聖女はそっちなんだから俺に構うな!

ネオン

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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

二十一.薬師見習い

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 キャベリックに来てから数日――。ディラン様からエリックの代わりになるような見習いに適した人物を送ったという連絡が来た。その人は自分で馬を走らせることが出来るそうで、二日で到着出来るから今朝出発したということだし、明日の夜には着くらしい。

「こんな早う代わりの人見つけてくれたん? でもそん人がどんくらいで仕事覚えてくれるかが問題よな。勇者さんが見つけてくれたんやったら、変な奴は来うへんやろうけど、オイラは婆ちゃん残して行かなアカンから心配やわ」

 お婆ちゃんっ子のエリックの心配する気持ちはよく分かる。本当のお婆さんの妹の孫だってことだけど、家族として一緒に生活してるし、高齢のお婆さんを残して離れるのは心配だろう。ましてやどのくらいで戻ることが出来るかも分からないし。

「ディラン様が適任の人を選んでくれたと思うから、大丈夫だとは思うけど――。ごめんね――」

 何か申し訳なくて思わず謝ってしまうと、エリックはニッコリ笑って反対に俺のことを励ましてくれた。

「何でショウゴが謝るん? ショウゴかて巻き込まれた側やんか。それも異世界から何の説明も準備もなしに強制やろ? そっちのがよっぽどえげつないやんか」

「確かに――」

 エリックのおかげで少し罪悪感が薄れた。同じことを王子に言われても、召喚した側の人間だからかあんまり響かなかったけど、状況は違っても自分の生活よりも魔王討伐の旅を優先しなきゃいけないという境遇は一緒だし、エリックの言葉はスッと入ってきた。

 今日は王子はこの街のある領の領主と仕事の話があるとかで、この街を離れている。俺も連れて行きたがったけど、エリックの仕事の休みと被ったとかで街を案内してくれることになったから残ることにした。王子はエリックと二人きりにすることに難色を示して、領主に断りの連絡を入れるとか言い出して困った。エリックは距離は近いけど、弟みたいに思っているから何の心配もいらないと思うんだけど。

「仕事をキチンとこなせる人って尊敬出来るよな――」

 俺がそう呟くと、王子は護衛騎士を三人残して領主のいる隣街まで向かった。

 エリックがさり気なく俺の腕に腕を絡めて顔を覗き込んできた。

「なあ、ショウゴと王子って付き合うとるん?

 突拍子もないことを言われて、思わず吹き出してしまった。

「ぶふっ……! 何急に!?」

「いやなぁ? 王子がショウゴ好き~なのは分かっとるんやけど、ショウゴも王子の扱いが上手いやん? だから付き合うとるんかな? って思うて。ちゃうの?」

 確かに王子の扱いに慣れてきたのは認めるけど、それは付き合っているからとかでは断じてないから、そこはキチンと訂正しておきたいところだ。

「やめてよ――。王子の気持ちには気付いてるけど、俺は異性愛者なんだから……。同性愛を否定はしないけど、元の世界ではそこまで身近じゃなかったからさ、そういう風には見れないんだよ」

「でも嫌やないんやろ?」

「…………。そうだね……。強引なのは嫌だけど、俺の嫌なことはしないし、大切にしてくれているのは分かるから――嫌いではない……かな?」

「ふ~ん。まあ今はそれでええんちゃう? 無理に答え出す事ちゃうしな」

 綺麗な白髪に褐色の肌の小柄な猫獣人の少年は、普段お婆さんと暮らしているからか見た目と反して中身は随分と大人びている。人懐っこい笑顔を惜しみなく振りまいて、相手から話を聞き出すことに長けているのは、薬師としてお店に訪れるお客さんの体調や症状を把握して、その人に合った薬を処方するのに必要なスキルなのだろう。俺よりも年下なのにすごいなと素直に関心する。

 この日はエリックに街の色々なお店や、この世界の事を教えてもらった。それから、驚くことにエリックは俺よりも随分年上の三十歳だった。小柄で愛らしい見た目から、勝手に年下だと思っていたから、俺も王子も年齢を訊ねることを忘れていた。まあ王子は興味がないだけかもしれないけど……。街を腕を組んで歩いていると、エリックの知り合いに声を掛けられた。

「おうエリック、今日は随分若いのといるじゃねえか」

「ジャック……。余計なこと言うんじゃねえぞ?」

「余計なことってなんだよ? お前が三十路ってことか?」

 ジャックと呼ばれた人は悪びれた様子もなく、サラッと気になることを口にした。

「えっ!? エリックっていくつなの?」

 俺がそう言うとチッと舌打ちする音が聞こえて、エリックを見ればジャックを睨んでいた。

「何だよ。やっぱり年言ってなかったんじゃねえか。兄ちゃん、コイツこんな見た目だけどよぉ、三十歳の立派な大人なんだぜ? 聞かれないことを良いことに年下面するから気を付けろよぉ?」

