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104.【ミュラ10歳】~???side~

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「まぁ~たその子見てるの?」
同期の奴が呆れた顔で俺の画面を覗きこむ。

「うるさいっ!いいだろ、別に。」

「神様がストーカーとかキモいよ?」

「スッ…ストーカーじゃないし!!」

「転生する度覗いてるのは立派なストーカーです。自覚ない時点でヤバイんだけど。」

「うぐっ…。でも、今は担当だし!これが仕事だ!ストーカーでは…無いと…思う。」

「あぁ、やっと担当になったんだっけ?よくあの先輩から奪い取ったよなー。」

「…今までが間違ってたんだ。あんな事、許されない。」

「まぁなー。あれ?そういえばあの先輩どうなったの?やっぱ追放?」

「当然だろ。」
あんな奴、思い出したくもない。
あの子をオモチャにして…イカれた思考の持ち主だった。

「で?その子、今回は大丈夫なんだろ?なんでまた泣いてんの?」
画面に写し出された女の子は、ここ最近ずっと泣いている。

「システムがまだ正常に戻しきれてなくて…今までの記憶があるんだ。」

あの子の今までの平均寿命は5歳4ヶ月。
最長で9歳2ヶ月。
10歳を迎えた事は一度も無い。

普通は生まれ変わる時に前の人生の記憶が消えるはずなのに、イカれた先輩によって故意にシステムが操作されていた。

幸せな人生なんて一度も無かった。
愛されることも、人の温もりも、生活の基盤である衣食住さえも、あの子には用意されていなかった。
そんな記憶を…忘れる事も出来ずに繰り返していくなんて…どんなに辛いことか…。

『泣いてるあの子を見るのが好きなんだ。俺だけがあの子を救える力がある。だけどすぐに手を差しのべたらつまんないだろ?あの子がぐちゃぐちゃに壊れて、周りの全てを恨んで、誰も信じられなくなってから…やっと俺の出番だ。楽しみだなぁ。わかるか?俺の愛情が。』

あの日聞いた先輩の言葉に反吐が出る。
そんなの愛なんかじゃない。


「でもさぁー、その子今日で10歳だろ?良かったじゃん、順調そうで。」

「順調…と言えるのかな?」

9歳を過ぎた辺りから、あの子は恐怖に怯えていた。今まで越えたことのないボーダーライン。
今回も10歳を迎える前に死んでしまうのではないかと…そう考えるのも無理はない。

10歳を迎えたからといって、あの子の恐怖はこの先も消える事はないんじゃないか…?

先輩からやっとの事で奪い取った担当だけれど、俺があの子を幸せな人生にしてあげられるのだろうか…。

「ひっく…。良かったぁ…。初めて…初めて10歳に…。神様…ありがとうございます…。」

泣きながら呟くあの子の声が画面から聞こえ、俺は暗い気持ちを振り切る。
そうだ、俺があの子を救うって決めたんじゃないか!しっかりしろ、俺!!


ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー

あの頃俺はまだ研修生で、魂の管理担当はさせてもらえず、先輩のサポートについていた。
俺があの子に気付いたのは、あの子が30回目の転生をした辺りだった。

「先輩、あの魂…なんかシステムがバグってませんか?」

「あぁー、いいのいいの。あの子はほっといて大丈夫。あの子は俺のお気に入りだから、お前は気にしなくていいよ。」

ヘラヘラと笑う先輩に、その時は「まぁいっか」ぐらいにしか思っていなかった。

それからなんとなくその魂が気になって、時々覗いていると、おかしな点が幾つもあることに気が付いた。

その魂はいつも「女性、不幸、短命」だった。
通常は、性別や幸福度、寿命が平均になるようにプログラムされている。例えば前の人生が「女性、不幸、短命」だったら、次の人生は「男性、幸福、長寿」という形で、繰り返す人生を平均したらどの魂も同じような点数になるはずなのに…。

「35回目の転生で平均値が10点?!普通85点はあるはずなのに…。」

やっぱりおかしいと思い先輩に報告したけれど、「お前は気にしなくていい」と睨まれただけだった。
研修生の俺が出来る事なんてなくて、その後もただあの子の魂を見守る事しか出来なかった。

こんなに恵まれない人生にも関わらず、あの子はとても優しい心の持ち主だった。どんなに虐げられても親を恨んだりすることは無く、むしろ自分がいけなかったんだと反省していたし、最初のうちは前向きな思考も見られた。頑張って愛されようと努力していた。
それが50回目の転生辺りであの子は人生を諦めたようだった。人を恨んだりする事は無かったものの、どんどん無気力になってしまった。

そこでもう一度先輩に抗議した際、聞いたのがあの言葉だった。
マジでイカれてる。コイツに何を言ってもあの子を救う事はできないと思った俺は、そこからかなり頑張った。業務成績を上げ、研修生から担当を持てるまでに成長した。
しかし、先輩がいる限りあの子の担当になる事はできない。システムの改竄や数々の違反を纏め上げ、漸く先輩を追放できたのはあの子が100回目の人生を終える時だった。

猫の姿でこっそりあの子に会いに行き、涙を流しながら消えゆく命の炎を前に俺は誓ったんだ。彼女を幸せな人生に導くって。

「もう、泣かないで…。俺が君の幸せを守ってあげるから…。君はただ愛されて笑っていればいい。」

泣きつかれて眠ってしまった画面の中の女の子に、そっと手を触れた。

「10歳の誕生日おめでとう。ミュラ。」
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