22 / 25
5日目~1
しおりを挟む周囲が明るくなり始めて、朝がきたことに気づく。
相変わらずの霧で何も見えない状態だけど、僕はその明るさに心の底からホッとした。
「僕は…どうしたら……」
ヨハンネスさんが迎えにくるのは明日。
だけどもう屋敷には入れそうもない。
入ったら、アンナは今度こそ僕を捕まえてくる。
捕まったら最後、どうなるか、想像もつかない。
「怖い……」
独りだからかなおさらに怖い。
そう思ってしばらくうずくまっていた。
けれど、だんだんと可笑しくなって僕は思わず笑ってしまった。
「怖い、だって…これまでずっと幽霊の子と一緒にいたくせにさ」
色々手伝ってくれたり、話しもしたり、歌も歌ったし、手もつないでいた。
歳は離れていたかもしれないけれど、そんなこと関係ない。
幽霊だったって事実も、怖いけれど、関係ない。
たった2,3日の付き合いだったとしても、アンはまちがいなく僕の友だちだから。
「僕が…助けないと…アンを助けてあげないと……」
じゃないとアンはまた、ずっと独りぼっちになってしまう。
僕はそう思い、立ち上がった。
覚悟を決めて歩き出した。
もう、依頼なんて関係なかった。
僕は、僕が助けたいと思ったから彼女を助けにいく。
そうして僕は湖の方へと向かった。
エーデルヴァイス夫人の日記によると、アンを助ける方法はこの湖にあると書かれていた。
この湖の底で眠るアンを供養してあげれば、アンはきっともう独りぼっちで屋敷をさまようことはないという。
けれど、残念だけど僕は神官や霊媒師じゃないから祈ってもどうにもならないし。
どうしたら供養できるかも、よくわからない。
「どうしよう…」
静かにさざめく湖を見つめながら、僕は呆然と立っていた。
そんなときだった。
オニイチャン……
アンの声が聞こえた。
と思ったら、その次には僕は湖の中に引き込まれていた。
(うぅ……いき、が…!)
冷たい冷たい湖の、暗い底へ底へと僕は引きずり込まれていく。
真っ暗な湖の底は、屋敷の真っ暗闇とよく似ていた。
そんなところから、アンが呼んでいる気がした。
オニイチャン…
どこからともなく聞こえてくるアンの声。
アンが、彼女が呼んでいる。
きっと、アンを助けるためにはこうするしかない。
僕は彼女の―――アンの本当の名前を叫んだ。
・「アンナ!」―――5日目~2へと続きます。
・「アネット!」―――5日目~3へと続きます。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
霊能者、はじめます!
島崎 紗都子
児童書・童話
小学六年生の神埜菜月(こうのなつき)は、ひょんなことから同じクラスで学校一のイケメン鴻巣翔流(こうのすかける)が、霊が視えて祓えて成仏させることができる霊能者だと知る。
最初は冷たい性格の翔流を嫌う菜月であったが、少しずつ翔流の優しさを知り次第に親しくなっていく。だが、翔流と親しくなった途端、菜月の周りで不可思議なことが起こるように。さらに翔流の能力の影響を受け菜月も視える体質に…!
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる