上 下
12 / 104

第一幕~青年は再会を果たす3

しおりを挟む









「まあ仕方ないか。5年前にお前からの手紙受け取ったきり連絡つかずだったしな…」
「あ、ごめん…引越しとか色々あって…そのうち連絡とれなくなっちゃって」

 その笑みが苦笑に変わると、ルイスは彼の肩へ腕を回した。


「別に気にすんなって! 過去のことよりもこれからが大事だろ? なんたって俺たち親友なんだし」

 親友。
 その言葉に異様なくらいのくすぐったさを、エスタは感じた。
 このドガルタに来てから一度も聞かなかった、言わなかった言葉。
 ずっと昔からの夢のままの言葉。

「そうだよね…僕たち親友だもんね!」
「…そうそう!」

 気がつけばエスタも腕を組み返し、二人は声を出して笑った。

「あ、そうだ! 積もる話もあるけどさ、これからアークレおばさんのところに行くんだ。一緒に行こうよ」
「誰だよそのおばさん」
「僕がお世話になってるおばさんなんだ。喜ぶよ、おばさんもきっと」

 そう言うなりエスタはパンを詰めたバスケットと小麦粉の代金を手にルイスの腕を掴む。
 先ほどとは立場が逆転し、困惑するルイスを後目にエスタは店を飛び出た。
 今から駆けて行けばバスの出発時間には間に合う。
 二人は力の限り、駆け出していった。





 バスにはギリギリ間に合い、乗り込むことが出来た。
 後はドガルタの町を出て十数分程度でアークレおばさんの工場へと辿り着く。
 町外れも外れ。
 原野の真ん中と言った場所にあるおばさんの工場は丁度、目の前が停留所となっていた。



 辿り着いた精製工場は煙を上げ、夕方だと言うのに未だ休まずに動いている様子。
 アークレおばさんの工場には毎日トラックで何台もの小麦が運ばれてきて、それを機械で粉へと精製し、世界中に運ばれていく。
 世界でも有数な工場なのだ。
 そんな工場内に気兼ねなく入っていくエスタ。
 それに続くルイス。
 工場員はルイスの軍服に気付くと一同揃えて目を丸くする。
 その理由は先のエスタと同じであろう。
 と、そこへアークレおばさんがおたまを片手にやって来た。

「待ってたよエスタ! って、おや…お隣さんは?」
「僕の親友だよ」

 アークレおばさんはまじまじとルイスを眺め、それから大きく頷く。

「なかなかの二枚目だないか」
「それは感謝の極み…しかし貴方の美しさには敵いませんよ、アークレさん」

 ルイスは丁寧に頭を下げると、アークレおばさんのおたまを持たない手を優しく握りしめ、その手の甲へとキスを落とす。
 当然、工場で働く男連中とエスタは驚愕する。
 一方でアークレおばさんはまんざらでもない顔を浮かべ、笑みを漏らした。

「おやおや…女性の扱いも二枚目だねえ」
「いえいえ、それほどでもありません」

 アークレおばさんはすっかり気を良くしたのか、おたまを振りながら鼻歌交じりにエスタたちを奥の部屋へと案内する。
 と、エスタはルイスへこっそり耳打ちした。

「ホントに性格変わったね、君…」
「そ…そうか?」

 ルイスは笑い飛ばして見せると、アークレおばさんの待つ食卓へと先に向かう。
 だがエスタは依然として彼の変貌に困惑したままだった。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!

川乃千鶴
ファンタジー
気が向いた時しか仕事をしない。好きな言葉は「一攫千金」。 ぐうたら魔女のエファリューは、家賃滞納、ツケの踏み倒しの常習犯。とうとう首が回らなくなり、夜逃げ同然で街を抜け出した。 夜の闇にエファリューは嘆く。 「ああ! なんの見返りも求めず、ただただわたしをひたすら甘やかして養ってくれる、都合のいいお貴族様をお恵みください!」 逃亡先で出会ったのは、隣国の姫君の側近を名乗る眉目秀麗な青年アルクェス。 彼はエファリューに跪き、熱烈に彼女を求めるのだった。 「何もしなくていい。ただただ其処にいて、気が向いた時に微笑んでくれる程度でいい。だからどうかお願いいたします! これから一生、貴女を囲う許しをください!」 しかしそれは求婚でもパトロン宣言でもなくて 行方不明の姫君の身代わりを務めよとの脅迫であった──。 ※舞台設定的に「六畳一間」の概念はありませんが、イメージが伝わりやすいようこの単語を使用しております。 ※聖職者の階位等の名称は造語です。ふわっとファンタジー設定です。 ※他サイトにも同名義同タイトルで連載中です。まとまってからこちらに移しています

タロットチートで生き残る!…ことが出来るかなあ

新和浜 優貴
ファンタジー
占い好きが高じて自分でもタロット占いをしていた女子校生、入江杏子(いりえ あんず)。ある日、勇者召喚に巻き込まれ異世界へと渡ってしまう。 勇者として呼ばれた他の三人は、強力な神の加護をいくつも授かっていた。一方杏子が授かった加護は最弱と名高い占術神の加護一つだけ。 追い出されるように城を出た杏子は、様々な事件に巻き込まれながらも異世界を旅していく。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...