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調べ推理するケモノ
しおりを挟む―――時刻は戻り。
女将に客室を案内された直後のこと。
イグバーンは独り言を続けながら、おもむろにソファから立ち上がった。
「どれ…とりあえずは、例の火災現場でも見てみるとするか…」
彼は部屋の窓を開けるなり、そこから外へと飛び降りる。
宿の裏手は草が彼の背丈ほどに生い茂っており、手入れはされていない。
この宿は二階建てであり、二階からであればまだ良い絶景も見られたかもしれないが。生憎と山に面したここからでは良い景色すら拝めそうになかった。
「これが物置小屋か? 物置小屋ってよりか石倉だな」
そう呟きつつ、イグバーンは宿の裏手直ぐ傍にあった物置小屋へと近付く。
井戸の隣、頑丈な石を積み立て造られたその物置小屋は、小屋と呼ぶには大きく。イグバーンの客室と大差ない広さと高さがあった。
物置というよりは酒蔵と言われた方がしっくりくる造りだ。
「頑丈な造りだったからこそ周辺に飛び火することはなかったってことか…」
報告書によれば小屋の内部は酷い状態で、焼死した旦那は判別が付かない程であったらしい。
「扉と窓は流石に火災で壊れたってとこか。内部は確かに酷い有様だったろうな」
イグバーンは臆することなく小屋の中を覗き込む。
が、時刻は夜であり、天候もそれほど良くないために、残念ながら内部は明かりがなければよく見えない。
とはいえ、火災から三ヶ月近くも経っているというのに内部には未だ独特の焼け焦げた臭いが僅かに残っているようで。
彼は少しばかり顔を顰めながら、煙草を床に落とし、それを踏みつけた。
が、その際に彼の靴は何かを蹴っ飛ばしてしまう。
「…っと、随分と散乱してるもんがあるが…こりゃなんだ…?」
よく見ると床には何かの金属片が散乱していた。
焦げているが、それはどうやら樽に使用される 箍のようであった。
「そういや物置小屋は元々は古くなった樽の置き場だったと、書いてあったが……」
暫くその場で思案顔を浮かべるイグバーン。
ある程度考えを巡らせた後、彼はゆっくりと物置小屋を後にする。
と、そのときだ。
彼は草むらの一角、丁寧に均された場所を見つけた。
物置小屋からは外れた、大きな楢の木の傍。
そこでは石が添えられ、花が添えられてあり。
つい最近に作られたのだろう小さなそれは、間違いなく墓であった。
「……例のネコの墓か」
資料には載っていなかったネコの墓。
そのネコが如何に大事であったのか、大切であったのかが、そこからよく伝わってくるようであった。
「―――なるほどな。おおよその予測はついたが…肝心なところはつかめてねえってわけか」
客室に戻ったイグバーンは窓を閉めるなり、煙草に火を付け煙を吐く。
室内に白煙が充満していく。
静寂とした部屋の中とは対照的に、外はより一層と雲行きが怪しくなっていた。
風は徐々に強まり、窓はカタカタと音を鳴らす。
「まああの調子じゃあ変に問い詰めるまでもなく、勝手に動いてくれそうだが……気を付けなきゃならんのは―――何かの拍子に暴走しかねねえってことだ…」
イグバーンはそう言うとおもむろに歩き出し、床に置いてあった鞄をベッドの上へと移す。
開けた鞄の中―――荷物の奥から取り出したのは一丁の拳銃だった。
軍の人間でも一部だけが所持と使用を認められている最新兵器。それは対天使用に与えられた武器でもあった。
「念には念を入れよってな……いざという時は迷わず、撃つ」
彼はそう言うとそれを懐に隠し入れた。
「覚悟しとけよ」
その直後。遠く、暗雲の夜空から雷鳴が聞こえてくる。
間もなく、雨が降ろうとしていた。
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