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第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
26話
しおりを挟むすると、それらの店名全てが闇言順という暗号で構成されている事が分かり、更にその暗号の意味からどんな闇商売を営んでいたかを示唆していた。という事実も発見された。
「ど、どうして今まで気がつかなかったんですか!?」
「しょーがないだろ? 売人同士の商談でしか使われてないと思われていたし、闇言順自体、たった数年と経たない内に使われなくなったって話だし…」
ハイリに責められ、彼女を宥めながらそんな言い訳を洩らすブムカイ。
と、揉め合う二人を「それより今は解読が先っす」とリュ=ジェンが制止する。
意外な人物に正論を言われ、冷静さを取り戻したハイリは僅かに顔を下げながら「すみません」と謝罪する。
「それで闇言順で解読するとなんという文字が並ぶんですか?」
「はい! アーサガさんの言い残したという『奈落を交わす場所』をこの闇言順で訳すると……『奈落』は『シ』、『交わす』が『ェ』、そして場所が『ラ』になるっす」
シ・ェ・ラ。
その名の付いた店へ、アーサガは向かったとされる。
すぐさま手持ちの地図を広げ、ハイリはその一点を指した。
「ありました、シェラと名のつく店が! カラメル街道の西側にあります」
ブムカイとハイリはほぼ同時に立ち上がり、彼を追うべく動き出す。
彼の向かった先に、間違いなく襲撃事件の犯人がいると推測されるからだ。
「ハイリ君! 君は今直ぐ現場へ向かってくれ! 俺も後から行く」
「はい!」
「あの、自分は…?」
「君は引き続きナスカちゃんのお守りよろしく!」
がっくりと肩を落すリュ=ジェンを横切り、二人は部屋を飛び出ようとした。
が、数秒間停止した後、急ぎ元の位置へと戻る。
そして、二人同時にリュ=ジェンの肩をきつく握った。
「一つ聞きますけど、どうして闇言順に気付いたんですか?」
「あ、いや…実は……ナスカちゃんが『奈落を交わす場所』って『しぇら』って意味なの? って聞かれて…そんな意味なわけないって考えてたらこの暗号のことを思い出したんす」
そう言って苦笑いを浮かべるリュ=ジェンに対し、ブムカイとハイリはほぼ同時に頭を抱えた。
「それってつまり、ナスカちゃんは『シェラ』って単語も耳にしてたってことじゃんか…何でそこに気付かん?」
「ああ!」
両手をぽんと叩いて目を見開くリュ=ジェン。
そんな彼へため息をつきつつ、ハイリはもう一つ気になっていたことを彼に尋ねる。
「それでナスカちゃんはどうしたんですか。お守り役なのにこんな場所にいて…」
「え…解読に気付いて、解読表を探しに行こうとしたときにはいなくなってて…でもついさっきのことなんで。多分トイレかと…」
ブムカイが握った拳よりも早く、ハイリの平手がリュ=ジェンの頬へとぶち当たった。
すぐさま頬は紅く腫れていき、驚きに呆然とする彼らをしり目に、彼女は部屋を飛び出していった。
階段を一階分降りた先、その一室にナスカは居るはずであった。
しかし、開きっぱなしの扉の向こうに、彼女の姿はなく。
勿論トイレや周辺にもナスカの姿はなかった。
「ハイリ副隊長!」
と、基地の入口から駆けてくる部下に気付き、ハイリは足を止める。
「門番兵が先ほど、ナスカ嬢らしき少女に道を尋ねられたと言っていまして…」
「道を…?」
「はい。シェラという場所への道です。教えた後で門番兵がナスカ嬢だったのではと思い報告をしてきたようで―――」
ぐらりと、倒れてしまいそうな程の眩暈に襲われるハイリ。
何とか気を保ちつつ、彼女は深呼吸を繰り返す。
任務の失態。
責任重大な失敗。
しかし今の彼女にとってそれは些細な問題でしかなかった。
それ以上にハイリは、たった一人飛び出してしまった父親の傍を離れられない少女の身を案じ、その不安で押しつぶされそうでいた。
(父親を探しに行ったに違いない……ナスカちゃん…!)
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