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第二幕~青年は翼を見る3

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「な、な…なななっ…!」

 煙突から突然の落下物。
 しかもよく見れば、それはもぞもぞと動き出した。 
 影は人のものだった。
 驚きと動揺から、暫くは動けずにいたエスタ。
 だが、呼吸を整わせ、彼は意を決し、その人影に歩み寄った。
 恐る恐る顔を覗く。
 勿論、もう何も誰も落ちてこないことを確認してから。
 その人影は先ほどの靴がよく似合いそうな少女だった。
 この時期には分厚過ぎる灰色のコート。
 裾下から覗く白のスカート。
 フードの下から伺える白肌に桃色の長髪。
 何処からどう見ても、普通の女の子だ。

「な、なんで……?」

 何故彼女がこのような場所から落ちてきたのか。
 様々な思想が繰り広げられるが、おそらくそんなことをしている暇は無い。
 彼女の呼吸が荒いことに気付いたからだ。
 エスタは急ぎ少女の肩を抱きかかえ、ソファーに寝かせた。
 額に手を当ててみたが、熱は無い。
 だが呼吸は乱れたまま。
 何処か打ち所が悪かったのではないかと、申し訳なく思いながらも身体中―――勿論手足のみではあるが―――を診てみようとする。
 たが、突如。
 彼女は身体をよじらせた。

「ぐ、だ…め……っ!」

 両腕を抱き、震えるように苦しみだす少女。
 原因の判らないエスタは焦ることしか出来ない。
 とりあえず、せめて楽な姿勢にさせてあげようと少女の身体を起こし、羽織っていたコートを脱がせた。
 そのときだ。
 彼女の背中から白い翼が現れた。

「なっ、え…?」


 コート下でモサモサと何か動いてはいたが、てっきり背負った荷物だろうとエスタは思っていた。
 まさか翼が現れるとは、想像もしていなかった。
 しかもその翼はまるで生きているように動く。
 
「……いや、まさか……」
 
 広げた両手以上の長さはある、大きな翼。
 ばさりとそれが開くと、彼女の翼からは白い羽根が綻び落ちる。
 部屋中に舞い散るそれは、まるで雪のように見えた。
 動揺を隠せず、エスタもまた一人呼吸を荒くする。

「そんなことって…」

 と、突然。
 少女が瞳を見開かせた。
 彼女はエスタにその藍色の双眸を向け、口を開いた。

「――――やっと、みつ…けた………」

 そう言って、再び彼女は瞼を閉じる。
 そしてそのまま、少女は前のめりに倒れてしまった。
 慌ててエスタは彼女を支える。
 どうやら、気を失ったらしい。
 それまで広がっていた翼も、見る見るうちに畳まれていく。
 一体彼女は何なのか。
 どうしてこの家の屋根にいたのか。
 そして、先ほどの言葉の意味は何なのか。
 頭の中で自問自答が繰り返されるものの、それで答えが出るわけもなく。
 エスタはとりあえず、そのまま寝ることにした。
 






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