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第二篇 ~乙女には成れない野の花~
99連
しおりを挟むゴンズは兵士たちと共に白き閃光を目撃し、裏庭へと駆けつけたところだった。
目を細めさせ、直視できないほど眩い球体はエミレスとフェイケスを包み込むと、ゆっくりと下降していた。
「一体これは…?」
顔を顰めていたゴンズのもとへ、声が聞こえてくる。
「エミレスのエナの力だ…飛び降りたネフ族を助けようとして発動させた」
振り返るとそこにはラライが居た。
急ぎ駆けつけた彼は荒い呼吸も整えずに、光を見つめている。
と、光の球体はその表面が大地に触れるなり、今度は縮小を始めた。
「反発するの力ということだったが…だが、これは明らかに違うぞ…」
それはあのメモ書きにも書かれていなかった―――クェン=ノウも知らなかったエミレスのもう一つの力だった。
「確かにアイツの力は対象物を吹き飛ばしたり押しつぶしたり出来る『反発する光』だ…だがそれはあの球体の外面だけの効力らしい」
体験者であるラライが立てた仮説。
目を細めながら彼は言う。
「光の中はまるで水中のような攻撃性のない空間だった。おそらく落ちた衝撃も和らげてくれるような…まるで割れないシャボン玉みたいな、そんな優しい内面だった」
そして、その空間に入れる者は『エミレスが心を許したもの』だけと思われた。
でなければあの暴走の中、ラライが球体の中に入ることは叶わなかったはずだからだ。
ラライはそう推測していた。
思い上がった考えだと思っていたラライであったが、それは今、確証に変わった。
眼前の球体に、彼が一緒に入っているからだ。
「―――解っちゃいたんだけどな……」
球体はゆっくりと小さくなっていく。
まるで中にいる二人を優しく解放するかのように。
「これが…エミレスの力…なの……?」
同時刻。
ベイルは窓からその光を片時も離れず見つめていた。
目を覆いたくなるほどの閃光だというのに、彼女は構わず真直ぐに向き合っている。
不思議とその輝きに、痛みのような感覚はなかった。
と、スティンバルはそんな彼女の肩に触れた。
「全て…接し方次第だったんだ……そうすればあの子の力はアドレーヌ女王のように人を救えたはずだった…」
「そう、なのね…」
気丈に見せていたが、ベイルの肩は震えていた。
だからこそ、スティンバルは更に強く、温かく彼女の肩を抱く。
「だが少し…我らには眩しい光だ。だから、ゆっくりで良い。ゆっくりとあの光に、一緒に触れ合っていこう…そしてもし辛いときは無理せず言ってくれ…お前はエミレスの義姉である前に俺の妻なのだから」
力強い夫の言葉と腕。
ベイルは目頭を熱くさせながらも、涙を零すことはなくその掌を重ねた。
「ええ…ありがとう……」
ようやく身体が地面へ付いたフェイケスは、酔いのような感覚に思わずふらつく。
片膝をつく、そんな彼へとエミレスは近付いた。
「フェイケス…まだ私の気持ちを言えていないわ……良かったら聞いて」
よろめくフェイケスを咄嗟に支えながら、エミレスは言った。
囁くような静かな声でそう告げた。
フェイケスは眉を顰めるも、拒絶することなく耳を傾ける。
「私にとって貴方は初めて出来た友達だった。凄く嬉しくて、貴方と会うのが毎日楽しみで…その想いが恋慕だと気付けば気付くほど、貴方が恋しくて求めてばかりだった……」
沢山書き続けた、決して届くことのない手紙。
毎日寄せ続けていた想い。
それは日を重ねるごとに募り、膨らんでいった。
フェイケスたちの思惑通りに。
「でも、私は貴方の気持ちを何も考えてなかった。貴方が与えてくれた言葉が嬉しくて…貴方自身と全く向き合っていなかったのね……」
夢見るだけの乙女―――盲目なままに膨らませた恋だった。
それが、今の彼女の後悔となっていた。
「私は…貴方を何も見ていなかったのよね、これじゃあ友達だって失格に決まってる…本当にごめんなさい」
そう言うと恐る恐る、エミレスはフェイケスの頬に触れた。
彼は僅かに驚いて見せたが、拒むことはなかった。
真っ直ぐに交わる彼の紅い双眸。
この特殊な瞳に、エミレスは知らず知らずのうちに囚われていた。
この特別な瞳は、エミレスを蔑まないと思っていた。
この人の瞳だけは、自分を否定しないでいてくれると、エミレスは信じていた。
結局は周囲の者たちと同じく、エミレスを嫌悪していた目であったというのに。
「今まで友達でいてくれてありがとう。恋を教えてくれてありがとう…偽りだったとしても、私を救ってくれて、ありがとう……」
だが、彼女は変わった。
ずっと向き合うことなく逃げ続けていた周囲の目。蔑み、妬み、嫌悪し、嘲笑してきた目。
そんな目と、今ようやくエミレスは向き合えている。
「私は…貴方のことが大好きでした。きっとずっとこれからも忘れないくらいに…愛してました」
エミレスは満面の笑顔を、頬を紅くさせながらフェイケスに見せた。
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