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第四幕~青年は疑心を抱く9
しおりを挟む「腹へった……と、ミラ―スちゃんは?」
と、ルイスはミラ―スが居ないことに気付き、周囲を見渡す。
エスタは苦笑を浮かべながら視線を上へと向けた。
釣られるようにルイスも視線を上げる。
「…まあ、色々と疲れたみたいでさ、もう寝ちゃったんだ」
そう話すエスタ。
彼はあえて明言こそしないものの、ルイスが不在であったことが原因らしいということはルイスも容易に想像ができた。
直後、ルイスは申し訳なさそうに両手を合わせる。
「すまん、俺がいなかったからか!」
謝罪するルイスにエスタは慌てて両手と頭を振る。
「ううん、ルイスのせいじゃないよ」
そう言ってエスタは勢いよく料理を手掴みし、口へと運んだ。
「ん……ほ、ほら。アークレおばさんのアップルパイも持ってきてくれたわけだし…僕も大好物―――」
にっ、と笑って見せようとしたエスタ。
が、次の瞬間。突然咽てしまう。
どうやら気管に料理が入ってしまったらしく。
ルイスは急いで自分に渡された水をエスタに飲ませた。
それから、二人は互いに顔を合わせ、声を出して笑った。
「……ミラ―スの分は残しておいて、先にいただこうか」
「だな…」
結局。二人はミラース抜きで先に手料理を食べることにした。
久しぶりに食べたアークレの味。
その美味しさにエスタも大満足のようだった。
食事を終えたルイスは寮へと戻るべく、裏戸から外へと出る。
見送りに立つエスタは周囲を警戒しつつ、尋ねた。
「ホントに大丈夫なの? もう遅いし…天使に襲われるかもしれないよ…?」
「大丈夫だって! 伊達に軍人やってないからさ」
気楽に笑うルイスに釣られ、エスタもとりあえず微笑む。
だが、不安が拭いきれないことには変わりない。
ルイスが絶対に襲われない、という保障はないのだから。
「せめて…僕も一緒に」
「だーかーら! 前にも言ったが、被害者は人数に制限なく襲うんだ。二人とも襲われたらどうすんだよ」
「うー…」
口をへの字に曲げるエスタ。
と、ルイスは軍服の懐―――内ポケットに隠してあった拳銃や手りゅう弾らしきものを取り出して見せた。
「いざとなりゃこれがあるからな」
「結構持ってるんだね…」
「今お世話になってる駐屯所の先輩方が持っとけってな」
軍人にしか持つことが許されていない武器の一つ。
その威力は、一般人が持てるどんな凶器にも勝るものだ。
「まあ、この事件の犯人が本当に天使で、お伽噺のような奇怪な術でも使ってこない限りは負けはしないって」
そう言って笑い飛ばすルイス。
彼の話す通り、現に犯人は未だ軍人だけは襲っていない。
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