そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

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はじまりの一頁

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 *











 頁一枚、捲るだけではらりと破れてしまいそうなほど古びた一冊の大きな書物。

 それを躊躇うことなく、丁寧にゆっくりと開いていく少女。

 膝の上に置かれ、開かれた書物からは埃とカビが混じった匂いが鼻をつく。

 色褪せた手書きの文字を指先で優しくなぞる少女。

 彼女は視線を文章に移し、静かに語り始める。











 *

















 ――むかしむかし、世界には三つの大きな国がありました。



 三つの国は長い長い間、対立し続け、争いを続けていました。



 そのせいで草花は枯れ、水は汚れ、多くの人の悲しみと苦しみにあふれていました。



 それでも三つの国は争いを止めることはありませんでした。







 そんなあるとき、一つの国の女王さまが立ち上がりました。



 争いを悲しんでいた女王さまは他の人にはない、とくべつな力があったのです。



 女王さまは自分の力をきらっていましたが、世界を救いたい思いから力を使ったのです。







 するとおどろくことに、やけ野原には木や花が咲き、けがした人たちをいやしていきました。



 世界は争う前の平和な世界にもどったのです。



 三つの国は自分たちのしていたおろかさに気付き、争いを止めました。



 世界は、人々は救われたのです。







 しかし、女王さまはとくべつな力を使ってしまったせいで深い眠りについてしまいました。



 その力は神さまからさずかったもので、勝手に使ってはいけない力だったのです。



 神さまの怒りにふれた女王さまは罰として、決してこわれることのない結晶体にとじこめられてしまいました。







 平和を取り戻した世界の人々は、女王さまの真実を知って悲しみ泣きました。



 女王さまこそが世界を救った女神さまだと、たたえまつりました。



 人々は、女王さまの眠る結晶体を、平和のしょうちょうにしました。



 人々は、女王さまの名前を借りて新しい国を作ることにしました。



 そうして生まれたのが、この『アドレーヌ王国』なのです。













 こうして世界は女王様のお陰で新たな国として誕生しました。



 その国が、それからどう変わっていったのか。



 そして、どう終わっていくのか。















 これは、とある王国の始まりと終わり―――それに関わった語られることのない五人の若者たちの物語です。





















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