上 下
54 / 62
本編

誤解

しおりを挟む
「美優…」

「れ……ぁ、相澤君…。どうして…」

電気も消え、誰も居ないと思っていた教室の中から急に声をかけられてびっくりした。
蓮は何故か私の席に座っており、酷く冷たい視線をこちらに向ける。

ガタン
と音を立て、椅子から立ち上がった蓮は無言でこちらに近付いてきた。

明らかに怒っている形相に、その場から動けないでいると、蓮はこちらを見下ろすように目の前に立つ。

「美優、悪い子だね」

「え………?」

「とりあえずソレ脱いで。ブレザーも」

トンと人差し指で胸元を押され、佐藤君が貸してくれたカーディガンの事を言っているのだと気付き、慌ててカーディガンを脱いだ。

絶対何か勘違いしてるけど…今は言う通りにした方がいいよね。

蓮が私を壁際に押しやる様に立った為、佐藤君と少し距離が開いてしまい、カーディガンを手渡す事が出来ない。とりあえず畳んで机に置いてみた。

これでいい?と恐る恐る目線で問いかければ「ブレザーも、早く脱いで」と冷たく言い捨てられる。

何故自分のブレザーまで脱がなければならないのか解らないけど、蓮にとって何か気に入らないポイントがあるのだろう。怒りと悲しみが混ざった顔をする蓮に反論するのも憚られ、蓮の気持ちが落ち着くならばとブレザーを脱いだ。

蓮は、シャツとスカート姿になった私の耳元に顔を寄せ、クンッと匂いを嗅いでみせる。

「俺意外の男の匂いをつけて…俺を嫉妬させたかったの?お仕置きは後でゆっくりしてあげるから、良い子で待ってて」

そう耳元で囁くと、蓮は私を背中に隠すようにして佐藤君へと向き直る。

「ねぇ、どういうつもり?」

蓮の顔は見えないけれど、一段と冷たい声色に心拍数が上がる。

「どういうって何が?」

対する佐藤君は、訳が解らないといった雰囲気だ。

蓮は佐藤君のカーディガンを乱暴に掴み、グイッと差し出した。

「こういう気遣い、迷惑だから。人の彼女にちょっかい出すのやめてくれる?」

「別にそういうつもりじゃ…」

佐藤君の困り果てた声に、私は蓮の後ろから一歩前に歩み出る。

「れ…蓮。佐藤君は私が寒いって言ったからカーディガン貸してくれただけだよ。ちょっかいとか…蓮が思ってる様な意味は無いよ」

しばしの無言の後、蓮はぐっと言葉を飲み込んでくれた様に思う。

「………。美優、帰るよ。鞄は俺が持つから、コート着てきて」

喧嘩にならなかった事にホッと息をついた。佐藤君をチラリと見れば、笑顔で頷いてくれる。
きっと大ちゃんには上手く話してくれるって事だよね。大ちゃんには悪いけど、今日は蓮と一緒に帰ろう。こんな状態でほっとけないし。

私はブレザーを手に持ち、急いで教室の後ろにあるロッカーにコートを取りに行く。


ガタンッ!!!
「お前っ!ふざけんなよ!!」


蓮の罵声に驚いて振り向くと、佐藤君に掴みかかっていて、何が起こったのか訳がわからない。

「ちょっ…蓮っ!何やってるの?!」
佐藤君の胸ぐらを掴み、今にも殴りかかりそうな蓮に慌てて駆け寄る。

「こいつっ…!!」

マズイ、マズイ、マズイ!
私は蓮が振り上げた拳に「ダメっ!」と腕を掴んだ。

「きゃっ!!」
ガタガタ、バタン!!

身長差があり、非力で運動神経がイマイチな私が格好良く喧嘩の仲裁ができる訳も無く…蓮の肘が肩にぶつかり、バランスを崩し盛大に尻もちをついてしまう。

「美優っ!!」

「い…痛ぁ……」


「おいっ!すごい音が聞こえたけど何が……っ!美優?どうした?大丈夫か?!」

なかなか帰ってこない私達を心配したのか、大ちゃんが教室へ来てくれたようで、タイミングが良いのか…いや、悪いのか…最悪な状況での登場となってしまった。

大ちゃんの顔を見た瞬間、この訳の解らない状況に頭がパンクしそうで、ジワリと涙がにじむ。

「だ…大ちゃんっ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

ニューハーフ学園

フロイライン
恋愛
自分の性に違和感を持つ人達を救うために作られた学校「GL学園高校」 しかし、ある日転校してきた森下光瑠だけは、他の生徒とは明らかに違っていた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...