261 / 322
第四篇 ~蘇芳に染まらない情熱の空~
11項
しおりを挟む 結局、心咲は一日中男子たちの注目の的だった。もう放課後なのに、まだ話しかけられている。私は少しだけ羨ましいと思ってしまっていた。
「おまたせ、帰ろっか」
心咲は男子たちを振りきったようだ。後ろの方で、未練がましく睨みつけてくる視線が突き刺さる。
「......うん」
私はそう言うと、歩き始める。心咲が悪くない事は分かってはいるけれど、嫉妬していないといえば嘘になる。
「それで、卓也くんには告白するの?」
帰り道、心咲は突然そう聞いてきた。
私は慌てて周りを見る。うちの生徒がいたら大変だ。幸い、制服姿の学生は見当たらなかった。
「告白なんてしないよ........」
口許を押さえながらニヤニヤしている心咲を睨みつける。結構からかわれるんだよね。私。
「......心咲はどうなの? 好きな人とかいないの?」
私は、仕返とばかりに聞いてみた。
「私? 私は好きな人いるよ?」
心咲は当たり前のような顔をして、衝撃の真実を告げてきた。私は今まで、そんな人がいる事なんて全然知らなかった。ポカンと口を開け、心咲を凝視する。
「......希美、すごいバカっぽいよ」
私は慌てて開けていた口を閉じる。しかし、相手は誰なんだろう。気になる。
「誰? 誰なの?」
興味津々で聞いてみたけど、心咲は笑うだけで教えてはくれない。こうなった心咲は絶対口を割らないのだ。
私は、もしかしてと思い、恐る恐る聞いてみた。
「......卓也の事好きなの?」
私がそう言った瞬間、心咲が吹き出した。
「あははは! 違う違う! 卓也くんじゃないよ」
そう聞いた私はほっと胸を撫で下ろした。良かった......心咲相手じゃ絶対勝てない......
「そんなに好きなのに、何で告白しないの?」
急に心咲は真剣な表情で聞いてくる。
「......だって、卓也って私の事女の子として見てないもん」
自分で言ってて、悲しくなってくる。思わずうつ向いてしまった。
「でも、好きって言ったら変わるかもよ?」
心咲は優しく、諭すように覗き込んできた。
「......そうかなぁ...検討してみる」
私はそう言うと、ほんの少しだけ溜まっていた涙を袖で払った。
次の日の放課後、帰ろうとしていた私を卓也が呼び止めてきた。
「希美! 今日一緒に帰らね?」
周りにいた何人かの男子がヒューヒューと冷やかしてきた。卓也は、
「そんなんじゃねえよ!」
と追い払う。遠くから、心咲がニヤニヤとこちらを見ていた。私は一緒に帰る事を考えると、自然と顔が赤くなっていくのを感じる。
「もう行くぞ!」
卓也は突然私の手を掴み、引っ張るように下駄箱へ連れていかれた。
「しかし、希美と帰るのも久しぶりだな」
卓也は嬉しそうに笑ってくる。もしかして、私にもチャンスがあるんじゃないか。そう思えるほどの眩しい笑顔だった。
「うん。そうだね」
私は慌てて卓也から目をそらした。今顔を見られたら、死んでしまう。
「うん? どうしたんだ?」
そんな私の思いなど知らない卓也は、肩に手を置き覗き込もうとしてくる。
「何でもないから!」
私は顔を見られないように、走り始めた。これで万が一見られても、赤くなっているのは走ったからだと誤魔化せる。
「待ってって!」
女の私が卓也の足に勝てるはずもなく、敢えなく捕まってしまった。
「......ここで休んでいこうぜ」
卓也が指差した方向には、小さい頃よく一緒に遊んでいた公園があった。
私と卓也は公園のブランコに無言で座る。小さい頃は余裕のあったブランコも、今は結構キツキツだ。横を見ると、何を考えているのか、真剣な卓也の表情に見とれてしまう。
.....もし、今告白したら、どうなるのかな。私は、心咲の言っていた言葉を思い出す。
『でも、好きって言ったら変わるかもよ?』
......そうだ。駄目で元々、言ってみるだけ。駄目だったらドッキリとか、嘘とかで誤魔化せばいい。
私が決心し、告白ようとした一瞬前、卓也が思い詰めた顔で話しかけてきた。
「......あのさ、心咲って付き合ってる奴とかいるのかな」
卓也は真剣な表情で私を見つめてくる。
「......なんで?」
私は薄々分かっていながらも、聞き返した。違っていて欲しい。何かの間違いであって欲しい。そう期待した。
「俺さ、小学生の時からずっと好きなんだよね。高校生になって、心咲、ますます綺麗になったじゃん? 早く告白しときたくてさ。協力してくんね?」
卓也は私を拝むように手のひらを合わせている。
まさか卓也が心咲の事好きだったなんて、全然知らなかった。そっか......
