真っ白なネコのぬいぐるみププが自分の色を見つけるまでのおはなし

３色目～君の行動力にはボクも顔が真っ青さ

　　　







「やっぱり青色が一番良いと思うんだ。知的でクールな色がボクには最高に似合うはずさ」

　ププはそう言うとほうきの上で上機嫌に、左に右にと揺れています。
　雲一つない快晴の真っ青な空を飛んでいるピリカとププ。
　すると、ほうきはぴたりと止まって、世界一真っ青だという海の上へと辿り着きました。

「そんな動いてるとまた落っこちちゃうよ、ププ」
「問題ないよリトルレディ。そのときはまた君が助けてくれるだろう？」

　ププはそう言うとクルクルと器用にほうきの上を回ります。
　そんなププの様子を見て、ピリカは小さくため息をつきます。




「今度は海の力を借りるんだね？」
「うん。また落っこちないように、今回は近くの島に降りてからね」

　そう言って辺りを見渡してみると、目の前に丁度いい大きさの小島を発見しました。
　ピリカとププはその小島へ上陸します。
　降りたピリカは早速、ポケットから小石を取り出して魔法を唱え始めます。

「―――大海さん、大海さん。その力をあたしに貸してくださいな。その真っ青な色素をあたしにちょうだいな」

　魔法を唱えた直後。真っ青な海水はマグマのときと同じくぐるぐると渦を巻き、小石の中へと吸い込まれていきます。
　そうして、あっという間に小石は真っ青な色へと変わっていきました。

「やったね、リトルレディ。今度こそボクは青色に変われそうだよ」

　喜びに躍るププ。ぽよんぽよんと島を飛び跳ねています。

「それにしても、なんだか不思議な島だね。こんなに弾むなんて、まるで生きているみたいだ」

　岩肌のような色をしているのに、とても柔らかく、弾むような感触をしている島の大地。
　と、そのときでした。
　ブシュ―ン！
　突然大きな音と共に、島の地面から海水が噴き出したのです。

「まるで、じゃなくて本当に生きていたようだねーーーー……」

　勢いよく、空高く噴き出していく海水。
　それは島ではなく、大きなクジラだったのです。

「ププーーっ！」
「うわああーーー」

　クジラの潮吹きに運悪く巻き込まれてしまったププは、海水と一緒にどこかへ吹き飛んでいってしまいました。

「どうしよう…ププが海に落っこちちゃった…」

　ぽちゃんという音もなく、ププの姿は海の中へと消えていったのです。
　困り果てて、その場に座り込むことしかできないピリカ。
　すると、どこからともなく声が聞こえてきました。

『おやおや…背中に誰かいると思ったら……おじょうさん、ワシはこれから海に潜るから、そんなところにいたら危ないよ』

　そう語りかけてきたのは、ピリカの足の下にいる―――島だと思っていたクジラでした。
　
「でもね、ププがね、ププがいなくなっちゃったの…」
『おやおや…ププというのは、君のお友だちかい？』
「うん。ネコのぬいぐるみのお友だち」

　ピリカの言葉を聞いたクジラは、うーんとうなり声を上げた後、言いました。

『しょうがない、探すのを手伝ってあげるよ』
「ほ、本当…？」
『子供の悲しむ顔は、見たくないからね』

　そう言うとクジラは大きな鳴き声を上げました。
　水平線の向こうまで轟とどろくようなその声に答え、海面から姿を現したのは、同じクジラやイルカといった海の仲間たちでした。

『君たち。この子のお友だちを探してきてくれないかね？　ネコのぬいぐるみらしいんだ』
「真っ白なぬいぐるみなの。お願いします…探すのを手伝ってください」

　頭を下げてお願いするピリカを見て、海の仲間たちは「わかったー」「やってやろうじゃん」と言いながら海の中へと潜っていきました。

「なあに、心配することはない…優秀なワシの仲間たちが、すぐに見つけてくれるさ」

　ピリカは小さく頷き、そのままクジラの背中で待たせてもらいます。
　待っている間、ピリカはふと、ある記憶を思い出しました。



　　　＊




『ププがかえってこなかったらどうしよう。もういっしょじゃなくなったら、どうしよう…』

『ププ…ごめんね。ずっといっしょっていったのに…おいてっちゃって…ごめんね』

　いつも何があっても一緒にいた、一番の宝物だったぬいぐるみのププ。
　ですがある日。ピリカは外へ遊びに行った際、どこかにププを置き忘れてしまったのです。
　まだ魔法も使えず、泣きじゃくることしかできなかった幼い頃のピリカ。
　自分で探すこともできず、ただただ無事に戻ってきてと、祈ることしかできませんでした。
　あのときのとてつもない悲しみと不安と恐怖。
　そして、それからププを見つけてもらったときの喜びと感動と安心感をピリカは今でも忘れていません。

　

　　　＊

　

　あのときと同じ悲しみと不安と恐怖を思い出し、ピリカの手はどんどん震えていきます。

「思ってたよりも賑やかさんになっちゃったけど。でも、でも…どんなププでもあたしの大切なププだもん。帰ってこなかったら…イヤだよ……」

　するとそのときです。
　ざぶん、と海水から頭を出した一頭のイルカ。
　その頭に、ププの姿がありました。

「やあ、心配かけたねリトルレディ。ボクはこの通り無事さ！　ほんのりと塩味にはなっちゃったけどね」

　そう言って陽気に笑うププは、海水を含んだ身体でよっこいしょと起き上がろうとしました。
　ですが、次の瞬間。ピリカの方からププへと飛びついていったのです。
　その勢いのせいで海へと落っこちてしまう二人。ですが、ピリカはププをしっかりと抱きしめていて、絶対に放しません。

「びっくりするじゃないかリトルレディ…確かにこんな熱い抱擁ほうようを冷ますには、海水は丁度心地良いけれどね」
「びっくりしたのはこっちの方だよ。ププってば、すぐどっかに飛んでっちゃうんだから…」

　二人はそう言い合ってからお互いに顔を合わせ、くすくすと笑い合いました。
　周囲にいたクジラやイルカたちも、嬉しそうに二人を見つめ見守っています。
　ですが、二人は気づいていません。
　手元からこぼれ、海の底へと落ちていってしまった真っ青色の小石のことを―――。