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第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
4話
しおりを挟む朝を示していた日光が、正午を示す位置へと移動した頃。
バイクと馬車は荒野を抜け、鬱蒼と草木が生い茂る森の中にきていた。
そこから更に道なりに進んだ先。拓けたその原っぱに、ポツンと大きな建築物が建っていた。
コンクリート製のそれは人の背たけ以上の壁で覆われており、まるで要塞と呼ぶに相応しい堅牢さ。
周囲の外観とは全く持って不釣り合いの建物であった。
そんな建造物の前でバイクと荷馬車は止まった。
玄関口で立っていた門番をしていると思われる男が、バイクの主へと近寄り尋ねる。
「何の御用でしょ~」
軍服を纏ってこそいるが、明らかにひ弱そうな高い声。
体つきもどことなくか細く見える。
「兵器所持法及び回収法違反だ。連行したから通せ」
「は、はい~。わかりやした~」
門番は独特のなまり発音をしつつ敬礼してみせると、その背後にあった大きな鉄の扉を開こうとする。
が、次の瞬間。
雷のような声が周囲に響いた。
「そこの門番! 一般民は許可書がない限り、如何なる理由があろうとその先への通行は禁止のはずです!」
門番よりも甲高いその声は男たちよりも遥か後方から轟いている。
ズカズカと歩道から姿を現したその女性は門番と同じ深緑色の軍服を身に纏っている。
しかし彼とは違い、その腕には階位を示す煌びやかな腕章が輝いていた。
女性の眼鏡は日光の反射でキラリと輝き、その奥に覗く双眸は鋭く彼らを睨み続けた。
「え~、でもぉ…この方は狩人なんし~よ」
「全く…一門番なのに何も知らないようですね。良いですか、狩人とは――先の大戦中に使用された兵器の悪用を防ぐべく、罪人の検挙と一定の兵器所持及び回収を特例で許可された一般民のこと――つまり、一般民なんですよ!!」
眼鏡の蔓をくいと持ち上げ叱りつける仕草はまさに軍人の鑑というべきか。生真面目のテッパンというべきか。
ともかく、面倒な奴に絡まれた。
そんなことを思っていた狩人の男性へ、その女性軍人は嫌悪感を示すような顔で彼を指していた。
烈火の如く怒鳴る彼女の姿に、男性の子供はすっかり脅えきってしまい、彼の背後に頭を隠してしまう。
娘の震える様子に男性は顔を顰め、目の前の女性を睨み返した。
「仮にこの一般民が狩人だとしても、証明書と通行許可書の提示が基本で―――」
「…おい、アンタこそ何様なんだ? この俺を知らねえのによ」
男はそう言うと小馬鹿にしたように口角を吊り上げ、鼻で笑う。
挑発的かつ横柄な彼の態度が癇に障った女性軍人は、額に青筋を浮かべる。
それから硝子に爪を立てたような声を上げた。
「はぁ!? 知らねえのに…ですって!!? あなたこそ、何様ですか! 私は見ての通りこの軍の―――アマゾナイト軍に所属する軍人。しかも副隊長ですよ!」
そう言うと女性は自分の腕章を男へと見せる。
一般人ならばその腕章を見れば即座に目を丸くさせひれ伏さなくてはならないところなのだろう。
このご時世において、彼女ら『アマゾナイト軍』と呼ばれる存在はそういった立場となっているからだ。
「あぁ…そうか、わかった。最近地方から出てきたんだろ。軍も人手不足で猫の手も欲しいっつってたからな。だからって知識しか知らねえ女を副隊長に据えるとは…同情するな」
だが、男は狼狽える様子もなく口早に反論し、ため息交じりで女性を指し返す。
そこから子供の口ゲンカのようなやり取りが始まり、蚊帳の外となってしまっている御者の男の方が心配そうに二人を止めに入ろうする始末。
しかし男の力では口論は止まらず。
女性軍人は彼の言動に更に怒り心頭させ、今にも彼の手に縄を掛けそうな勢いであった。
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