「三十歳――」

「もうお前はどっか行けや。人聞き悪い言い方するけど、別に騙してるんとちゃうんやから放っとけや」

「おお怖っ! まあコイツちょっと癖あるけど良い奴だから、仲良くしてやってくれな?」

「はあ……」

「もうさっさと行けや」

 ジャックが去ってから改めてエリックのことを色々聞いた。年齢は三十歳で、お婆さんの妹の娘(姪)が獣人である父親と結婚して生まれたから、お婆さんとは種族が違うってことも教えてくれた。小柄なのは猫獣人の特徴らしい。年は隠してる訳じゃないけど、自分からは言ってなくて、勘違いされたままの方が相手の本性を見抜きやすいからそのままにしてるんだって。子供だからって(見た目がね)舐めた態度を取ってくる奴とは深く付き合わないとか良い判断材料になるとか。

 俺の感じた年齢の割に大人びているという印象は間違っていなかったんだな。実際に三十歳なんだから、年齢通りと言ったところか。俺たちが勘違いしていただけでエリックが騙していた訳ではないから怒ってはいないんだけど、年下だと思っていた人物がかなり年上だったのはそれなりに衝撃的で、弟っぽいなとすら思っていたから、今まで通りに接しても良いのかどうか戸惑ってしまう。そんな俺の心境を見透かしたようにエリックは言った。

「オイラが年上なんは事実やけど、今まで通り気楽にして欲しい。ショウゴはオイラの半分くらいしか生きとらんけど、一緒に旅する仲間やし年は関係ないやん? それに、ショウゴの世界の話とか聞くの好きやし。でも、ショウゴが騙されたとか思っててオイラのこと許されへんとか言うんやったら、無理する必要はないからな?」

「弟っぽいって思ってたから、年上って聞いて驚いてはいるけど、俺もエリックの話聞くの好きだし、エリックといるの気が楽っていうか――。だから、無理するとかないから! このまま仲良くして欲しいです」

「ありがとな。そう言ってもらえると嬉しいわ。せやけど何で最後敬語やねんww 今まで通り普通に喋ってくれたらええで。寧ろ仲良くしてねってこっちのセリフやし」

 気安い会話に少しだけ緊張感が漂っていた二人はいつも通りに戻っていった。

 夕方になって王子が戻ると、エリックお勧めの飲み屋さんに連れて行ってもらった。この世界の成人は十五歳だから俺も飲酒して良いらしいんだけど、飲んだことないし元の世界では二十歳まで飲酒出来ないからと断った。これまでエリックがお酒を飲んでいるところを見たことはなかったけど、かなりのザルのようで次々と酒を注文してはグラスを空にしていた。俺の横で王子は、ワインを上品に飲んでいてすごくサマになっていた。そうそうと、エリックが王子にも年齢を伝えたんだけど、王子は特に驚くことなくて逆に驚かされた。そんな俺の疑問に答えるように王子が口を開く。

「エリックがある程度年齢がいっているのには気が付いていたので、特に驚くことではなかったのですよ。薬師として知識も経験もありそうですし、それなりの年齢なのは予想しておりましたから」

 冷静に王子に言われてみればその通りだった。見た目で判断していたのは俺だけだってことが分かって少し恥ずかしくて思わず俯いていると、王子が慌てたようにフォローしてきて、余計に居た堪れなくなった。

「ショウゴ殿の素直なところは素敵ですよ。わたしにはないところなので羨ましいです」

「あはは! 王子、それじゃあショウゴ余計に恥ずかしくなるだけやで!」

 エリックに言われて王子は不機嫌そうな顔をしていたけど、大人の余裕なのか、エリックは笑ってお酒を飲んでいるだけだった。

 俺は改めて元居た世界とは環境も考え方や物の捉え方も違うんだという事を再確認することが出来た。

 翌日はエリックの薬草集めに同行させてもらった。前日あれだけ飲んでいたというのにエリックはそんなことを微塵も感じさせないほど元気いっぱいだった。夕方になり薬草集めから引き揚げてお店に戻ると、お婆さんが一人の若者と話をしていた。お客さんかと思ったけど、どうやらこの人がディラン様の送ってくれたエリックの代わりの薬師見習いの人らしかった。

「どうも……。ジャスティス=アラモードと言います。勇者様のご紹介でこちらのお店のお手伝いに参りました」

 ジャスティスさんは160センチくらいの身長で細身の華奢な見た目の男性だった。金髪なんだけど毛先だけが緑色の不思議な髪色で、ゆるく一本の三つ編みにしていて肩から前に垂らしている。色白でピンク色の瞳は髪色と同じ金色の長い睫毛で縁取られていてとっても綺麗な人だった。話し方もおっとりしていて、見た目も中性的なことから、落ち着いて見えるし年上だと思うんだけど、もう俺には判断出来ないし、自信もないから素直に年齢を訊ねると二十二歳だと言っていて、見た目とかけ離れ過ぎているエリックが特殊なのかもしれないと思い直すことが出来た。その日はもう遅くなってしまうからと、翌日また集まって引継ぎにどのくらいの日数が必要か判断することになった。
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