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エーデルヴァイス夫人について5

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   ◆







 夫人が自身の霊感の強さに気づいたのは幼い頃でね。

 そのせいでとても苦労して寂しい思いをしたらしくて…それで笑えなくなったみたいなの。



 その辛い思いから人を寄せつけなくなったけれど、寂しい気持ちは変わらない…。

 だからぐうぜん出会った幽霊と、仲良くなってしまったのでしょうね。

 それが悪霊になってしまうとも気づかずに。

 

 夫人から聞いた話だと、アンナはあの屋敷がかつてホテルだった時代の、経営者の娘だったそうよ。

 明るくおてんばだったようで、それを叱りつける両親は日に日にアンナへひどい扱いをするようになったらしいわ。

 虐待と言っても過言ではなないようなことも…されていたようね。

 それを行っていた場所が今の旦那様の部屋だったらしくて、それでアンナは幽霊になってもあの部屋には入りたがらなかったみたい。



 けれど、それは夫人も同じだったの…

 夫人は旦那様の部屋で、旦那様からいつもひどい扱いを受けていたらしいのよ。

 こんなにも同じ境遇きょうぐうだったからこそ、夫人はアンナに同情してしまったのでしょうね。

 同じように甘いお菓子が好きで、可愛いものが好きで。

 ひどい扱いを受けていて、孤独で、寂しがりやで。

 そして愛称も…。



 おや、教えてなかったわね。

 夫人のお名前はアネット・エーデルヴァイスと言ってね。

 愛称は、アンって呼ばれていたそうよ。

 


 でも、だからでしょうね…。

 こんなにも共通点が多くて、アンナも夫人を気に入ってしまった。

 自分と同じだという思いが、やがて、自分そのものだと思うようになった。

 そして……夫人は憑りついてしまうようになったのよ。



 憑りつかれたせいで徐々に変わっていき、壊れていく夫人に対して、私は逃げることしか出来なかったわ。

 アンナに嫌われたせいで屋敷へ戻ることも出来ず…。

 助けられなかったことが、ずっと心残りだった。



 だから…私の代わりに…。

 夫人を……夫人の笑顔を、取り戻しておくれ……。

 頼んだよ―――。







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