12 / 25
3日目~1
しおりを挟むこの日、僕はくしゃみをして目覚めた。
射し込む光がいつもよりも明るいと思っていたら―――そうだった、僕は昨夜野宿をしたんだった。
そしてテントの方をアンに貸してあげたんだった。
「おはよう、オットー…風邪引いてない?」
丁度よくテントから顔を出したアンは心配そうに僕を見つめていた。
僕は笑顔で元気を見せて答える。
「大丈夫、僕の家はすきま風だらけで野宿みたいなものだからさ。こんなのいつも通りだよ」
そう言うとアンはクスクスと笑って「そうなのね」と返した。
それから僕たちは簡素な朝食を終えて、早速この日の屋敷探索を開始することにした。
今日は2階の探索…これまでよりも何か嫌な予感がしてならない。
「気をつけていこう。1階よりも不気味だから…」
外は相変わらずの濃霧だというのに、屋敷の中は中で相変わらずの真っ暗闇だった。
アンにランプで照らす役を今日も任せて、僕たち2人は2階に続くらせん階段を上り始める。
一段一段上る度、階段はギシギシと嫌な音を立てていく。
もしかすると床板がくさっていて、突然穴が開くんじゃないかという不安もある。
「床板が抜けたら危険だから手をつないでいこうか」
そう言って差し出す手に、アンは頷いてから強く握る。
相変わらずあの湖のように冷たい手。
そんな彼女の手を温めるように、僕はしっかりと握りながら階段を上りきった。
「2階も1階と同じ造りみたいだね。左右と奥にそれぞれ通路がある」
ただそれだけじゃなく。
奥に続く通路も正面から見て左右2つ存在していた。
つまり通路は全部で4か所あるということだ。
さて、一体どこから探索しようか…。
「まずは手前左右の通路が良いと思うの」
僕が迷っているとアンはそう言って指の代わりに持っているランプで道を示す。
特にアンの提案を否定する理由もない。
僕は賛成だと頷くと、まずは手前左の通路から探索を始めた。
手前左側の通路は1階と同じくいくつもの扉がずらりと並んでいた。
ただ、1階と違ったのは扉にはそれぞれ名前が書かれたプレートが張り付けられていた。
「カミラ…そっちはヒルダ…たぶん仕えていた人たちの部屋だったのかも」
僕はそう言いながら1つの扉を開ける。
室内も1階と全く同じ構造で、埃のかぶり具合も同じだった。
クモの巣に気をつけながら僕は夫人の手掛かりがないか、くまなく探す。
ベッドの下からベッドの中から、窓際に置かれたタンスの中も探した。
「……あっ、これ…!」
そうして探索していく最中、ある部屋でとある書物を拾った。
タンスから見つけたそれはたぶん、誰かの日記だった。
◆
『 ○月×日
今日は快晴。夫人の機嫌はいつもの通りすこぶる悪い。
だからいつもの通り気をつけて焼き菓子を用意しておく。
とても甘くしないといけないから大変だ。』
『 △月□日
今日は雨。夫人の機嫌は良いらしい。
こういう日は焼き菓子を用意し忘れても怒らないし、置物をずらしても怒らないから安心。
けれど、いつも通り夜の外出は絶対に禁止と口うるさく言う。もううんざり。』
◆
これは良いものを拾ったと僕は心躍った。
これでエーデルヴァイス夫人のことが解りそうだからだ。
「けれど、この日記の感じだと夫人はすごくわがままな人だったみたいだ…」
もう1頁捲って日記の内容を確認する。
よくよく読んでいくとこれは日記というよりも、夫人への愚痴を書き連ねたものという感じのものだった。
◆
『 □月〇日
今日は晴れのち曇り。夫人の機嫌は悪い。
もういい歳だからか、最近は可笑しなことばかりしている。
カーテンは開けたくないとか、水は飲みたくないとか。年寄りってあんな感じなのかしら。』
『 ✖月△日
今日は雨。夫人は今日も可笑しい。
今日はいつも以上に変だった。いつものお菓子もいらないと言った。
あんなに大事にしていたアクセサリーも宝石も全部窓から捨てた。もったいない。』
『 △月〇日
今日は雨。けれど夫人は。
突然息を引き取った。
事故ではない。それに病気でもなかったはずなのに。
息を引き取る直前、夫人はまた可笑しなことを言っていた。
貴方たちは逃げなさい、と。どういうことだったのだろう?』
◆
日記はその日を最後に途絶えていて、それ以降は何も書かれていなかった。
「夫人に一体何があったんだろう…」
僕の疑問にアンも沈黙するだけで、何も答えられないようだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔法少女はまだ翔べない
東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます!
中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。
キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。
駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。
そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。
果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも?
表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
どろんこたろう
ケンタシノリ
児童書・童話
子どもにめぐまれなかったお父さんとお母さんは、畑のどろをつかってどろ人形を作りました。すると、そのどろ人形がげんきな男の子としてうごき出しました。どろんこたろうと名づけたその男の子は、その小さな体で畑しごとを1人でこなしてくれるので、お父さんとお母さんも大よろこびです。
※幼児から小学校低学年向けに書いた創作昔ばなしです。
※このお話で使われている漢字は、小学2年生までに習う漢字のみを使用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
オレの師匠は職人バカ。~ル・リーデル宝石工房物語~
若松だんご
児童書・童話
街の中心からやや外れたところにある、「ル・リーデル宝石工房」
この工房には、新進気鋭の若い師匠とその弟子の二人が暮らしていた。
南の国で修行してきたという師匠の腕は決して悪くないのだが、街の人からの評価は、「地味。センスがない」。
仕事の依頼もなく、注文を受けることもない工房は常に貧乏で、薄い塩味豆だけスープしか食べられない。
「決めた!! この石を使って、一世一代の宝石を作り上げる!!」
貧乏に耐えかねた師匠が取り出したのは、先代が遺したエメラルドの原石。
「これ、使うのか?」
期待と不安の混じった目で石と師匠を見る弟子のグリュウ。
この石には無限の可能性が秘められてる。
興奮気味に話す師匠に戸惑うグリュウ。
石は本当に素晴らしいのか? クズ石じゃないのか? 大丈夫なのか?
――でも、完成するのがすっげえ楽しみ。
石に没頭すれば、周囲が全く見えなくなる職人バカな師匠と、それをフォローする弟子の小さな物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
【完結】王の顔が違っても気づかなかった。
BBやっこ
児童書・童話
賭けをした
国民に手を振る王の顔が違っても、気づかないと。
王妃、王子、そしてなり代わった男。
王冠とマントを羽織る、王が国の繁栄を祝った。
興が乗った遊び?国の乗っ取り?
どうなったとしても、国は平穏に祭りで賑わったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる