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妖精猫は婦人に泣かされた
その2
しおりを挟むその日の仕事がようやくと終わった妖精猫は、マスターの手から直々にお給金を受け取った。
「ほら、今日の分だ」
「にゃにゃ、いつもよりちょっと少ないよ」
「今日食器割っただろうが。その分マイナスしてんだよ」
受け取った金貨を一枚一枚数えて、妖精猫は大切に袋へとしまい込む。
かつては、もらったお給金は全てアサガオへのおひねりとして投げ込んでいた妖精猫であったが。お金でプレゼントが買えるということを学んだ彼は、それから毎年のアサガオの誕生日プレゼントのためにと、こうしてこつこつと金貨を貯めるようになった。
「にゃあにゃあ…もう少しでアサガオちゃんの誕生日だっていうのに…このマイナスは予定外だよ…」
妖精猫はそう言うと、暦を確認して寂しそうに尻尾をだらりと下げる。
彼はお金の使い方の他にも、暦の読み方、文字の読み書きなども、スタッフのみんなに教えてもらいながら学んで覚えていった。
それもこれも。すべてはアサガオの笑顔のため、アサガオとの約束をちゃんと守るためだった。
「…お前は…今年もアサガオにプレゼント、用意する気か…?」
「当然だよ。だって今年で約束から丁度十年が経つんだよ。ようやく、やっと、アサガオちゃんに許してもらえるんだからね」
マスターの質問にそう言って答えると、妖精猫は頭を左右に揺らしながら、楽しそうな顔で色々なことを思いはせる。
アサガオの誕生日プレゼント、今年は何が良いか。前は花瓶をあげたし、その前は砂時計をあげたし、そのまた前は本をあげた。だから何が良いだろうか、とか。
ようやく許してもらえたら一緒に何をしようか。一緒に遊んでくれたりご飯食べてくれたりしてくれるかな。星空とか一緒に見てくれたりととか秘密のお花畑を見に行ったりとかしてくれるかな、とか。
そのときに、アサガオちゃんは楽しんでくれるかな、喜んでくれるかな。笑顔になってくれるかな、とか。
妖精猫は幸せな気持ちでいっぱいいっぱいだった。
嬉しくて、楽しみで、今からアサガオの誕生日が待ち遠しくて仕方がなかった。
「ねえマスター、今年はアサガオちゃんの誕生日は前みたいに盛大なお祝いはしないのかな…?」
「あのな…ありゃあ大奮発してやった特別なお祝いだったんだ。あんなのはそうそう簡単には出来ねえんだよ」
「そうなんだ…また、みんなと一緒にケーキも食べたかったな…」
しかし、例えケーキは食べられなくても。盛大なお祝いじゃなかったとしても。喜んでくれることには変わりない。そしてそれは今年も変わらない。妖精猫はそう信じている。
「……しっかし…お前はさ、よくも飽きずにずっとずっとアサガオの誕生日を祝ってこられたよな…アイツの何がそんなに良いんだ?」
「そんなの決まっているよ、全部さ! 歌も声も見た目だって性格だって美しいしキレイだし可愛いしステキなんだ。大好きなんだ」
迷わずそう答えて、得意げな顔を見せる妖精猫。マスターからどんな質問を投げかけられても、妖精猫は純粋ににんまりとした笑顔で答えてみせる。
だが、そうして彼が浮かれれば浮かれるほどに、マスターの表情は何故かどんどんと曇っていく。
「妖精猫にとっちゃあ何日経っても、何十年経っても…同じってことか。だがそれは…人間にとっちゃあ酷なもんだな……」
マスターはぽつりと、妖精猫には届かない声でそう呟く。
彼のそんな呟きが聞こえるはずもない妖精猫は、再びアサガオの誕生日プレゼントのことを考えていた。
浮かれて浮かれて、そうしているうちにいつの間にかマスターの姿が見えなくなっていたことにも、妖精猫は気づくことがなかった。
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