私は、卓也が心咲の事を『好き』とか『綺麗』とか言う度に、心が壊れそうに痛む。そうだよね。私じゃ、やっぱり駄目だよね......
「......卓也はさ、私が協力したら嬉しい?」
泣かないように必死にこらえ、聞いてみる。少し声が震えたかもしれない。
「うん! お願い!」
卓也は、本当に心咲の事が好きなんだろう。今まで見たこともないぐらいに必死にお願いしてくる。
「......分かった。いいよ」
私は笑顔を作り、卓也を見つめる。その顔は、今まで見た事も無いぐらいに輝いていた。でも、その笑顔を引き出したのは私じゃなくて、心咲なんだ......
「ありがとう! 俺頑張るから!」
卓也はそう言うと、ブランコから飛び降り、こちらを向いた。
「あっ! 今日バイトの面接だった! ごめん、俺行くね」
卓也は慌てて時計を見ると走り始める。しかし突然、、ピタッと止まり顔だけこちらを向いた。
「希美が彼氏作るときは手伝ってやるからな!」
そう言うと、走って公園を出ていった。
「私は卓也と恋人になりたかったんだけどな......」
誰もいない公園で一人で呟いてみた。我慢していた涙がこらえきれず、あふれでてきた。
「おまたせ、帰ろっか」
心咲は男子たちを振りきったようだ。後ろの方で、未練がましく睨みつけてくる視線が突き刺さる。
「......うん」
私はそう言うと、歩き始める。心咲が悪くない事は分かってはいるけれど、嫉妬していないといえば嘘になる。
「それで、卓也くんには告白するの?」
帰り道、心咲は突然そう聞いてきた。
私は慌てて周りを見る。うちの生徒がいたら大変だ。幸い、制服姿の学生は見当たらなかった。
「告白なんてしないよ........」
口許を押さえながらニヤニヤしている心咲を睨みつける。結構からかわれるんだよね。私。
「......心咲はどうなの? 好きな人とかいないの?」
私は、仕返とばかりに聞いてみた。
「私? 私は好きな人いるよ?」
心咲は当たり前のような顔をして、衝撃の真実を告げてきた。私は今まで、そんな人がいる事なんて全然知らなかった。ポカンと口を開け、心咲を凝視する。
「......希美、すごいバカっぽいよ」
私は慌てて開けていた口を閉じる。しかし、相手は誰なんだろう。気になる。
「誰? 誰なの?」
興味津々で聞いてみたけど、心咲は笑うだけで教えてはくれない。こうなった心咲は絶対口を割らないのだ。
私は、もしかしてと思い、恐る恐る聞いてみた。
「......卓也の事好きなの?」
私がそう言った瞬間、心咲が吹き出した。
「あははは! 違う違う! 卓也くんじゃないよ」
そう聞いた私はほっと胸を撫で下ろした。良かった......心咲相手じゃ絶対勝てない......
