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化けの皮剥ぐケモノ
しおりを挟む「―――じゃあネコはどうした?」
「ネ、ネコ…?」
「旦那と一緒にネコも亡くなったと…周囲に話してたんだろう? だが、火災現場に死体はなかったらしいな」
これに関しては、本当は軍の資料で見ていた情報であったが、そこは敢えて伏せて話す。
「ネコは…何とか逃げ出しはしたのよ! でも肺をやられたみたいで…結局…」
「なるほど。じゃあ、あんたがそう言うんならば、墓でも発いてみるか?」
「なっ!?」
「あの小屋近くに丁寧に埋葬されてあったからな…状態が良けりゃあ、女将さんの身の潔白が晴れるかもしれないぜ?」
挑発的どころか冒涜とも取れる発言に憤りすら見せ始める女将。
その表情にイグバーンは勝気な笑みを返す。
彼の推測では、ネコは火災で一緒に亡くなったわけではないと睨んでいた。
赤猫信仰のあるこの村では、ネコは人と同じ扱いを受ける。丁重に人と同じ墓に埋葬される。
本当に火災によって亡くなっていたのならば、旦那と共に弔われ、墓地へと埋葬されたことだろう。
が、そうはせず、宿の傍ら―――あのような木陰にひっそりと埋葬していた。
それはつまり、墓地に埋葬できなかった理由がネコの死体にもあったのだろうと思われた。
焼死や関連死でもない。死因の証拠が。
「旦那と一緒に燃やすか埋葬しておけばこうして怪しまれることもなかったんだろうが…あんたには無理だった。ま、そりゃそうだろうな。普段から虐待してきた憎き男となんざ、一緒にしたくなかったんだろ?」
「な、なんで…そんなこと、まで…」
その目を見開いた彼女の表情は、動揺そのものであった。
恐怖すら感じているのか、小刻みに身体を震わせている女将に、イグバーンは続けて追い詰める。
「人目はもうないはずの夜に、手足どころか首元までしっかりと隠した服装で。汗だくで料理……ってのが、そもそも違和感だったんでな。虫が嫌だとかってんならまあわかるが…それでも、調理で腕くらいはまくるだろ、普通はな」
だが突然の来客であったイグバーンの前へ、咄嗟に現れたはずの女将は、そんな腕まくりさえもわざわざ直していた。
何故そうも肌身をひた隠すのか。それは人目どころか自分で直視すら出来なかった。したくなかったのだろう。
では何故したくなかったのか。それは―――。
「暴行の傷痕があり、それを隠すため…だったんだろ? 人前で仲睦まじい姿を見せていたのも、男にそう命令されていたから。だがそれに耐え切れず計画してやっちまったのか。それとも突発的だったのか……って話になると、ネコの件も含めれば後者だと思われるがな」
煙草の先から白煙を漂わせつつ、イグバーンはおもむろに女将の前へと歩み寄る。
が、彼がその腕を掴むよりも早く。
女将はイグバーンから飛び退くように離れ、自らその長袖をまくってみせた。
イグバーンの推測通り、そこには生々しい無数の傷痕がはっきりと残されていた。
「…貴方みたいな人が、もっと早く此処に来てくれていたら…私の運命は変わっていたのかもね……」
思わず漏れ出た言葉。
それは紛れもない本音のように思えた。
彼女の額からは一筋の汗が流れ落ちる。
「そいつは悪かったな……が、俺はそもそもそこまで聖人でも正義の味方でもなくてな。だから今回の件だって別に女将さんの罪をわざわざ暴くつもりはなかったんだぜ?」
「え……」
肩を竦め、そう話すイグバーン。
そんな彼の言葉に困惑しつつも、女将は更に警戒心を高め、眉を顰める。
それも当然だ。
イグバーンにとって、此処からが本題であり、本来の目的で。
そして、女将が本当にひた隠していた事実を暴こうとしている。
「女将さん―――あんたが天使を匿いさえしなきゃな」
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