聖女はそっちなんだから俺に構うな!

ネオン

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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

二十五.相変わらず腐ってる

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 朝食を済ませると、俺とエリックは王子に連れられて神殿に向かった。神殿にはディラン様も先に向かっているということなので、久しぶりにみんなに会えると、少しだけワクワクする。

 俺たちは神殿までは馬車で移動することにした。王子もエリックも元気いっぱいだから馬で行こうって話だったんだけど――。俺が長旅の疲れが出たのか、帰ってきて気が緩んだのか、ちょっと足腰がフラフラしていて、王子に横抱きされながら馬に乗るかって言われた。そんなの恥ずかしすぎて死ねるし、神殿前で恐らく待っているであろう田辺さんに見られたら――! 王子は俺を抱き上げる気満々だったけど、馬車でお願いした。

 帰りの旅では、王子の後ろに乗りたいって言っても、エリックへの嫉妬を拗らせた王子は許してくれなくて、手綱を握る王子に抱き抱えられるように前に乗ることを強要されてしまっていた。だから、王子と二人で馬に乗ることにはすっかり慣らされてしまったけど、横抱きで乗せられるとか――。どっかのお姫様みたいで無理だ! 王子は俺一人くらい抱えながら乗ることは何の苦もないし、むしろ密着出来るから嬉しいとか言ってるけどさ、俺の方が無理だ。ほんと王子はこんな何の変哲もない平凡な男のどこが良いのかさっぱり理解出来ない。

 馬車で神殿に向かうなか、エリックが自室に調合用の器具を揃えて欲しいと言っていた。まだ魔王討伐の旅に出る時期についての神託は出ていないし、今のうちに色々な薬を作り貯めしておきたいからと――。王子は亜空間収納に無限に収納出来るから、エリックにも薬用のナップサック型の収納袋を渡すことにしたようだ。この収納袋は王子の魔法で亜空間に設けたエリック用のスペースに、薬や素材を収納出来るようになっているんだって。王子は自分の魔法だから、そこにアクセスすることは出来るけど、基本的にはエリックのみが出し入れする用途の物で、他の人がその収納袋に手を突っ込んでも何も取り出すことは出来ないという優れものだ。何か某猫型ロボットのポケットみたいだなと思うと羨ましく感じてしまう。そんな俺の様子に気が付いたのか、王子が俺のいつも身に着けているウエストポーチに何か魔法を掛けてくれて、亜空間に俺専用スペースを作ってポーチに繋げたと言った。

「え!? そんな簡単に他人に渡しても良い物じゃないでしょ? だってこんな魔法使えるのってレオンハルト様くらいしかいなくて、すごく貴重な物じゃないか! ちゃんとした使い道のあるエリックならともかく、俺のなんて勿体ないよ!」

 あまりに突然だったから、俺は驚いて王子に俺が持つには相応しくないって言った。

「いえ、ショウゴ殿の荷物はわたしが収納すれば良い話なのですが、それではショウゴ殿は遠慮なさって自由に出し入れが出来ないのではと、兼ねてより考えておりました」

 確かに、俺自身の持ち物って少ないけど、王子のタイミングを見て出し入れしてもらうのは、少し不便というか王子に迷惑を掛けているなって思って、気が引けていたのは確かだったから、自分の収納が出来ることは正直嬉しいとは思うんだけど、誰も持っていない貴重なアイテムだから、俺みたいなモブが持っても良いのかと考えてしまうんだ。

