17 / 25
4日目~1
しおりを挟む目を覚まし、欠伸をしながら僕は両手を頭上高く伸ばす。
ふととなりを見るとそこにはアンが眠っていて。
その寝顔に僕は苦笑した。
「ん…オットー…?」
「あ、起こしちゃったかな。おはよう」
するとアンもまた目を覚まし、まぶたを擦りながら起き上がった。
アンも僕と同じく小さく欠伸をして、それからはにかみながら「おはよう」と答えた。
「今日で4日目か…」
ヨハンネスさんが迎えに来てくれるまで後2日。
もしそれまでにエーデルヴァイス夫人の絵が完成しなかったらどうなるのだろう。
いや、それよりも、後2日経ったらやっぱりアンとお別れになるのだろうか。
僕はそんなことを考え、複雑な気持ちになる。
「どうしたの、もしかして怖い?」
アンはそう言って僕の顔を覗き込む。
僕がいつまで経っても屋敷の中に入ろうとしなかったからだろう。
僕は頭を振って笑顔を向けた。
「そんなことないよ。探す場所も後2つだけだなって思って」
するとアンは頷き「そうだね」と、返してくれた。
そうだ、探索する場所も残すは後2か所。
2階奥の左右の通路。
未だ夫人の部屋と旦那様の部屋を見つけていないことから、そのどちらかに2人の部屋があると思われた。
そして、夫人の部屋ならば絶対に夫人の肖像画も飾られているはず。
僕はアンの手を引き、アンはランプの灯りを付けて。
僕たちは屋敷の中へと入っていく。
クスクス
これが運命を大きく変える日になるとも知らないで。
右と左、まずどちらの通路から探索しようかと迷っていると、アンが「右が良い」と言ったから、僕たちは右の通路へと進む。
その通路には奥に扉が1つだけあった。
気をつけながら開けてみると、その部屋はどうやら夫人の部屋のようだった。
これまで同様に室内はボロボロであったが、それでもまだきれいに残されている方だ。
「あ、これってもしかして…」
そこで僕はようやく1枚の絵を見つけた。
色あせているが金製のごうかな額縁に飾られた女性の肖像画。
「これが…エーデルヴァイス夫人……」
そこに描かれていた女性は30代くらいだろうか。
大人らしくも見え、若くも見える美しい顔立ちをしていて。
それでいてどこか悲しそうな、すました顔をしていた。
「確かに笑ってない」
こんなきれいな女性を、どうやって笑顔にして描けばいいのか。
僕は思わずうなり声をあげてしまう。
「ほ、他には…夫人の絵ってないのかな」
そう思って僕は本棚や衣装だんすも開けて調べてみた。
けれど、その辺りには手掛かりになるようなものすらなくて。
自然とため息がこぼれる。
と、そのとき僕はアンが先ほどからずっと黙ったままでいたことに気づいた。
「どうしたの、アン。疲れちゃった…?」
アンは静かに頭を振る。
「少しだけ…寂しいなって思っただけよ」
「寂しい?」
「うん。だってこの絵を描き終えたらオットーとお別れしちゃうから」
本当に寂しそうな顔で俯いているアンに、僕はほほえみかける。
「そんなことないよ。町に行けばいつでも会えるし…っていうよりアンも町に住めばいいんだよ」
迷い込んでこの屋敷にたどり着いたと話していたアン。
それが本当かどうか、今はもう聞くつもりもないけれど。
けどもし、アンが町に行きたいと望むならば、僕は出来るかぎり手伝ってあげたい。
友だちが望むことを、僕は手助けしたい。
そう話すとアンは嬉しそうに日向のように温かな笑顔を見せてくれた。
「本当? ありがとう…」
するとそのときだ。
僕の足下でカツンと何かが当たった。
それはベッドの下にあって。
覗き込んでみるとどうやらトランクケースのようだった。
「アン、ちょっと待ってて…何か入ってるみたいだ」
引っ張り出したトランクケースは頑丈そうな革造りで。
時が経った今でも平気で使えそうなくらい、立派なものだった。
そんなトランクケースを僕は開けてみる。
中から出てきたのは意外にも1冊のノートだった。
僕は慎重にノートをめくっていく。
書かれていた内容からそれは日記らしく、そして書いたのはおそらく夫人だと思われた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる