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第六幕~青年は親友を信じた10
しおりを挟む「―――ルイス」
イグバーンの前に立ちふさがるルイス。
その後ろで、おもむろにエスタが呟く。
ルイスの行為は本来ならばその纏う衣服の証に誓って、絶対にしてはいけないもの。
そして、既もう意味のない行為でもあった。
と、ルイスはエスタに背を向けたまま、その重い口をようやく開いた。
「言っとくが…俺が許せなかったのは“お前”が“エスタ”を死に陥れて、身体を奪ったのかもしれないとずっと疑っていたからだ…」
そう言ってエスタへと振り返るルイス。
そこにあったのは、爽やかで優しい―――いつも見せてくれていた笑顔だった。
「けど“お前”の本心を聞いてようやく確信したよ……“お前”はやっぱそんな奴じゃないって。誰よりも―――俺なんか以上に“エスタ”を想ってくれてて、“エスタ”を守ろうとしてくれてたんだって…」
エスタは瞳を大きくさせる。
「お前は間違いなく―――エスタ・ロンクルーンだよ…!」
直後、エスタの鼓動が大きく高鳴る。
「……ルイス…僕は…エスタで、良いの…?」
全身が震えて止まらなかった。
しかしそれは恐怖や憤りではない。
溢れ出て止まらない感謝に、感動よる震えだった。
「当たり前だろ。つーか、エスタであってもなくても俺たちはもう親友だろ?」
「え…?」
「先に親友だって言って、こんな俺を信じてくれたのはお前なんだ。だから……俺も、何があってもお前を信じるよ」
そう言うと再度、ルイスはエスタへと顔を背ける。
彼の表情はよく見えなかったが、込み上げる涙のせいで、エスタはそれどころではなかった。
エスタになりたいと願ったこの人格を、彼は『親友』と呼んでくれた。
短い時間であったはずなのに、彼はエスタを、天使である僕を、信じてくれた。
僕の願いが、望みが、夢が叶った瞬間だった。
エスタは声では表せない程に感激した。
「……ありがとう…あり、がとう…」
泣き崩れながら何度も繰り返される感謝の言葉。
ルイスは紅潮する頬を彼に隠しながら、二人を庇うように立ちはだかり続ける。
「気恥ずかしいって……けど、俺の方が感謝してるんだ―――エスタ、お前が親友で良かった…ありがとう」
互いに顔を合わせることはない。
しかし、彼らの姿は紛れもなく篤い信頼で結ばれている親友のそれそのものであった。
青年二人の熱い友情話を終始聞いていたイグバーンは、もう一度大げさなほど大きな拍手をしてみせた。
だが、その表情に先ほどまであった笑みも余裕もなく。
くだらない茶番を見終わったとばかりに彼はつまらなそうな顔をしていた。
「はいはい…もう友情云々は良いんだよ。それ以上やると臭くて堪らん」
そう吐き捨て、加えていた煙草を地面に捨てる。
イグバーンはそれを彼らの未来だと当て付けるかの如く、力強く踏み潰した。
「―――で、ルイスく~ん? 君の裏切りは了解したが…この多勢を相手にどうするつもりなんだ? 天使の親友君に助けてもらうのか?」
苛立ちと皮肉を目一杯込め、イグバーンは口角を吊り上げルイスを睨む。
確かにエスタがまた不可思議な力を発揮すれば逆転も可能だろう。
が、生憎彼は精神的疲弊が目に見えて酷く、とても頼れそうにない。
イグバーンの言う通り、この状況は絶望的に不利と言えた。
―――しかし。
だからといって何も用意していないルイスでもなく。
こういった事態も想定して彼は奥の手を用意していた。
「…貴方と違ってこの町の軍人たちは本当に親切でね…感謝しても足りないくらいですよ」
そう言うとルイスは懐から筒状のソレを取り出した。
それを見た直後、イグバーンの表情は一変する。
「二人とも直ぐに耳と目を塞げ!」
その言葉に一瞬動揺したものの、エスタは直ぐに両耳を塞ぎ、力強く瞼を閉じた。
ルイスはピンを抜き、ソレを地面へと振り落とした。
―――その刹那。
筒から眩い閃光が放たれ、爆音が響く。
イグバーン含めその場にいた兵士たちも咄嗟に目と耳を覆う。
だが後方にいた兵たちは状況を飲めず、間に合わずに呻き声や悲鳴をあげた。
「今だ!!」
ルイスの叫びを聞くと同時に、エスタは動き出す。
双眸を開き、彼は瞬時に怯んでいる兵士たちの隙を見つけた。
「ミラース…!」
と、ミラースがまだ座り込んだままであることに気付いたエスタは、慌てて彼女を抱きかかえ、走り出した。
一分一秒と無駄に出来ない。
信じてくれた親友を、自分も信じ貫く。
エスタは無我夢中だった。
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