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第二篇 ~乙女には成れない野の花~
73連
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離宮を出たラライは、砲撃が続く城内を突き進む。
島を囲う外壁によりいくらか守られているものの、無差別に撃ち込まれる砲弾は外壁を越えて本城にも直撃していた。
と、正門前までラライが辿り着くと、そこで待っていた光景は、堅牢な要塞王城と謳われていたそれとは程遠いものだった。
既に戦場は城内にまで及んでおり、辛うじて上げられた跳ね橋には剣や矢が突き刺さっていた。
鮮血の跡、怪我をしている兵士。火の手が広がる足場。
正門も攻撃を受け続け、いくつか壁が崩壊していた。
「どこが難攻不落だ…こんなに襲われてりゃ意味もない…!」
そうぼやき、ラライは思わず舌打ちを洩らす。
しかし襲撃者たちの姿はなく、皆城内に侵入してしまっているようで。
そこには軽傷の兵士たちが負傷した仲間や従者の手当てや避難誘導に当たっていた。
と、見覚えのある兵士を見つけ、ラライはその人物の肩を掴んだ。
「おい!」
「ひ、ひぃぃ!」
「バカ、オレだ!」
兵士は敵と勘違いしたのか、慌てて剣を振り回す。
だが、ラライの顔を見た瞬間、男は口を大きく開いて改めて素っ頓狂な声を上げた。
「あ、あんたは…!」
その兵士とは、かの老人の孫であった。
兵士にとっては嫌な思い出の相手らしく、ラライを見るなり眉を顰めたままでいる。
「どう言う状況だ、これは」
「たたたっ…大変なんだ! 城が襲撃されて!」
青年兵士は随分とパニック状態にあるようで。
火災が発生しているわけでもないのに、片手には水一杯のバケツが抱えられていた。
彼が慌てふためく度にその水は揺れ落ち、こぼれ落ちていく。
「それは見て解る。そうじゃなくて何処の誰に襲われているのか解るか!?」
「詳しくは知らない…!」
そう言って青年兵士は即座に頭を左右に振る。
ラライは舌打ちし、即座に別の人間へ尋ね直そうとした。
が、しかし。
彼は「でも」と話を続けた。
ラライは思わず足を止める。
「奴らはネフ族だって、仲間が言っていた…!」
「ネフ族…?」
「全身白尽くめの格好で俺はよくわからなかったが…特徴のある部族だって…!」
彼は思い出したこと順にそう叫ぶ。
更に何か言おうとしていたが、城内に駆けていく兵士の一人に呼ばれ、彼は兵士たちと共に向かっていった。
「一応兵士だから忠告しとくけど、あんたも…早く避難した方が良いぞ!」
兵士は最後にそう助言して去って行ったが、ラライはそうするわけにはいかない。
城内にはエミレスがまだ残っているはずだからだ。
ラライは手遅れにならないことを願いつつ、兵士たちに紛れて城内へと入っていく。
本城の正面ホールに辿り着くと、そこでは今まさに戦闘が繰り広げられていた。
白い外套を羽織っており、その顔を白い包帯で隠している集団。
まさに白尽くめの集団は兵士たちと剣を交え、激突していた。
一見すると騒然とした状況。
しかしその中に潜む違和感にラライは気付く。
(随分な手練れなのは解るが…何なんだこいつら…?)
城内に入り込んだ白尽くめは十人足らず。
対して兵たちは城の奥や外から次々と加勢している。
それにも拘らず力量の差なのだろうか、戦況は白尽くめたちが有利に見えた。
素早い身のこなしで的確に兵たちの利き手を切り落とし、蹴り飛ばす。
だが不可解なのは、白尽くめたちは正面ホールで争うだけで、その奥へ侵入する様子がないということだ。
城を攻め落とす程の勢いはあるように見えるが、まるで兵士たちを翻弄するための動きにしか見えない。
「……つーか下っ端の兵ばっかりじゃねえか…精鋭部隊は何でまだ来ない…!」
苛立ちに自然と漏れ出てしまう舌打ち。
と、白尽くめたちが兵士たちに押される形で通路の奥へと逃げていく。
その先は謁見の間に続いているが、ラライの位置からでも臨める巨大な扉は固く閉ざさたままであった。
(とりあえずあっちは大丈夫そうだが…問題なのは居住階層が無事なのかどうか…)
エミレスを含めた王族や貴族たちの居住スペースは城の上階にある。
上階へと続く道にはどうやら白尽くめの姿は無い。
謁見の間と同等の頑丈な扉により守られているようであった。
「くそっ…開かねえっ……面倒くせえ!」
そうぼやくとラライは通路近くの窓へと掴み上がり、蹴破った。
吹き飛ぶ格子、飛び散るガラス。
それらに構わずラライは城壁の石煉瓦を伝い、上へと這い上がっていく。
何度となく城壁上りは繰り返していたため、お手のものであった。
とは言え、砲撃は未だ城壁目掛け繰り返し飛んでいる。
そのためラライは直ぐ上の階に辿り着くなり先ほど同様に窓を叩き割り内部へと飛び込んだ。
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