「そんなに好きなのに、何で告白しないの?」
急に心咲は真剣な表情で聞いてくる。
「......だって、卓也って私の事女の子として見てないもん」
自分で言ってて、悲しくなってくる。思わずうつ向いてしまった。
「でも、好きって言ったら変わるかもよ?」
心咲は優しく、諭すように覗き込んできた。
「......そうかなぁ...検討してみる」
私はそう言うと、ほんの少しだけ溜まっていた涙を袖で払った。
次の日の放課後、帰ろうとしていた私を卓也が呼び止めてきた。
「希美! 今日一緒に帰らね?」
周りにいた何人かの男子がヒューヒューと冷やかしてきた。卓也は、
「そんなんじゃねえよ!」
と追い払う。遠くから、心咲がニヤニヤとこちらを見ていた。私は一緒に帰る事を考えると、自然と顔が赤くなっていくのを感じる。
「もう行くぞ!」
卓也は突然私の手を掴み、引っ張るように下駄箱へ連れていかれた。
「しかし、希美と帰るのも久しぶりだな」
卓也は嬉しそうに笑ってくる。もしかして、私にもチャンスがあるんじゃないか。そう思えるほどの眩しい笑顔だった。
「うん。そうだね」
私は慌てて卓也から目をそらした。今顔を見られたら、死んでしまう。
「うん? どうしたんだ?」
そんな私の思いなど知らない卓也は、肩に手を置き覗き込もうとしてくる。
「何でもないから!」
私は顔を見られないように、走り始めた。これで万が一見られても、赤くなっているのは走ったからだと誤魔化せる。
「待ってって!」
女の私が卓也の足に勝てるはずもなく、敢えなく捕まってしまった。
「......ここで休んでいこうぜ」
卓也が指差した方向には、小さい頃よく一緒に遊んでいた公園があった。
私と卓也は公園のブランコに無言で座る。小さい頃は余裕のあったブランコも、今は結構キツキツだ。横を見ると、何を考えているのか、真剣な卓也の表情に見とれてしまう。
.....もし、今告白したら、どうなるのかな。私は、心咲の言っていた言葉を思い出す。
『でも、好きって言ったら変わるかもよ?』
......そうだ。駄目で元々、言ってみるだけ。駄目だったらドッキリとか、嘘とかで誤魔化せばいい。
私が決心し、告白ようとした一瞬前、卓也が思い詰めた顔で話しかけてきた。
「......あのさ、心咲って付き合ってる奴とかいるのかな」
卓也は真剣な表情で私を見つめてくる。
「......なんで?」
私は薄々分かっていながらも、聞き返した。違っていて欲しい。何かの間違いであって欲しい。そう期待した。
「俺さ、小学生の時からずっと好きなんだよね。高校生になって、心咲、ますます綺麗になったじゃん? 早く告白しときたくてさ。協力してくんね?」
卓也は私を拝むように手のひらを合わせている。
まさか卓也が心咲の事好きだったなんて、全然知らなかった。そっか......
私は、卓也が心咲の事を『好き』とか『綺麗』とか言う度に、心が壊れそうに痛む。そうだよね。私じゃ、やっぱり駄目だよね......
「......卓也はさ、私が協力したら嬉しい?」
泣かないように必死にこらえ、聞いてみる。少し声が震えたかもしれない。
「うん! お願い!」
卓也は、本当に心咲の事が好きなんだろう。今まで見たこともないぐらいに必死にお願いしてくる。
「......分かった。いいよ」
私は笑顔を作り、卓也を見つめる。その顔は、今まで見た事も無いぐらいに輝いていた。でも、その笑顔を引き出したのは私じゃなくて、心咲なんだ......
「ありがとう! 俺頑張るから!」
卓也はそう言うと、ブランコから飛び降り、こちらを向いた。
「あっ! 今日バイトの面接だった! ごめん、俺行くね」
卓也は慌てて時計を見ると走り始める。しかし突然、、ピタッと止まり顔だけこちらを向いた。
「希美が彼氏作るときは手伝ってやるからな!」
そう言うと、走って公園を出ていった。
「私は卓也と恋人になりたかったんだけどな......」
誰もいない公園で一人で呟いてみた。我慢していた涙がこらえきれず、あふれでてきた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる