【本編完結済】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!

O.T.I

文字の大きさ
上 下
50 / 683
第三幕 転生歌姫の新たなる旅立ち

第三幕 1 『懊悩』

しおりを挟む
 モヤモヤとしたものを抱えながらも時間は過ぎ去っていく。

 何度かカイトさんには話をしようとしたが、いざ彼を目の前にすると緊張で言葉が出て来ない。
 そんな私の様子に彼は心配してくれたが、曖昧に誤魔化すことしかできなかった。


 そんなふうに懊悩する日々を過ごしていたのだが、プルシアさんからミーティアの服が完成したとの連絡が宿の方に入り、少しだけ気分が上向きになった。

 連絡を受けて早速お店に向かうことにした。



「ママ~?げんきないの?」

「えっ?う、ううん大丈夫だよ!お洋服楽しみだね~」

 いけないいけない。
 ミーティアにまで心配されるほどだとは。
 取り敢えず今はその事は忘れよう。



 気持ちを切り替えて歩くことしばし。
 私達はプルシア魔道具店にやって来た。

 カランカランとドアベルを鳴らして中に入る。

「あ、いらっしゃい!カティアちゃん、ミーティアちゃん。待ってたわ!」

「こんにちは~、プルシアさん」

「おねえちゃん、こんにちは!」

「さあ、早速だけど見てちょうだい!私の傑作を!」

 挨拶もそこそこに、プルシアさんは興奮した様子でまくし立ててくる。
 お、落ち着いて…

「これよ!」

 そう言って取り出したのは、桐箱?のような物。
 蓋を開けると丁寧に畳まれた服が入っていた。

「さあ、手にとって確認してみて」

「は、はい…」

 箱から取り出して広げてみる。

 濃紺色の半袖のワンピースだ。
 ミーティアが着るとおそらく膝くらいまであるだろう。
 裾や袖、襟元には純白のレースで縁取りされており、高級感が漂う。

 手触りは絹のように滑らかで光沢があるが、絹のような繊細さと言うよりも丈夫でしなやかな感じがする。

 襟や袖にはいくつかの宝石のようなものが散りばめられており、おそらく魔力貯蔵の役割を持たせているのだろう。

「どう?今回はサイズ自動調整を付けてるからね、デザイン的には大人になっても違和感がないように落ち着いたものにしているわ」

「はい…とても素敵です!色もミーティアの髪が映えそうな感じですし、凄く似合いそう」

「おねえちゃん、きてみてもいい?」

「もちろんよ!あっちに試着室があるわ」

 といって案内された試着室でミーティアを着替えさせる。



「おお、予想通り…いや、それ以上だわ!」

「本当に…よく似合ってるよ、ミーティア」

「えへへ~」

 ミーティアも私達に目一杯褒められてご満悦のようだ。

「ところで、これってどんな機能があるんですか?」

「え~と、サイズ自動調整の他は…身体能力向上、温度調整、物理魔法結界の発動、継続回復、自動補修…てところね。あ、防刃防汚防臭ももちろん完備よ!まさに私の最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりよ!」

 うわあ…
 やりすぎじゃない?

「そ、そんなに付けて大丈夫なんですか…?」

「まあ、一般販売するにはやり過ぎだと思うけど、一点物だからね。あの預かった服の術式って、サイズ調整以外にも効率的な魔力制御とかすごく参考になったからこれだけいろいろ付けられたのもあるかな」

「う~ん、こんな凄いものをただで頂くなんて…」

「何言ってるの!むしろ私がお金を払いたいくらいよ」

「そ、そうですか…では、有り難く使わせて貰いますね」

「おねえちゃん、ありがとう!」

「うんうん、どういたしまして。私も技術向上が出来たからね。こちらこそありがとうね」

 まあ、お互いwin-winという事で、良かったかな?


 そうして私達はプルシアさんに別れを告げて店を後にした。

 ミーティアはもとの服に着替えたりせずに、新しい服を着たままだ。
 相当気に入ってくれたみたいで良かったよ。






「ママ、もうおうちかえるの?」

「う~ん、そうね…ギルドにでも寄ってこうかな?」

「おそといくの?」

「ちょうどいい依頼があればね」

 私も少し気分転換したいし。
 いつまでも先送りしちゃいけないのは分かってるんだけどね…




 という事でやって来たギルドの依頼掲示板。

 もうピークは過ぎてるし、何度かミーティアも連れてきてるので殊更に注目を浴びるようなこともない。
 一時期はそこかしこでヒソヒソと噂話が展開されていた物だがそれも大分落ち着いたようだ。

 何か近場の採取とかあるかな?

