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第四篇 ~蘇芳に染まらない情熱の空~
24項
しおりを挟む「ただいまー!」
「おかえり。帰って来るのが早かったな…」
「うん。父さんの昼食用意し忘れてたからさ」
自宅に戻るなり父とそんな会話をしつつ、ソラは直ぐに自分と父の分の昼食を用意する。
昼食はそこまで手の込んだものではない。カムフが置いていったパンに適当な具材を詰めてサンドイッチにするだけのものだ。
そうして昼食を終えたソラは早速、自室で作戦の続きを考える。
「やっぱ『エダム山には隠された秘宝がある』って伝説が一番乗ってきそうだよなー」
カムフが語る王国の言い伝えや伝記、絵空事の類には日頃無関心であるソラだが。元からフィクションである空想話や絵空事を考えること自体は嫌いではなかった。
『自分にはいつか、兄のような金髪を靡かせた兄のように美しい王子様が現れるんだ』と、そんな夢を幼少の頃は思い馳せていたものだと、そんなことを思い出しソラの口元が綻ぶ。
「うーん…大昔にアドレーヌ様が……って、そんな大昔じゃ古すぎかな…あっ! 花色の教団の…なんだっけ~…花色の君? 花の君? だっけ、その人がってことにしよう」
ソラは浮かんだ空想を丁寧に紙へと書き残していく。実を言うと彼女は将来作家になりたいと思っていた時期があった。
そのために紙とペンも用意はしていた。売れなくても良いからいつか自分が執筆した本を出してみたいという願望を抱いていた。わけなのだが―――。
そんな夢を既に叶えているという点でもソラはロゼが気にくわなかった。
「あ、違う……花色の君だった。えー…っと、花色の君が昔、この村を訪れたときに―――」
そうして、ソラが夜更けまで考えに考えて書き上げた偽の言い伝えがこうだ。
+
―――昔、花色の教団の開祖と言われる『花色の君』が、このシマの村を訪ねた際。
『花色の君』は持っていた宝をエダム山のとある場所に埋めた。
その宝とは、この世で最も美しく、そして綺麗なもの。
宝を見つけた者はその美しさに心を打たれ、そして涙することだろう。
故に、その宝には『花色の涙』という名が付けられていた―――。
+
ロゼは物事を美しいか醜いかで判断している。
そんな彼ならばこれだけ美しいと書かれてある宝を探さないわけがない。と、ソラは確信し独りほくそ笑む。その笑みには美しさの欠片もないのだが、残念ながらそれを忠告する人はいない。
彼女の部屋では不気味な笑みが暫くの間響き渡っていた。
己の立てた虚言にソラが自画自賛していた丁度の頃。
下の階ではソラの父が椅子に腰かけ、いつものように窓向こうの景色を眺めていた。
穏やかな風にそよぐ庭園や森林の緑たち。
月夜に照らされ幻想的な一枚画となるその光景から、父はふと後方の棚へと視線を移す。
多種の本が並ぶその棚の一角。そこにはいくつかの写真が額に入れられ立てかけられていた。
彼は哀愁含ませるその双眸をゆっくりと伏せ、やがて再び窓の景色を見つめ直した。
翌日。
いつものように外の明かりと鳥のさえずりによって起床したソラ。
彼女は急ぎ着替えた後、いつものように一階へと下りていく。
すると下りた先の食卓には今日も既に食事が並ばれていた。
「あらら、また今日も来ちゃったんだー」
「人を迷い犬みたいに言うなって…」
カムフはソラの父と紅茶を飲みながら話に花を咲かせていたところだった。
「だってホントのことだし」
そう言いながら席に座り食事を始めるソラ。ちなみに今日のメニューは焼き立てパンと温かいシチューだ。
「今日もちゃんとした理由があるんだよ」
と、カムフに言われ、今日もいつものように食事を済ませるなり、ソラとカムフは揃って『ツモの湯』へと向かった。
「―――で、理由って何?」
「いや、それがさ……」
旅館までの道中、直ぐに尋ねたソラに対し、カムフは何故か言葉を濁す。
そして申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
彼がこういう態度を取るとき、大抵は『嫌な頼みごと』があるときだと察し、ソラは顔を青ざめる。
「まさか、旅館の手伝い?」
カムフは祖父のノニ爺と二人で旅館『ツモの湯』を切り盛りしているわけだが。
多忙なときはソラの手を借りることがある。主に女湯の清掃や食事運びと言った簡単な裏方仕事なのだが。ノニ爺の忖度なしなスパルタっぷりは流石の彼女も思わず青ざめてしまうほどなのだ。
しかしカムフは両手とかぶりを左右に振って言った。
「違う違う。手伝いじゃなくってさ…実は……ロゼさんのことなんだ」
それまで青ざめていたソラの顔が今度はみるみるうちに渋くなっていく。
「ええ…」
最早条件反射的に嫌悪感を露わにするソラ。
そんな彼女を宥めつつ、カムフは事の発端を説明し始めた。
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