63 / 683
幕間
幕間4 『王都にて 2』
しおりを挟む「閣下、奥様から早鳥で手紙が届いております」
「リファーナから?今度は何だ…?」
王都にて連日会議やら調整やらで忙殺されているブレーゼン侯爵アーダッドは、その日も遅くまで執務室で書類と格闘していた。
そんな折に、妻であるリファーナからの手紙を受け取った。
封を開けて目を通すうちにだんだんと表情が厳しくなっていく。
「閣下、いかがなされましたか?何か良くない報せでしょうか?」
侯爵の表情を見た執事が、不安そうに恐る恐る尋ねる。
「ああ、すまねぇ。領の方で厄介事が起きているみてぇだ」
「厄介事…ですか?」
「どうやら、魔物の軍団が発生したらしい」
「何と!?それは…」
「…まあ、大丈夫だろ。領軍は心許ないが、まだあの街にはダードレイ一座の連中もいる。リファーナやルシェーラの手腕もある。軍を動かす目処も立ってるし、広域殲滅魔法の使い手も3人もいるらしいしな」
ダードレイ一座からは色良い返事があったと宰相から聞いていた。
手紙にも書いてあったが、まだブレゼンタムには滞在していて、今回の魔軍討伐にも参加してくれるらしい。
王都に向けて出発する前だったのは幸運だろう。
「王都にいる俺たちにできる事は無ぇ。あいつ等を信じて待つしかねぇだろう」
そして、その翌日。
再び侯爵夫人からの手紙が届いた。
「どうやら、無事に解決したようだな。内容はとんでもねぇ話だが」
軍団は問題なく討伐。
それはいい。
だが、犠牲者が一人もいないというのは喜ばしい事だが、明らかに異常だ。
どうやら、カティアのスキル[絶唱]のおかげらしいのだが…
「魔物の軍団を相手に一人も犠牲者を出さないほどの支援スキル。陛下に報告しねぇ訳にはいかねぇが…」
(全く…ただでさえ印の件で目をつけられてるってぇのに…いや、おかげでウチの領が助かったんだ。何か恩返ししねぇとな…)
「…しかし、星光の歌姫とは随分と派手にぶち上げたもんだな」
Aランク昇格は間違いないだろうし、リファーナやルシェーラが推してるならそのまま二つ名に採用されるだろう。
と、それで侯爵は何か思いついたようだ。
「…いっそ、個人の立場を強くしてしまったほうが良いかもしれん。実績も充分。Sランク冒険者ともなれば、権力者の思惑から身を守る助けにもなろう。陛下は庇護を考えておられるが、他の有象無象が厄介だろうからな」
冒険者の最高ランクはAだ。
しかし、それとは別に、多大な実績を残したものに贈られる名誉称号としてSランクというものがある。
名誉称号とは言え、その威光は絶大だ。
Sランク冒険者とは、いわば英雄。
民衆にとっては尊敬と憧れの対象だ。
ましてや、今回のカティアはただ敵を打ち倒すのみならず、多くの命を救ったとも言える。
その人気は絶大だろう。
今はまだブレゼンタムでしか知られていないだろうが、噂は広まるだろうし、それを後押しする事もできる。
そして、そんな人物に対しては、いかな権力者と言えども無碍な扱いをすれば民衆を敵に回すことになる。
「よし、推薦状は俺が…いや、陛下にも一枚かんでもらうか」
考えを纏め、早速国王へ約束を取り付ける算段をする。
「さて、あいつらも王都に来るんだったな。到着する頃はまだ俺もこっちか…まあ、再会を楽しみにしとくか」
気の置けない友人たちとその娘との再会に思いを馳せ、しばらく物思いに耽ってから再び書類仕事に没頭するのだった。
11
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
私って何者なの
根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。
そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。
とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる