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ある男性上官の指導
しおりを挟むあー…これからする話は、俺らの天使対策特別部隊に非常に重要な内容だ。
他のことは忘れて良いがこれだけはしっかり覚えておけ。
先ず養製天使についてだが―――。
…が、それを説明するには『天使』について話とかねえと、か…。
ま、ガキの頃聞いたおとぎ話なんかでよく知ってると思うからかいつまんで話すが…
『天使』ってのは、この世界にかつて存在していたもう一つの種族だ。
天地を創造した三神の一匹・黒鷹から力を授かったと言われててな、まあ外見的には身体の一部に鳥の特徴を持っていたとされている。
でもって奴らの恐ろしいところはだな、人知を超えた強大な力も黒鷹から与えられていたってことだ。
空は飛べるわ、人間以上の馬鹿力はあるわで…そりゃあただ人間は恐怖もするだろうな。
そんな『天使』どもに人間は武力で対抗し始め、それが後に大戦となるわけだが……この辺は伝記で各々調べとけ。
とにかく。その大戦に見事勝利したのが人間らだったが…。
『天使』どもは最終手段として、自らの身体を灰燼に帰すまで焼き尽くした。
奴らは塵芥となってまで人間を呪おうとした。
その遺灰は『天使』どもの意思を持ち、それを吸っちまった人間は呪われたが如く人を襲い暴れ狂ったと云われている。
これが通称『天使の呪い』のくだりだが…最終的にその呪いの灰は厳重に封印され、めでたしめでたしとなるわけだ。
―――が。めでたくねえんだな、これが。
『天使の呪い』は封印され続けていたわけだが、まあ……何だかんだとあってそれを軍が入手し、有効活用するべく実験に取り入れちまった。
人工的に『天使』を造り出せないかという実験だ。
そうして生み出されたのが『養製天使』ってわけだ。
……ようやっと出てきたな、養製天使。
実験は成功っちゃあ成功だったが、失敗でもあった。
『天使の呪い』を投与した『人間』は『天使』の外見的特徴が必ず現れる。強靭な力も手に入った。
だがな、灰に刻み込まれたままだった『天使』どもの呪いは養製天使となった人間の意識をも奪っていった。
突如として全くの別人格が目覚め、例外なく『人間』を恨み呪い、元の人格を死に追いやる……これが所謂俺らが『天使人格』と呼ぶものだ。
天使人格に誘われ、命を絶った養製天使は驚くことに生き返ることができる。それは後に説明する再生能力の高さ故の現象だろうが。
問題なのは、天使人格に身体を乗っ取られたという形で生き返る、ということだ。
要は、天使人格ってのは養製天使の身体を我が物とするために元の人格を死に追いやっていると思われる。
で、人間であった頃の記憶は継承されてねえらしく、最早全くの別人―――ならぬ別天使となるってわけだ。
これが『天使人格化』だ。そうなった奴らは容赦なく人間を憎み呪い襲おうとする。
だから軍は奴らの一斉処分を決めた。
だが―――この事実に気づいた養製天使どもは、上手く看守を謀っちまってな…悉く脱走しちまった。
それでその尻拭いをして見つけ次第処分しているってのが…俺ら天使対策特別部隊といった具合だ。
それでさっきも言ったが、養製天使は『天使』由来の悍ましいレベルの再生能力を持っている。
致命傷を与えても1、2回程度じゃ死なん。
とはいえ再生能力にも限度がある。それが尽きればやがては死に至る。
が。養製天使の厄介なところはその亡骸自体が新たな『天使の呪い』となっちまうことにある。
決して浄化されない呪いを取り込んだ身体は決して土に還ることはなく。時が経つと勝手に灰となって散る。それがまた新たな『天使の呪い』と成る。
だからこそ養製天使の後始末には『灰化処理』と呼ばれる作業が必要だ。
新たな塵芥となって宙を彷徨う前に、俺らの手で焼き尽くし灰にした後、厳重に封印する。
これが、今最も有効とされる養製天使の対抗手段だ。
しっかり脳みそに刻んどけよ。
でなきゃ―――次に天使に呪い殺されるのは、お前らだからな。
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