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第一幕~青年は再会を果たす2
しおりを挟む『ドガルタ』の南部、商業区の一角にある小さなパン屋『ロスデ』。
昼時になれば町唯一のパン屋ということもあり、最も多忙な時間を迎える。
夕方頃には焼きあがった全てのパンが売切れてしまうほどの人気店だ。
今日も正午の戦を無事に乗り越え、『ロスデ』は完売御礼の閉店となった。
入り口の扉に閉店の札を掛け、店内に入っていく―――このパン屋『ロスデ』の若い青年店主。
金髪金の目。やや細身の至って普通の青年。
他に店員はおらず、彼一人で経営していた。
空っぽ状態の店内清掃を粗方終えると、彼は次いで今日の売上の計算を始める。
それらが全て終わった後、彼は作り置きしていたパンと小麦粉の代金を持って出掛けの仕度をする。
今朝注文していた小麦粉を届けに来た中年女性―――アークレおばさんの家に向かうためだ。
アークレおばさんは青年がこの町でもっとも信頼している唯一の人物であり、おばさんも青年を我が子のように接し、面倒を見てくれた。
彼がこの町に来てからずっと、だ。
そうした恩もあり、店を閉しめては彼女の家で夕食をご馳走になることも、もう日課となっていた。
アークレおばさんの家、とは『ドガルタ』の外れにある小麦精製工場のことだ。
今からバスに乗って行けば、ちょうど夕飯時に辿り着ける計算。
なのだが―――。
この日はいつもと違っていた。
否、今この瞬間から、彼の日常が変わる。
突然開くドア。
ベルの音がリーンとなった。
それは客人が来た合図だった。
カウンターにいた青年は慌てて顔を上げた。
「あ、お客さん。今日はもう閉店したんです」
しかし、その客はパンも何も並んでいない店内へ、気にせずといった様子で入ってくる。
客、と思っていたその人物は、その身に白銀の軍服を纏っていた。
それを見たことが無い青年ではなかった。
それは、世界唯一の国家―――正式名称、ガーディ=ウェリントン=ハーレー軍国の軍服だった。
「あ…」
思わず硬直してしまう青年。
軍がこのパン屋に訪れることはまず無かった。
昼時に来ている軍人もいるにはいたが、皆顔馴染みのおじさんたちで、階級も軍曹止まり。
しかし、この来客者が付けている胸章はそれらとは違う豪華さであった。
そもそも、長身で端正な顔立ち―――二枚目と言える黒髪黒目の青年など、ここいらでは噂さえ聞いたことがない。
そんな見知らぬ軍人がここに何の用なのか。
もしや何かこのパンに問題があったのか。
それとも、別の問題か。
自分の、問題なのか―――。
若いパン屋の店主は無意識に呼吸を粗くさせる。
顔は青ざめ、血の気はみるみるうちに引いていった。
だが、彼の不安は杞憂であった。
その軍人は真面目かつ気難しそうな表情を、破顔させたのだ。
「久しぶりだな! 会いたかったぜ、エスタ!」
突然の言葉に困惑し、呆然とする若いパン屋の店主―――もとい青年エスタ。
その一方で満面の笑顔で、しかも親し気にカウンターへ腕を乗せてくる男。
親し気とも馴れ馴れしいとも取れる行動にエスタは先ほど以上の動揺をし、脳裏をフル回転させ続ける。
この世の終わりだとでもいう顔を見せているエスタへ、男は口を尖らせた。
「ああ! 忘れてるな、その顔は…ほら、俺だってば! ルイス・ダーワンローゼだよ!」
ルイス・ダーワンローゼ。
その名前を聞いて、ようやくエスタは頭の中、記憶の断片にあった彼の名前と合致させた。
直後、エスタは瞳を見開き、口を大きく開ける。
「あーっ! まさか…あの、ルイス…!?」
「思い出してくれたか?」
「う、うん…いや、でも久しぶりすぎて…」
雰囲気随分と変わったからさ。
と、エスタは微笑む。
ルイスもまた笑みを返しながら「色々あったんだよ」と言った。
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