「王子がええって言うてるんやから、ショウゴが気にすることないやん? オイラは嬉しいで! 素材集めとかって意外と結構荷物が嵩張るから、めっちゃ助かる」

「でもそれはさ、エリックにはちゃんとした使い道があるから――」

「何も持たんと、この世界に来させられたんやから、オイラは、ショウゴはもっと王子に我が儘言うてもええと思うで?」

「エリックの言う通りです。わたしはショウゴ殿にもっと頼りにされたいと思っておりますし、我が儘一つ言わないショウゴ殿を甘やかしたいと常々考えております」

 二人に諭すようにそう言われて、まだ少し俺には勿体ないという気持ちはあるけど、一先ず素直に受け取ることにした。

「レオンハルト様、ありがとう。俺、十分レオンハルト様には良くしてもらってると思うから、あんまり迷惑掛けたくなくて……」

「迷惑だなんてとんでもないです! わたしはショウゴ殿の願いならどんなことでも叶えたいと思っているのです。もっと遠慮なく色々申しつけてください」

 王子に手を握られながらそう言われると、なんだか恥ずかしくて思わず俯いてしまった。

「お二人さん、イチャイチャはその辺で! もう着いたみたいやで?」

 エリックにそう言われて、イチャイチャなんてしていなかったけど、傍から見たらそう見えるのかと思うと羞恥で顔が赤くなるのを感じた。それを見た王子が「こんなショウゴ殿を他の誰かに見せたくない」とか言い出して、エリックは「先に降りるからな! ごゆっくり」って馬車を降りて行った。益々恥ずかしくなったけど、狭い馬車の中で王子と二人きりっていうのも変に意識してしまう。

 深呼吸をして何とか落ち着かせてから、王子にもう大丈夫だと伝えて馬車から降りた。

「北川も王子様も久しぶり~! 二人で馬車でイチャイチャしてたんだって?」

 降りてすぐに田辺さんからの洗礼を受けた。田辺さんの横でニヤニヤしているエリックの様子から、先に降りて田辺さんに余計なことを言ったというのが分かる。せっかく治まった赤面がぶり返すのを感じて、思わずエリックを睨みつける。

「おおこわっww」

 エリックが大きなディラン様の後ろから顔を覗かせて悪びれもなく「堪忍な」って手を合わせるものだから毒気を抜かれて、出迎えてくれた二人に「ただいま」と挨拶をした。

 神殿の応接室で、エリックは改めて自己紹介をした。

「へぇ~。ショタっ子の薬師かぁ。ショタは意識したことなかったけど、ショタ攻めにはちょっと興味あるかも。しかも猫の獣人……めっちゃ滾るww」

 田辺さんの発言にエリックは少し驚いていたけど、ディラン様も王子も田辺さんのこういう言動に慣れたのか、表情一つ変えずただ静かに座っていた。

「言っとくけど、エリックはこう見えて三十歳の立派な大人だからね」

 俺がそう言うと、田辺さんもディラン様もびっくりしていた。

「――ってことはさ、合法ショタってことじゃん? それなら北川とくっついても全然問題ないね!」

 何が問題ないのか……。ショタ攻めって自分に対してじゃなくて、俺に対してってことだったのかとげんなりしてしまう。

「聖女様! それは聞き捨てなりません! そしてエリックもショウゴ殿にちょっかいをかけるようでしたら、わたしを敵に回すということですから、容赦いたしませんよ」

 室温が急激に下がるのを肌で感じて、恐る恐る王子の顔を見ると、見たこともない様な凍り付くような表情で、さすがの田辺さんも黙ってしまった。

「まあまあ、王子もそんなおっかない顔せんと。な? オイラは二人の味方やって言うたやん! 聖女さんも、冗談でもそんなこと言うたらアカンで?」

 冷え切った空気をもろともせず、エリックは二人にそう言った。

「王子様ごめんなさい。うちはそんなつもりはなかったんだけど、嫌な気持ちにさせちゃったみたいで」

 しおらしく謝る田辺さんを初めて見た気がする。

「冗談でもおやめくださいね?」

「はい(王子様の前では)もう言いません」

 田辺さんは相変わらず腐っていて迷惑だけど、懐かしくも感じてしまった。俺もすっかり毒されているな――。絶対さっきの返事だって『王子の前では』って入ってたと思うし。
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