62 / 298
第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
60話
しおりを挟む*
『ナスカ〈愛する純白の天使〉…って意味? すっごーい! ちゃんと考えてるじゃない! 気に入ったわ、それにしましょう―――貴方は今日からナスカよ』
*
『ねぇ…兵器って……いつなくなるの? なくなったら、私たちは幸せになれるの?』
『ああ…兵器がこの世からなくなったとき…約束を果たした瞬間……それが俺たちの幸福のときなんだ……』
『…馬鹿。解ってないわ、アーサガ……貴方には幸せが何処にあるのか…それが解ってない!』
*
『リンダ!!』
『どう、しよう…こんなとき、何を話したら言いか…わからないよ…』
『バカ、何も喋るな!』
『…ごめん、ね、ナスカ…もっといっぱい話し、たかった……アーサガ…ナスカ…を―――』
*
『兵器の偶発的な事故だとよ。お前、自分のせいとか思うなよ』
『…』
『ナスカちゃんは…どうするんだ? なんだったら俺の知り合いに頼んでも…』
『俺が育てる。あいつは俺の子だ。手出しはさせねえ』
『…ま、いいけど。無理だけはさせんなよ?』
*
『ほーら、パパって言ってみてナスカ?』
『マ、マ』
『うーん…なかなか言ってくれないね…』
『良いだろ別に。そう困る事でもねえし』
『でももうそろそろ言えても良い年頃だと思うんだけど?』
『心配すんじゃねえって。俺とお前の子に問題なんかあるわけねえだろ?』
『そうかもだけど―――』
『―――パ、パ』
『え?』
『パ、パ』
『ほら見たろ? 俺らの子供なんだ、変な心配しなくてもちゃんと育つんだよ』
『……そう言っときながら、本当はやっと呼ばれて嬉しいんでしょ?』
『はあっ!? んなわけねえだろ』
『どうだかね~』
『パ、パ』
『…でも、やっぱり親子だから繋がってるんだよね、私たち』
『どういう意味だ?』
『それくらい自分で考えてみなよ、パパ!』
『パ、パ!』
*
瞼に当たる日光の眩しさに眉を顰め、「むう」と声を洩らしながら、ハイリは重い瞼を開けた。
おもむろに目を擦ろうとしたが何かがぶつかり、それが眼鏡のレンズだと気づくのに時間は掛からなかった。
「…んぅ……そうか。此処で寝ちゃったんだ…」
ずれていた眼鏡を掛け直し、ハイリはゆっくりと身体を起こす。
机の固い感触から離れると、今度は冷たい空気が彼女の体へと当たる。
本来ならば相部屋の同僚と同じく別室で寝るつもりであったが、疲労のせいかいつの間にか机に突っ伏して眠ってしまったと思われた。
すっかりと凝り固まってしまった体を伸ばすと、ハイリは柄にもなく大きな欠伸をつい洩らしてしまう。
と、その瞬間に彼女は自分の失態に気付き、直ぐにその体勢を止めた。
「ア、アーサガさん! あの、その…欠伸と言うのは脳を休ませるための行為と言われていましてだから自然と漏れ出たものなので―――」
頬を紅潮させながら、ハイリは早口でそう説明しベッドの方へと振り返る。
だが、振り返ったその先には皮肉る父親も、天使の様な寝顔の少女もおらず。
綺麗に畳まれた布団だけがあった。
「…え?」
目を丸くさせるハイリは、パサリ、と落ちた何かに気がつき目線を落とした。
彼女の背中から落ちたそれは、ベッドにあったはずの掛け布団だった。
「これ……アーサガさんが…?」
本来ならアーサガとナスカがいるはずだった、もぬけの殻の場所。
掛け布団をしばし眺めてから、おもむろにもう一度ベッドを見つめる。
騒々しかったこの短期間。
余りにも色々なことが起こり過ぎて、濃厚過ぎたこの時間。
そんな二人が行ってしまった―――居なくなったんだと、静かな空間が流れてからハイリはようやく気付いた。
やっと、という解放感。
呆気ない、という虚無感。
それが同時に押し寄せてきて、彼女の胸は自然と熱くなっていく。
「狡いですよ……そういう去り方は…!」
もやもやとした感情と暫く葛藤した後、ハイリは椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。
次いで窓の外を眺める。
日はまだ昇りきっていない。
淡いうす紫色の空だ。
まだ朝だと言うことを確認すると、彼女は急ぎ駆け出し、扉も開け放ったまま外へと飛び出していった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる