃねぇ。早晩、中央に伝わって沙汰が下るだろ」

 それはそうだ。
 こんな窮状がそんな簡単に隠せるものではない。

「しかし…それを待っていたのでは…それまでの間、我々の村は生きていけない…」

「それを俺らに言われてもな…」

 と、父さんはチラッとルシェーラ様を見ながら答える。
 それを見て、ルシェーラ様が話を引き取る。

「…あなた達、今回が初めて、ですわよね?」

「へ、へい!もう食い扶持がどうにもならなくなって、やむを得ず…すみませんでした!」

「でしたら私が目を瞑れば良いだけの話ですわね…もし被害者がいたら流石に手を差し伸べることはできませんから。…あなた達の村はどれくらいの人数がいるんですの?」

「俺たちも入れて50人程でさぁ」

「それくらいなら何とかなりそうですわ。少々お待ちを…」

 と言って、お嬢様は紙とペンを取り出して、さらさら、と手紙を書き始める。
 そして、それを封筒に入れて、何かシールのようなもので封をする。

「村人を連れてブレゼンタムにお行きなさい。そして、侯爵邸に行ってこれを渡すのです。難民として受け入れの手続きをしてくれるはずです」

 と言って、リーダーらしき人に手紙を渡す。

「ああ…ありがとうございます!ありがとうございます!」

「いえ…今はこれくらいしか出来ませんが…そうですわ、もう一つ。ただ成り行きを待つ必要はありませんものね」

 もう一つ、手紙を書くようだ。
 そして書き終わると、何かを取り出す…
 あれは…笛?

 ピィーーッ!!

 予想通りそれは笛だったみたいで、お嬢様がそれを吹くと甲高い音が辺りに響き渡る。
 すると…

 ばさっ、ばさっ、と音を立てて一羽の白い鳥がお嬢様の肩に止まった。

「ぴぃっ!」

 鷹かな?
 鋭い嘴と爪を持った猛禽類だ。

 お嬢様に喉元を撫でられて気持ち良さそうにしている。
 かわいい。

「よしよし、ぴーちゃん、いい子ね。さあ、お仕事ですわ。これをお父様に届けて頂戴」

 そう言って、足に括り付けてあった筒のようなものに手紙を入れる。
 しかし、名前が…

「さあ、お行きなさい!」

「ぴぃっ!」

 ぴーちゃんは、一声鳴いて返事をすると、ばさっ、と大きく羽ばたいてあっという間に飛び去ってしまった。

「早鳥か」

「はい。あの子は特別ですからね。半日もあれば王都まで届けてくれるでしょう」

 ふえ~、めちゃめちゃ早いね…
 私達の旅程だと、王都まで3週間は見てるのに。
 やっぱり徒歩とは全然比べ物にならないね。

「これで、お父様経由で陛下には伝わるはずですわ。そうなれば早急に動いてくださるでしょう」


「よし!俺らにできるのはそこまでだな、じゃあ先にすすもうか」

「…父さんは何もしてないでしょ」

「何を言う。俺達の圧倒的オーラで無駄な戦いをしなくて済んだんだろうが」

 まあ、そうかもしれないけど。



 ともあれ、確かにこれ以上できることは無いだろう。

 農民の皆に何度も感謝されて見送られながら旅を再開した。











 これまで徒歩だった私とカイトは現在、ミーティアを間にして仲良く馬車の御者をしている。
 
「しかし、これからその問題のリッフェル領に入るんだよね。大丈夫かなぁ?」

「確かに、トップがそんなヤツだと心配だな。若い娘を集めているなんて噂もあるくらいだし、カティアは注意した方がいいかもしれんな」

「…カイトが守ってくれるんでしょ?」

「ああ、もちろんだ」

「えへへ~」

「ママ、うれしそうなの」

 お気づきだろうか。
 そう、これまで私はカイトに対しては『さん』付けしていたのだが、それをやめて口調ももっと親しい感じに改めたのだ。

 何せもう、こ、こ、恋人みたいなものだし?
 ほら、いわゆる、友人以上恋人未満ってやつだ。

 【俺】の意識の葛藤なんてもはや忘れたね!
 私はリア充になるのだ!


「あらあら~、カティアちゃん、だらしない顔になってるわよ~」

「まったく、親の前でいちゃつきやがって。そう言うのはティダとアネッサだけで腹いっぱいなんだよ」


 えっ!?バカップルアレと同じだって!?
 い、いけない、自重しないと…!
 私達は節度あるお付き合いをするんだから!


「…なあ、アイツらの付き合ってるとかそうじゃ無いとか、何が違うんだ?俺にはさっぱり分かんねえんだが…」

「けじめってことですわ。カティアさんたちにとっては重要なことなんですのよ。…まあ、私もゴチャゴチャ言ってないで早くくっついちゃいなさいよ、って思いますけど」

「まあまあ、良いじゃないですか。カティアさん幸せそうですし」

 …丸聞こえなんですけど。
 ナイショ話なら声を抑えなさい。

「そう言えば、リーゼさんはいい人はいないんですの?」

 ほう。
 それは確かに気になるね。

「私ですか…?う~ん、あんまりそう言う事には興味が無いんですよね…」

 まあ、リーゼさんは恋愛より研究って感じだよね。
 でも、案外こういう人の方が、電撃結婚!とかしちゃったりするんだよな~。

「勿体ないですわね。気になる人とか好みのタイプとかは無いんですの?」

「タイプ、ですか?…そうですね…あんまり考えたことは無かったんですが…あ!ロウエンさんとか良いですよね!まぁ、年が離れてるんで、そういう対象として見たことはありませんけど」

「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「…」
「うにゃ?」

 と、みんなで一斉に向こうの方を歩いてるロウエンさんの方を見る…

「「「ない(です)わ~」」」

「?何でです?」

「逆に~、どういうところが良いのかしら~?」

「う~ん、そうですねぇ…常識的だし、気配りがありますし、冒険者としての実力も確かだし、稼ぎも安定してますし、顔だって悪くないですし…」

「…あら~?おかしいわね~、否定する要素がないわ~?」

 …アレ?
 そう聞くと何だか悪くないような…
 評価も別に間違っていない…
 あれ?もしかして優良物件?


「どうしたんスか?オイラの方を見て何か話してたッスよね?」

 流石は腕利きの斥候職。
 自分の話をされてるのに気づいてこちらにやって来たよ。

 改めて見てみる。

「な、何スか。マジマジと見て。照れるッスよ。あ、さてはオイラに惚れたッスね?カイトすまないッスね!」

 …いや、やっぱり無いわ~。
 これはもう、アレだね。
 天性のモテないポジションだ。

「ないわね~」
「ねえな」
「ないよね」
「ないですわね」
「…ないな」
「ないの~」
「いいと思うんですけどね」

「一体何なんスか!?」


 ま、いい人なのは間違いないよ。





 そんな締まらない話をしながら、私達は領境を超えてリッフェル領に入った。
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