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第三章 魔王城

九.上書き、してくれないか?(前)※

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「あの宝石は特別な魔石に魔術を施した物で直ぐにはご用意出来ませんが、この戦いが終わりましたらまた贈らせてください」

 王子はそう言うと俺の手を取って甲に口付けを落とした。

「今はこれぐらいしか用意できなくて申し訳ないのですが受け取ってください」

 そう言って俺の手首にブレスレットを付けてくれた。
 金色のブレスレットの真ん中に王子の瞳の色の宝石が誂えられていて、シンプルだけどとっても綺麗で嬉しさが込み上げる。

「ありがとう、レオ……」

 涙ぐんでしまった俺のまなじりに王子が口付ける。

「この魔石では結界魔法は施せず、状態異常くらいしか防ぐことは出来ません。わたしが必ず、ショウゴ殿のことをお護り致しますので今はこれだけでも……」

 王子の大事なクラーレが毒で亡くなってしまったから、状態異常(特に毒)には殊更敏感な王子は真っ先に施してくれたらしい。

「嬉しい。レオの色で、見てるだけで勇気が貰えそうだよ」

 どちらからともなく、自然と唇が重なる。

 俺たちは廃村を後にするとロッジに戻り、食事を済ませると休息をとるためにそれぞれの部屋に戻った。俺とレオは勿論一緒の二人部屋だ。

 口付けがどんどん深くなると、体もピッタリと隙間なく密着して力強く抱き込められる。夢中で舌を絡ませ合っていると、レオの一部が硬く主張しているのに気付いた。そう言う俺も少し反応してしまっているのだから一緒なのだけど……。

 俺はキャンベラに攻撃された瞬間死ぬと思ったし、王子は俺を失うと思ったことだろう。そんな戦闘の後、お互いの体の無事を確かめ合ったなら、二人で生きていることを再確認しながら体を貪り合うのは当然の流れだと思う。

 でも前回のことがあるからか、これだけ反応しているにもかかわらずキス以上のことをする気配は感じられない。まだ初めての時のことを気にしているのだろう――。ここは俺から誘うしかないのだろうか……。

 恥ずかしいけど、このままじゃ王子もだけど俺だって辛い……。

「レオ、しないのか?」

「……っ!? ショウゴ殿!?」

 俺の言葉に分かりやすく動揺する王子が可愛くって、本当に心から愛しているって思った。

「ねえ、もう婚約者になったんだし、ショウゴ殿じゃなくて『ショウ』って呼んでくれないか?」

「――ショウ」

「なぁにレオ?」

 王子に『ショウ』って呼ばれたことが嬉しくって、自分でも吃驚するほど甘い声が出た。それから、敬語も辞めて欲しいって言ったんだけど、敬語以外は部下に喋る偉そうな話し方しか出来ないから許して下さいって言われた。俺としてはそれでも良いんだけど、大切な婚約者に乱暴な言葉遣いはしたくないって言われたら引き下がらざるを得ないよね。

「ショウ……。その……、ショウは嫌じゃないのですか?」

 王子は恐る恐るといった感じに俺に問う。嫌だったら自分から言わないと思うんだけど、ここでしっかり俺の気持ちを伝えなければ、すれ違っちゃう気がするから頑張るしかない。

「うん。嫌じゃない」

「しかし初めての時、無体を働いて恐ろしい思いをさせてしまいました……。ショウと触れ合えるのはこの上ない幸福ですが、無理強いはしたくありません。わたしの愚息が兆していることをお気になさっているのであれば、ご無理をなさる必要はございません」

 う~ん――。もっとストレートに言わないといけないのか……。俺自身この間の行為が初めてだったし、恋愛経験なんて皆無だからさっきのでもすごく勇気を振り絞ったんだけど、王子もそうだって言ってたし俺の方が年下ではあるけど、ここは踏ん張りどころか。

「あのさ、この間も言ったけど俺は嫌じゃなかったんだよ? 切っ掛けはどうであれ、身も心も結ばれたのは純粋に嬉しかったし。でもレオが初体験を後悔しているんだったら、今日初体験の上書き、してくれないか?」
「……っ! ショウ……。上書きですか?」

「そう。正直なところ、急展開だったこともあって俺自身もはっきり覚えてないからさ、ちゃんと愛し合いたい。ダメかな?」

 これでどうだ!? と、上目遣いで首を傾げてみる。必殺あざといポーズ……。恥ずかしい気持ちなんて、自分から誘っている時点でもう手遅れなんだから開き直るしかないだろう。

「貴方との初体験を、上書きさせてください!」

「レオ、優しくしてね?」

 これでもかと、あざとく仕掛ける。俺がそう言うと、王子は俺のことを優しく抱き上げ、ベッドに運んでくれた。ベッドに降ろされると、すぐに押し倒されて覆いかぶされる。

「ふぅ……んっ、ショウっ……ショウ……」

 王子は名前を呼びながら、俺の首筋に舌を這わせる。

「ちょっ、ちょっと待って!?」

「申し訳ございませんが、もう止まれそうにありません……」

 熱のこもった瞳で俺を見詰めて、王子は切羽詰まった声でそう言った。俺だってここまで来て止めるなんて酷いことは言わないよ。ただ激しい戦闘の後だし、汚れてるし汗もかいたから浄化を頼みたかっただけなんだけど、俺がそう言おうとすると再び唇が重なって言葉は飲み込まれてしまった。

