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第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~

22話

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 本来は夜勤というわけではなかったハイリであったが、隊長命令に務めていたせいですっかり寝そびれていた。
 そのため、時刻はもうすっかり朝を迎えているものの、彼女とリュ=ジェンは仮眠室で休もうとしていた。
 が、二人の睡眠時間は唐突に終了となる。
 遠慮なしに突然開かれた扉。
 開け放った男は、ベッドで横になっている彼女たちへと叫んだ。

「大変ですハイリ副隊長! 重要参考人の漆黒の弾丸が…!?」
「…んう…どうしたんですか……?」

 未だ眠たい気持ちが勝り、重たい瞼を擦りながら、ハイリは身体を捩じらし返答する。
 が、やって来た部下が次に放った台詞を耳にした途端、彼女は飛び起きることとなる。

「漆黒の弾丸がいなくなったんです!」
「い、いなくなった!!?」
「はい。娘さんの話によると起きたときにはもういなくなっていた、と」

 枕元に置いてあった眼鏡を掛け、乱れているだろう髪を直しながらハイリは部下へ半信半疑に聞き返す。

「でも此処は4階ですよ!? 窓はあったけど…人が通れるほどには開かなかったはず…」

 アーサガの性格から推測して、彼が脱走する可能性は充分に考えられていた。
 その為、そう簡単に逃げ出さないよう開閉の出来ない窓が設置されている4階の医務室に閉じ込めていたのだ。
 扉の前にも見張りをつけていたはずだった。
 耳を疑っているハイリへ、駆け込んで来た部下は戸惑いながらも答える。

「それは…見ていただければわかると思います」

 部下の言葉にハイリは小さく頷き、ベッドから起き上がると衣類の乱れを正し、医務室へ向かおうとする。
 と、その前に。彼女は足を止め叫んだ。

「いつまで寝ているんですかリュ=ジェン! 医務室へ向かいますよ!」

 彼女の怒声に慌てて飛び起きるリュ=ジェン。
 彼はベッドから出ると脱ぎ捨てていた上着を急いで羽織る。

「やっぱ…俺も行くんすね…」
「当然です」

 独り言として洩らした愚痴さえも一蹴され、仕方なくリュ=ジェンは先へ歩くハイリたちの後を言追いかけていった。





 部下の説明を受けても信じられないとばかりのハイリ。
 だが、駆けつけた医務室で見たこともない光景を目の当たりにして、ようやく部下を信じた。

「こ、これは…!?」

 しっかりと閉じられていた窓の中央には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
 ハイリは窓際へ近付き、その異様な形跡を凝視する。
 窓ガラスに空けられた穴は大人一人通ることが出来るほどのサイズで、その切り口は“斬られた”というよりは“溶けた”といったような痕跡である。


「14年前の大戦で使われた兵器の一つだ。熱の力で硝子とか金属とかを溶かして斬ることが出来るってな…」
「ブムカイ隊長…」

 彼女の背後から現れたブムカイは、いつも通りに冷静で、平然としていた。
 そんな態度に様々な感情が浮き上がってくるものの、それらを抑えて彼女は尋ねる。

「何故彼がそのような兵器を所持しているんですか? 一般民の兵器所持は―――」
「あいつは狩人ハンターだぜ。ある程度功績を残した狩人ハンターは殺傷力が比較的弱い兵器ならば所持が許可される。それくらい君ならわかってるだろ?」
「だとしても、これは明らかな器物損壊罪…狩人ハンターの名を利用した大罪です!」

 そう叫びながらハイリはブムカイを睨みつける。
 が、しかしそれでも彼は至って平静で、彼女を横切ると穴が開いたままの窓にそっと触れる。

「その辺は俺が上層部に上手く言い訳しとくよ。信じるかどうかはわからんけど、今の平和維持軍にとってアイツは世間への宣伝存在だからね。この位は目を瞑るだろうさ」

 ブムカイの言葉にハイリの苛立ちは更に募っていき、顔を顰める。
 新体制として生まれた組織でさえ、結局は様々な思惑や醜い部分が存在している。
 生真面目なハイリにとって、アーサガの対応はどうにも受け入れ難く、余計に憤りを募らせてしまっていた。






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