「おい」

「…う~ん、これはちょっと場所が遠いかな…」

「おいこら」

「…こっちは?魔物の生息域かー。ミーティア連れてるからパス」

「おいっつってんだろ!!」

「へっ?…私?」

 さっきからうるさいな~、と思ったら私に話しかけてたのか。
 なんだろ?
 知らない人だけど。
 いかにも粗野な感じの冒険者と言った風体の男。
 脳筋ぽい感じ。

「おう、おめえ!ガキがガキ連れてこんなとこ来てんじゃねぇよ。ここは遊び場じゃねぇんだぞ!」

 …驚いたな。
 ここに出入りするようになってから結構経つんだけど、こんなふうに絡まれたのは初めてだ。

 これはあれだ、テンプレってやつだろうか。

 と、内心ちょっとだけ感動していると、男はますますヒートアップする。
 やだなあ…カルシウム足りないんじゃない?
 私は寛大なのでそんな事くらいでは怒らないけど。
 どうやって穏便に済ませようかな…

「てめえ!!無視するんじゃねえ!!」

「ひっ!!ま、ママ、こわいよぉ…」

 !?
 おのれ…
 可愛い可愛いミーティアを怖がらせるとは…
 万死に値する!!(即ギレ0.5秒)

「黙れクソザコが」

「あ?」

「キサマ、うちの可愛いミーティアを怖がらせておいてタダで済むと思うなよ」

「お?なんだ、やろうってのか?」



(おい、また馬鹿が一人現れたぞ)

(カティアちゃんにケンカふっかけるなんて、余所者だな)

(この間の馬鹿よりはやるみたいだが…)

(…賭けるか?)

(カティアちゃんに金貨一枚!)

(同じく)

(同じく)

(…やっぱり成立しねえじゃねぇか)

(…あ、流石に職員が止めに入るようだぞ)



「待ちなさい!ギルド内では喧嘩はご法度ですよ!」

「あ、スーリャさん、こんにちは(ちょっと落ち着いた)」

「うるせえ!こいつに身の程ってもんを教えてやんだよ!」

「やるなら訓練場でやりなさい!」

(((止めねえのかよ!?)))















「さて、依頼も受けたしお外に行きましょうか」

「うん!」

 決闘?
 終わったよ?

 見た目通りの脳筋だったから大振り躱したところで、思い切りビンタしたら5メートルくらい吹っ飛んでった。
 一応生きてるので問題ない。

 全く時間の無駄だったよ。

 いや、ミーティアから「ママ、つよ~い!」と喜んでもらえたので良しとする。
 ちょっとスッキリもしたし。

 子供の教育に悪い?
 いや、前世ならそうかもしれないけど、この世界だとある程度の力は誇示しなければ理不尽な目にあうからね。



 それよりも、スーリャさんが気になることを言っていた。

 何でも、カイトさんが近々この街を離れてしばらく帰ってこないような事を言っていたと言うのだ。

 …どういう事だろう?
 
 私、勝手にカイトさんも同じ気持ちと思って、ちゃんと話をすれば王都にも来てくれると考えてたけど、そんなことないのかも知れない。

 どうしよう…ますます話をするのが怖くなってきた…

 前向きで楽天的が私の取り柄なんて言ってたけど、全然ダメだ。
 こと恋愛に関しては臆病過ぎてどうしたらいいのか分からないよ…


「ママ?だいじょうぶ?」

 はっ!?
 いけない、またミーティアを心配させてしまった。

「あ、ご、ごめんね。ちょっと考え事してただけだよ。じゃあ、行こうか?」

「うん!」


 取り敢えず今日は近場で対応可能な採取依頼を受けることにした。

 気分転換のつもりだったけど、余計モヤモヤしてしまったよ。
 でも、これ以上ミーティアに心配かけるのも母親として情けないし、悩むのはあとあと!



 と、無理やり意識を切り替えて街の外に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる

O.T.I
ファンタジー
 王立アレシウス魔法学院。  魔法先進国として名高いフィロマ王国の中でも最高峰の魔導士養成学校として揺るぎ無い地位を確立している学院である。  古の大魔導士アレシウス=ミュラーが設立してから千年もの歴史を刻み、名だたる魔導士たちを幾人も輩出してきた。  フィオナは、そんな由緒正しきアレシウス魔法学院の一年生に所属する15歳の少女。  彼女は皆から『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたが、とある秘密を持っていた……

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木
ファンタジー
 フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。  ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。  そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。    ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。  オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。  オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。  あげく魔王までもが復活すると言う。  そんな彼に幸せは訪れるのか?   これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。 ※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。 ※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。 ※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...