「ん、ちゅっ……、うぅんっ、あぁっんんぅ……」

「……ショウっ、んちゅっ……、好きっ、愛してますっ……」

 クチュクチュといやらしい水音が響いて、頭がボーっとしてくる。唇を激しく貪りながら、王子は器用に俺の服を脱がせていく。

 はだけられた胸元に差し込まれた王子の掌が胸を捏ねだすと、小さな突起はゆるゆると芯を持ち始めた。男の乳首が感じるのを認めたくない気持ちもあるけど、気持ちが良いんだから仕方ない。

「あっ、んぅっ、レ、レオっ……」

「ショウ、気持ちいいですか?」

 唇を解放すると、首筋を通って胸元に顔を寄せた王子は色っぽい声で聞く。恥ずかしいけど俺は王子と結婚する訳だし、こういう行為だって今後もするんだから、ちゃんと応えないとな……。

「う、うん……。ムズムズする、かな……」

 俺の言葉を聞くと、王子はすぐさま胸の突起に顔を寄せて舌を這わせた。湿った熱い舌で捏ねるように舐められたかと思えば、チロチロと擽るように動く赤い舌を見てしまった俺は、羞恥とは別に酷い興奮を覚えた。キラキラしている美形の王子様が、熱の籠った真剣な目で俺の乳首を見ている。そして時折俺の反応を窺うようにして俺の方に視線を向けるんだけど、それがまた妙に色っぽくって、それだけで俺の中心に熱が集まるのが分かる。

 さすがに胸だけでイケるとは思わないけど、こんなに綺麗な男が夢中になって俺の胸に吸い付いているこの状況はヤバい。視覚的には勿論だけど、俺を酔わせるには十分なほどの破壊力だ。

 ――ピチャピチャ

 胸から聞こえる水音も興奮材料の一つだ。恥ずかしくって仕方ないけど、それもまた俺を気持ち良くさせる。
 この間の行為が初めてで、それまでも王子とキスをしたり触り合ったりはしていたけど、こんなにもいやらしい気持ちになったのは初めてだ。

 戦いの後は昂るというのはどこかで聞いたことがあるから、きっとそういう状況も起因しているのだろう。

 今回の戦いで俺は初めて魔族の被害にあった人の遺体を見た。これまでは瘴気の発生源付近にも、魔獣の死骸こそあったし討伐もしたけれど、人間の遺体に遭遇したことはなかったんだ。それは、そこで被害にあった人が居なかった訳じゃなくって、被害者の遺体を回収して弔うことが出来ていたからなのだろう。しかし今回は、村を襲われてそこを蟲たちが寝床と定めたため、被害者はそのままになってしまっていた。この戦いが終わったら、あの廃村から無事に逃れることが出来た人たちに、被害者の人たちのお墓の存在を伝えたいと思う。聖女である田辺さんが祈りを捧げてくれたんだから、きっと天国に行くことが出来たと思うんだ。神様も、勇敢に立ち向かった彼らに労いの言葉を掛けてくれているかもしれない。

「――っ‼ 痛いっ……」

 行為の最中だというのにそんなことを考えて、少し上の空になっていたのに気付いた王子が俺の乳首に歯を立てた。甘噛み程度だけど、さんざん舐られて敏感になっているそこには刺激が強くて、思わず痛いと声が漏れる。
「――ショウ、考え事ですか?」

 そう訊ねながらも舌で乳首を刺激されて、我に返った俺は喘ぎ声を上げてしまう。

「っ、やっ、む、むらに……うんっ、あっ、村に、つくった、うんっ、お墓のことを、考えてた……、ご、ごめん」

 何とかつっかえながらも口にすると、一際強く吸い付かれて思わず腰が大きく跳ねてしまった。

「ひっ、ああっ……‼」

「ショウ……。今はわたしとのこの行為に集中して頂きたいところですが、貴方の愁いを晴らすこともまたわたしの幸せです。あの村の生き残りの者たちに村を襲った蟲たちを退治したこと、被害に遭った者たちの墓を作って聖女様と共に弔ったことを伝えるように文を飛ばしてあります。家族の者もいずれ訪れるでしょう」

 王子はあの戦いのあとすぐに俺が気にしそうなことを先回りして対処してくれていたらしい。そんなところも愛しくって、思わず王子の頭を胸に押し付けるように抱き締めて、サラサラな髪を指で梳いた。

「レオ、ありがとう……」

「いえ、わたしがこの様な行動を取ることが出来たのも、貴方と出会ったおかげなのですよ。わたしの方こそショウに感謝してもしきれません」

 今までの自分だったら、被害者の弔いなんかに関しても、他のメンバーに任せて自分から動くことはなかったと言うんだ。優しい王子に限ってそんなことないだろうって思うんだけど、俺と出会うまでは他人を信じることもなければ、同情を感じることも関心を向けることもなかったと言う。こうやって俺ならどう思うかって考えることで、自分もまた人間らしさを取り戻しているんだって言われたら、嬉しくって色々込み上げてくるものがある……。

 王子の頭を解放すると俺から口付けた。チュッと合わせるだけの短いキスだったけど、どこかしんみりしていた王子の瞳に再び熱が籠るのが分かった。離れていこうとする唇を荒々しく塞がれて、開いていた隙間から舌が滑り込み、すぐに俺の舌も絡み取られる。その間に王子は俺の上衣を全て取り去って、下半身に手を這わせた。太腿を下からなぞられて、ゾワリと肌に痺れの様な刺激が走るのを感じた。口腔を蹂躙されながら、何度も太腿を撫でまわされて、じれったくなった俺は、無意識に腰を揺らしていたらしく、王子にクスリと笑われてしまった。
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