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とある女性の告白1
しおりを挟むああ…やってしまった。
願っていたことではあったけれど、そうなればと望んでいたことではあるけれども。
私は遂にやってしまった。
夫を……この手で殺めてしまった。
夫、と言っても結婚したわけではなく、元は料理番として雇っていただけの男。
そんな男に愛情なんてものはなかった。私も抱いてなんかなかった。
ただ、この男には独占欲が強いという悪癖があった。
それが愛と勘違いして歪んだのか、私を束縛するようになっていった。
私が思い通りに動かなければ暴力で脅してきた。
両親に先立たれ、親族は皆、山を下りてしまっていた私にとって…助けを求める術はなく。
言われるがまま、男に付き従う人生を送る羽目になってしまった。
外面が良く見えるよう男に愛想を振りまかなければ殴られてしまう、脅されてしまう。食事も与えて貰えない。
立場がすっかりと逆転してしまった。
それはもう…永遠の悪夢だった。
―――けれど、そんな悪夢はあまりにも呆気なく、意外な形で覚めた。
その日の早朝。
私へ奴当たることに飽きたあの男は、暴力の先を飼っていたネコに変えたのだ。
か弱いネコ、赤猫様の使いでもあるネコ。大切な、大切だったネコ。
あの男の馬鹿力に耐えられるわけもなく。ネコは縊り殺された。
そのショックと絶望が憤りに変わり、わけがわからなくなった私は近くに転がっていたガラスの灰皿で夫に対抗した。
何度も何度も。
無我夢中だった。
こんな衝動があったのならば、勇気が出せたのならば、もっと早くこうしておけばよかった。
そうしておけば、大切なネコが無駄に命を落とすことはなかったのに。
けれど、問題だったのはこの後だった。
全てが落ち着いて、冷静になって、徐々に私は…怖くなった。恐ろしくなった。
それは罪の呵責なんかではなくて、死という概念に、だ。
人は呆気なく死ぬ。
私の弱り切ったか細い一撃なんかでも簡単に命を落とす。
そして、人殺しを犯した私は死を以って断罪される。それがこの世界の秩序だから。
ああ…怖い、怖い、死が怖い。
私はまだ死にたくない。あんな男のせいで、私の命で償いたくない。
怖い、怖い、助けて、助けて、助けて助けて赤猫様。
そんな私の前に…突如としてそれは舞い降りてきた。
それは恐ろしいものなはずなのに。
恐ろしいものと聞かされてきたはずなのに。
私には赤猫様が授けてくださった幸運だと思った。
どんな手を使ってでも、それが欲しいと思った。
彼らだけが持つその自由が欲しいと、私は願ってしまったのだ。
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