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第二幕~青年は翼を見る8
しおりを挟む「悪いか悪くないか…それは未だ判らないだろ?」
ルイスの視線は蹲る少女の方へと向けられている。
彼の瞳にはまだ疑念が消えていない。
しかし、それでもルイスはこの少女に手出しはしないと言ってくれた。
エスタにとっては、今はそれだけで充分だった。
と、エスタは少女へと近付き、手を差し出した。
「大丈夫かい?」
だが、直後。
少女の動きが止まった。
硬直しているようであった。
そして次の瞬間。
「ヒャッ…!!」
振り返ることもなく、少女は四つんばいのまま駆け出した。
それはまるで、突然現れた化物かもしくは殺人鬼から逃げるかのようで。
小さく途切れた悲鳴を何度も漏らしていた。
しかし、この居間はそれほど大きくない。
直ぐに部屋隅へと彼女は追い込まれた。
逃げ場の無い少女。
すると、彼女はそのままその場で蹲ってしまった。
彼女の一部始終の動作に顔を顰めるエスタとルイス。
少女は酷く怯えていた。
「…ルイス、彼女は何であんなに怯えてるんだろ…?」
視線をルイスへと向け、エスタが尋ねる。
ルイスは首を左右に振って「判らない」とだけ告げた。
だが、二人は薄々感じてはいた。
この少女が何故こんなにも酷く震えているのかということを。
いや、特異な外見を持つ少女が人を見るなり怯えるということは、既に結論が出ているようなものだった。
昨夜は診そびれていたが、彼女の腕や足についている傷痕もそれを裏づけていた。
「エスタ…もしかするとこの子…」
そう口を開いたルイス。
が、その続きを言うよりも早く、エスタが突然踵を返した。
おい、と尋ねるルイスに答えることなく、エスタはキッチンへと向かう。
そして、直ぐにまた戻ってきた。
手にしていたのは夕食に出した薬草ソースの冷製パスタだった。
「お、おいお前…」
エスタはそのまま少女の真後ろまで歩いていく。
ゆっくり、しかし、こっそりとではなく堂々とした足取りで。
少女は先ほどまで広げていた大きな白い翼で自分を隠すかのように畳み込んでいる。
震えている彼女は終始「来ないで、やだ、ゆるして」の単語を連呼していた。
すると、エスタは少女の背後で屈みこんだ。
「大丈夫…恐いことなんて何もないよ」
そう告げて、エスタは少女の傍らにパスタの入った器を置いた。
直後、少女のお腹からは空腹を報せる大きな音が聞こえてくる。
即座にお腹を抱え、更に丸くなってしまう少女だが、その唸るような音は何度も漏れ出てしまっていた。
「心配しないで…僕は何もしないよ」
そう言って大胆にもエスタは、小さく震える少女の翼に触れた。
今までとは比べものにならないほど、翼が大きく震える。
それと同時に、異質な気配をルイスは彼女から感じた。
咄嗟にルイスは身構え、懐へ手を伸ばす。
と、そのときだ。
少女は意外なことに、ゆっくりとエスタへと振り返った。
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