122 / 298
第二篇 ~乙女には成れない野の花~
50連
しおりを挟む「……ある日父親に言われたんだ『目つきが悪い』ってな。こっちにしてみりゃアンタらから受け継いだもんだって話なんだが…ガキの頃のオレにそこまで言える権限も知能もあるわけなくてな」
今にして思えば、それは他言できない『大人の事情』があったのだろう。
子供が生まれ持っていた三白眼は、父にも母にもなかったのだから。
「それからの毎日は生きた心地がしなかったな…目が恐いとか行儀が悪いとか、理不尽な叱責を受けては理不尽な暴力を父親から受けた…」
淡々と語り続けるラライの身の上話を、エミレスは静かに聞き続けていた。
思うこともあるのだろうと、ラライはエミレスを一瞥する。
部屋の隅で独り蹲る彼女の姿が、あの当時のラライの姿と重なる。
静かな空間、暗い室内。
こうして見れば、あの頃の自分と何もかも同じであったことに、ラライは酷く後悔する。
気付かなかったことに、苛立ちと憤りを隠せず、舌打ちを付きそうになる。
しかし、それを堪えつつ、ラライは話を続けた。
「あの頃は本当に辛くて、何より孤独だった……正直、ゴンズのじいさんと出会ってなかったらオレは今どうなってたかわからん。だからじいさんには感謝してもしきれないんだ」
何も知らなかった頃の自分。
ゴンズと出会い屋敷を出て行った後の自分。
始めて見た景色、目を背きたくなる光景。
悲しかった出来事、感動した思い出。
その記憶一つ一つがラライの中で巡っていく。
「姫様も、昔のオレと同じだ…と思った。生まれ持った特徴のせいで、傷つけられて傷ついて殻に篭っちまってる……」
ラライはもう一度エミレスを一瞥する。
彼女は否定も肯定もせず、また、自分の腕の中へと顔を隠してしまっていた。
ラライは顔を顰める。
「なあ、此処に居続けるのは簡単だ。だがな、このまま此処にいたって何も変わらねえんだ…!」
「違う…私が醜いことは、知ってる……でも……フェイケスなら、来てくれる…きっと……」
ようやくエミレスの口から出た言葉。
それは予想通りとも言えた、自分以外の誰かの名前。
ただラライにとって予想外だったのは『フェイケス』という名に心当たりがなかったこと。
リャン=ノウでもリョウ=ノウでもない。
兄や義姉の名でもない。
第三者の名前。
彼女の口にした『フェイケス』という者がどんな人間なのかは知らない。
だが、ラライは彼の名を聞いた瞬間、胸の奥が熱を持ち迸った。
「そいつは姫様が此処に居るって知ってるのか? そもそもこんなところまで来られるわけないだろ…!」
文字通り自分で扉まで塞いでしまっているというのに。
なんという夢見た乙女なのかと、思わず頭を抱えるラライ。
「仮にそいつが待ってくれてるんだったら、こんな所で待ってなんかいないで自分から会いに行った方が良いだろ! 姫様だって本当はこのままじゃ駄目だ、って―――」
そこまで言いかけたところで、ラライは閉口した。
不意に見つめたエミレスの瞳から、涙が零れ落ちたからだ。
そこでようやくラライは自分が熱を持ち始めていることに気付き、冷静さを取り戻す。
己の短所に嫌悪しつつ、ラライは小さく舌打ちを洩らした。
彼の中で嫌悪は罪悪感へと変わっていく。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる