上 下
2 / 6

2色目~真っ赤な情熱を君に見せたかったんだ

しおりを挟む
   







「やっぱり色といえば赤だよね! 情熱的で派手で実にカッコイイ色だからさ」

 嬉しそうに楽しそうにそう言いながら、身体を左右に揺らすププ。
 そんなププをピリカは不安そうに見つめていました。

「あんまり動きまわらないで。ほうきから落っこちちゃうよ」

 二人はほうきに跨って、朝焼けが美しい真っ赤な空を飛んでいるところでした。
 
「それでリトルレディ。ボクを赤色に変える材料はどこにあるんだい?」
「赤色に変えるためにはマグマの力が必要なの。マグマに魔法をかけて、真っ赤な色の素を作るのよ」
「そうなのか。マグマなんて初めて見るよ」

 そんな話をしていると、ほうきはある空中にてぴたりと止まりました。
 ププが遥か真下を見下ろして見ると、そこには火山の火口。
 その火口からはボコボコと煮えたぎり、まるで生きているかのようにうごめくマグマが見えました。

「ワァオ。とても迫力のあるマグマだね。まさに生命を感じる…なんだかボクの身体も熱くなってくるほどさ」
「あたしも…マグマをこんなに間近で見たの、初めて」

 そう言うとピリカはゆっくりと、ほうきから落っこちないよう気をつけながら、マグマへと近づいていきます。
 それから、ポケットから小石を一個取り出しました。




「―――マグマさん、マグマさん。その力をあたしに貸してくださいな。その真っ赤な色素をあたしにちょうだいな」

 ピリカがそう唱えた直後、火口のマグマがごうごうと音を立てて動き始めました。
 渦のように回転しながら宙へと上っていき、マグマが持っていた小石へと吸い込まれ出したのです。
 そうして、マグマの力を借りた小石はみるみるうちに、マグマのような真っ赤な色へと染まっていきました。

「すばらしいよ、すごいよリトルレディ! こんな魔法が使えるなんて、君はすごい魔女さ!」
「そ、そんなんじゃないわ…このくらい大した魔法じゃないもの…」

 とても感激するププに、ちょっとだけ悪い気はしないピリカ。
 すると、そのときでした。
 魔法が成功して安堵したピリカは、なんと、つるりと手のひらから小石を滑らせてしまったのです。

「あっ!」
「ああっ!!」

 二人は驚き、声を上げました。
 滑り落ちてしまった小石は、火口めがけて落っこちてしまいます。

「ご、ごめん―――」

 そう言ってピリカはププに謝りました。
 ですが、なんとそこにププの姿はもうありません。

「え?」
「だいじょーぶだよ、リトルレディ! ボクが絶対空中でキャッチしてみせるからさーーーっ!!」

 なんとププは落っこちた小石を追いかけて、一緒に落っこちてしまっていたのです。
 このままではププはマグマの中へ真っ逆さまです。

「ププ!!」

 ピリカは無我夢中で、ほうきを走らせてププを追いかけます。
 しかし、その間にも「うわああ」と情けない声を上げながら落ち続けるププ。
 もうだめだ、きっと間に合わない。そんな諦めがピリカに過ります。
 と、そんなときでした。
 ピリカはふと、とある記憶を思い出しました。



   *




『―――あたしはね、ピリカっていうの。あなたはププよ。よろしくね』

『ププはあたしのだいじなたからものなの。だからなにがあってもずっといっしょなのよ』




 ププはピリカにとって、大切な大切なぬいぐるみでした。
 生まれてはじめてもらったプレゼントでした。
 いつも一緒に過ごしていた、一番の宝物のぬいぐるみでした。
 だから、おしゃべりができるようになるならププが良いと、ピリカは思ったのです。
 だから、ピリカはププにおしゃべりができる魔法をかけたのです。
 


   *




「ププーーーッ!!」

 ピリカはほうきに足先を絡ませ、両手を広げながら落ちていきました。
 ププよりも素早い速度で追いかけ落っこちて、そして―――。




「……もう、無茶しないでよっ、ププ…!」

 ピリカはしっかりとその両手でププを抱き止め、抱きしめました。
 ほうきもぴたりと、火口の寸前で止まります。
 ププはマグマの中へ落っこちずに済んだのです。

「助かったよリトルレディ。まあ、絶対に助けてくれるとボクは信じていたけどね」
「なんでこんなことしたのよ…あたしが受け止められなかったらどうなってたか…わかってたの?」

 自信たっぷりにそう言ったププですが、ピリカに怒られてしまい、しゅんと頭を下げて反省します。

「ごめんよ…けれど、君のステキなステキな成功を台無しにしたくはなかったんだ。それに元々はボクが頼んでこうなったわけだしね」

 ププはそう言うと自分の手を差し出し、受け止めていた小石を渡そうとしました。
 しかし。その手には真っ赤な小石は握られていません。
 代わりに、ちょっとだけ焦げ色になった両手があるだけです。

「……どうやら小石はマグマのもとへ帰ってしまったようだね……そうだ。ボクは赤色じゃなくても良いんだ。うん、赤色よりももっともっとステキな色が良いよ」

 落ち込んでしまったププでしたが、またすぐに元気を取り戻し前向きにそう話すププ。
 そんな一生懸命なププを見て、ピリカは思わず苦笑してしまいました。


 
 


    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

天使と小悪魔のお話

ももちよろづ
絵本
天使ヨシュアと、小悪魔ヴィヴィと、愉快な仲間達の、お話。 ※表紙・本文中イラストの無断転載は禁止

人さわがせな おくりもの

hanahui2021.6.1
児童書・童話
今 考えると笑ちゃうよな。 何がなんでも、一番にならなきゃいけないって、 ガチガチになってた。 この家を紹介されて、おじいさんの話きけて いろんな意味で、良い風に 肩の力を抜くことができた と思う。

【完結】三毛猫みぃのお家

たまこ
児童書・童話
三毛猫みぃと家族との、ちいさくて、やさしい日常。 ※『君たちへの処方箋』にて三毛猫みぃ再登場しています

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。童話パロディ短編集

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

クリスマスまでに帰らなきゃ! -トナカイの冒険-

藤井咲
児童書・童話
一年中夏のハロー島でバカンス中のトナカイのルー。 すると、漁師さんが慌てた様子で駆け寄ってきます。 なんとルーの雪島は既にクリスマスが目前だったのです! 10日間で自分の島に戻らなければならないルーは、無事雪島にたどり着けるのでしょうか? そして、クリスマスに間に合うのでしょうか? 旅の途中で様々な動物たちと出会い、ルーは世界の大きさを知ることになります。

処理中です...