211 / 325
第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~
33案
しおりを挟む「―――なるほど、このナイフから飛び散る特殊な粉に弾き落とされていた針が反応して、飛び込んできていたという仕組みか…」
そう言いながらヤヲはリデから奪い取ったナイフを見つめていた。
それは一見どこにでもあるようなただのナイフだ。
だがその刃先に触れると、欠けたわけでもないのに鉄粉のようなものが飛び散るように出来ている。
飛び散った粉末は皮膚や衣服に纏わりつき、そう簡単には取れないように作られていた。
「この粉末はエナ石から作られてるらしくて、ナイフの起動スイッチを押すと微細なエネルギーを発生させて、刃先が同じ属性で出来ているこの針を引き寄せ突き刺さるっていう仕組みみたい」
リデはヤヲに突き刺さった針の抜き取りを手伝いつつ、そう説明する。
針を抜き取られる度にその痛みで顔を顰めるヤヲ。
だが痛みこそ伴うものの、その針自体はそれほど大きくもなく、殺傷能力は低いと思われた。
「こんな人並み外れた武器を作れるのは…」
「そう、チェン=タンが開発したもの…彼によると『電磁石みたいな仕組み』と言っていたけど…」
ただの石粉と弾き落としたはずの針。
それらが突如、互いを強く引き寄せ合い、まるで仕掛け矢のような武器へと変貌する。
殺傷能力自体は低いとはいえ、こんな想像外の武器を見た敵たちは、誰もが恐れ戦くだろう。
ヤヲも起動源であるナイフを奪っていなければ、未だ訳も分からず針だらけになっていたかもしれない。
「けど結局…貴方の左腕に負けたわ」
「そんなことはないさ。君の言う通り左腕に過信していたところもあった。指摘されてまだまだだと痛感したよ」
ヤヲはそう言って苦く笑ってみせる。
まだまだ力が足りない。
もっと力をつけなければならない。
改めてそう実感するヤヲ。
気がつくとリデも似たような表情を浮かべていた。
が、彼女の理由は自分の力量に、ではなく―――。
「……ごめんなさい、その、穴」
ヤヲの衣服の方を気にしていた。
リデが指差す箇所には小さな穴がいくつも出来ていた。
それは針が刺さった際に貫通して出来たものだった。
「実は…この武器で実践したの、今回が初めてで」
「そんな気はしていたよ」
眼鏡を押し上げながら苦笑するヤヲ。
今回のリデの戦い方には不慣れな動きがいくつかあったと、彼は見抜いていた。
「本番では麻酔薬を塗った針で刺して敵を足止めするためにって作られたものなんだけど……訓練しようにも相手がいないとコツもつかめないし…相手がいたとしても、その…」
「まあ、ニコやレグたちより僕の方が針を弾き易いだろうしね」
そう言ってヤヲは自分の左腕を一瞥する。
事実、左腕にも針は飛んできていたが、突き刺さることなく引っ付いていただけであった。
「ごめんなさい…その腕なら絶対避けてくれると思って…そう思ったら、試さずにはいられなくて……」
リデは顔を俯きながらそう話す。
まるで反省をしている少女のように、その顔は幼く赤く映る。
「大丈夫だよ。僕も良い経験になったから」
ヤヲはそう言うと右手でリデの頭を撫でた。
もう、かつてのように彼女の声が恋人と被ることはない。
だからこそ、こうして優しく穏やかに撫でてあげることが出来るようになった。
そんな一方で、リデは驚いたように慌てて顔を上げた。
「止めて、子供じゃないんだから…」
「僕から見れば子供…というより妹のようなものだけどね」
と、その言葉を言った途端。
リデは今度、不機嫌そうに顔を背ける。
どうしたのかと内心首を傾げるヤヲであったが、直ぐに彼女が機嫌を取り戻したため、それ以上考えることは止めた。
「……それでね、せめて私にお詫びさせてほしいの」
「お詫び…なんてしなくて良いけど」
「だめ、昨日の約束…覚えてる?」
そう言われ、ヤヲの脳裏に浮かんだのは先日のリデの言葉。
『じゃあ…今度、私の私用に付き合ってくれる? それなら貸し借りなしになるでしょ?』
ああ、と頭を抱えつつ思い出すヤヲへ、リデはあるものを強引に手渡した。
「一回仮眠を取ってから…それからこっそり来て? その先で待ってるから…」
そう言い残し、リデはそそくさとその場を去ってしまった。
一人残されたヤヲは未だ抜き終わっていない針を一瞥してから、手渡されたそれを見つめる。
掌に握らされていたもの―――それは臨時用だろうアジト出入り用の『鍵』であった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる