上 下
192 / 298
第三篇 ~漆黒しか映らない復讐の瞳~

14案

しおりを挟む
   







「まさか地下にアジトがあるなんて…」
「寒さに慣れない人も多いけれど、それでも前のアジトより快適よ」

 リデはそう答えつつ地下アジト内の階段を下りていく。
 ランプにより陰りのある横顔の彼女は、うっすらと笑っているように見えた。

「前のアジトと言うのは…何処にあったんですか?」

 と、ヤヲは尋ねてから思い出したように唇を止めた。
 つい出てしまう口癖。
 包帯に隠れたリデの双眸が、まるで此方を睨みつけているかのように見えてしまう。
 ヤヲは咳払いを一つ洩らし、「ごめん」と謝ってから改めて尋ね直した。

「アジトを移したと言っていたけど、前は何処にあったんだ?」
「前は此処からケモチ川の上流にあるニンガという村に居たわ。アジト、と言っても石室みたいな場所を皆で密集して過ごしてただけだったから…大変だったのよ」

 淡々と語る彼女であるが、その口端はやはり微笑んでいるようで。
 その不機嫌ではない様子に、ヤヲは無意識に安堵する。
 
「それで…どうして此処へ…?」
「元々のアジトは此処なの。けれどね…遠征中のアマゾナイトを襲撃するという計画が失敗してしまって…急きょそのアジトへ避難して身を隠していたの。それでほとぼりが冷めたからようやく帰ってきたってわけ」

 そう言ってまた彼女は微笑む。
 だがそれは笑顔と言うよりは、呆れたような冷めた笑みのようにヤヲの眼には映った。
 彼女のそんな様子を見て、ヤヲも苦笑するしかなかった。





 階段を下り辿り着いた先には扉が待っていた。
 ドアノブに掛けられた鍵を解くと、鉄製の扉がゆっくりと開らかれていく。
 扉の奥からは肌に刺さるほどの冷たい風が流れ込んできた。

「アジトの出入り2か所には必ずこの鍵がなければいけない…鍵を持つことを許されてるのは『鍵役』と呼ばれるリーダーに許された存在だけ。つまり、その『鍵役』と行動を共にしないとアジトの出入りは出来ないから注意して」
「随分と厳重なんだね」

 リデは口角をつり上げて見せると「反乱組織も楽じゃないのよ」と、吐露した。
 扉が閉められるとより一層と寒さも暗さも増す。
 と、リデが扉横のスイッチを付け、ようやく部屋中に明かりが広がった。
 天井は想像以上に高く、地下だというのに不思議と息苦しくない。
 壁伝いに掛けられているランプはヤヲが持っているもの以上の明かりを放っていた。

「まるで日差しのように眩しいランプだ…」
「貴方が今持っているランプとは人工エナ石の属性が違うから」
「属性?」

 ヤヲの質問に対し、リデの言葉が止まる。
 彼女の様子からして、今の時代ではどうやら常識らしく。ヤヲは慌てて研究所で調べた知識を辿る。

「えっと、最近発見された―――」
「属性自体が発見されたのは『花色の君』が存命だった古の時代よ」
「えっと、火と水、と…」
「基本属性と言われてるのは火、水、風、大地の4種…けれど、それらを合成させることで他の属性もあるだろうと……現在研究中。と言われてるけれど、このアジトはチェン=タンが発見した『雷』の属性のランプを利用してるのよ」

 自身も知り得ていなかった知識。
 それを淡々と説明するリデに、ヤヲは純粋に感心した。

「凄い、博識なんだね。チェン=タンの書物だけで知ったと思っていた自分が情けないよ」

 隠れ里では知識人として扱われていたからか、自分より博学な者は長老くらいであった。
 だからか比較的年の近い彼女の博識っぷりに、ヤヲは何処か親近感のような、仲間が出来たような感情を抱いた。

「た、大したことじゃないわ…この組織では常識よ」

 そう言って室内を進んでいくリデ。
 どうやらこの組織において、チェン=タンが開発した人工エナ石はそこまで身近なものになっているらしい。
 どこの工場、反乱組織を探しても、ここまでの技術はまず導入されていないだろう。

「思っていた以上に凄い組織と人たちだったんだな…」

 今更になってゾォバという組織の巨大さに気付き、ヤヲはポツリと人知れず洩らしていた。



 地下アジト入って直ぐにある大部屋は、広場と呼べるほどの空間であった。
 そしてそこにはいくつもの兵器らしき機械が並んでいる。
 大筒の付けられているもの、無数の槍が付けられたものなど、様々だ。
 兵器についてはチェン=タンの資料を読んで知っていたものの、実際見るとその迫力さは比べものにならない。
 匂い、重厚感、そして存在感。
 それらがヤヲの五感を刺激し、鳥肌を立たせた。

「これが私たちの一番大きな戦力…これがなければ国に対抗できないわ」
「それほどまで…重要なものなのか…?」
「ええ」

 リデは兵器の一つに、その白い指先を当てる。
 戦場でなければこのような兵器など、ただの鉄くずに過ぎないというのに。
 何がそこまで重要と言わせるのか。
 ヤヲには理解出来なかった。

「単純な兵力だけで言うと私たちゾォバはそこまで強くないの。だから兵器この力に頼るしかない…現在でも一般使用どころか開発さえ禁忌とされている代物だとしても…ね」

 リデの言葉にヤヲは顔を顰める。
 兵器はエナの力で稼動しているものだ。
 そしてエナは大地の力と云われており—――その力がもし枯渇することがあれば、それは大地の死となる。と、ネフ族では教えられていた。
 戦力差を聞けば確かに重要な武器ではあるが、ヤヲはこの兵器には未だ好意を持てそうにはなれなかった。
 元々、この組織自体にそこまでの好意を持っているわけではないのだから、それも当然なのかもしれないが。






    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

処理中です...