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2日目~3
しおりを挟む「このまま調理場へ進もう」
その言葉を聞くなり、アンは驚いた顔をしていた。
それはもう行っちゃダメだと言わんばかりの顔だ。
「行かないことには何があるかわからないし…怖いならアンは待ってて。僕だけで行ってくるから」
本当は一緒に来てくれる方が嬉しいんだけど。
アンはしばらく黙ったままでいたけど、やがて小さく頷いてくれた。
「ありがとう。じゃあここでちょっと待っててね」
僕はアンからランプを受け取ると彼女をおいて、調理場の方へと歩き出す。
「ええ…一緒に行けなくてごめんなさい……」
その言葉は僕の耳には届くことはなかった。
通路の突き当り、そこから覗ける調理場は想像していた通り僕の家よりも広かった。
大きな竈に大きな調理台。
鍋やフライパンといった道具もそのまま残されている。
どこかが雨漏りでもしているのか、ピチョンピチョンという水の落ちる音が聞こえてくる。
「外は雨でも降っているのかな…?」
だけど、外から雨の音は聞こえてこない。
というよりも、外の音なんてずっと何も聞こえてはこない。
鳥のなき声も、草木の揺れる音も。
ずっとずっと無音の世界のはずだった。
ガタン
聞こえてきた音は調理道具が置かれている棚の方からだった。
何かが落ちた音だと思って、僕は振り向かないようにした。
ガタッ
ガタン
けれど、それでもなり続ける。
まるで僕に振り向いて欲しいかのように。
ガタン
ガタッ
ガタッ ガタン
きっとネズミかネコが屋敷の中に入り込んだ音だ。
そうだ、そうとしか考えられない。
だから振り向いたって何もない。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
もうガマンできなかった。
振り返ってネコがいただけだったと安心したかった。
だから、僕はいっせいので、で振り返った。
「やっと、みてくれたね」
そこににはなぜかアンが立っていた。
「アン…あれ? ついて来てくれたの…?」
あんなに嫌がっていたのに、結局一緒に来てくれたんだ。
きっと心配してくれたに違いない。
僕はそう思った。
けど、それはまちがいだった。
「おにいちゃんとあそびたくて、きちゃった」
遊びって…それはどういうこと?
そう尋ねようとすると、なぜか僕の身体は動かなくなっていた。
足の先も頭も、指先も。
どうしてか、動かない。
「せっかくだし、おままごとしましょ? おにいちゃんがパパね」
何を言っているの?
そんな質問も出来なくなっていた。
声がなぜか、出ないんだ。
「パパはね、いつもあまいおかしをわたしのまえでたくさんたべるの。たくさんたくさんたくさん…」
気がつけば僕は椅子に座っていた。
目の前の調理台にはヒビの入ったお皿やカップが並んでいて。
その上に乗っているのはクッキーやマドレーヌみたいな焼き菓子だ。
こんなお菓子、どこにあったんだ。
「さ、パパ。たべてたべて」
そう言うとアンは手掴みした焼き菓子を僕の口に放り込んだ。
食べさせてくれなくても自分で食べられる。
僕はそう言いたかったけど、口が思うように動かない。
次々と口の中にお菓子が入ってくるからだ。
「たべてたべてたべてたべてたべてたべて」
口の中のお菓子を噛むひまもなく、アンは次々にお菓子を食べさせてくる。
甘い甘いお菓子の味。
もう無理だよ、アン。
そう叫びたくても叫べない。
「たべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべて」
どうしよう…。
いきが、できなくなってきた。
たすけて、アン…。
やめて、やめ…て……。
おいしいでしょ?
その声が聞こえたときには、僕はもう返事どころか、意識も失う寸前だった。
あれ?
ねちゃうの?
そうだね、なんだかねむくなってきたみたいだ。
そっか、たべたらねむくなるものね
おやすみ、パパ…クスクス……
◆◆◆
…残念です、オットー様。
貴方は探索する場所を間違えたのでしょうね。
きっともう貴方を見つけることは、私には出来ません。
とても残念です。
さようなら、オットー様。
~fin~
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