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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった
十九.キャベリック
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護衛の人に朝食の準備が出来たと起こされて、目が覚めるとそこにはもう王子の姿はなく、俺は一人で眠っていた。ぐっすり眠って準備を手伝うことが出来なかったことを謝りながら、急いで着替えてテントを出た。簡易テーブルの上にはよく煮込まれたスープが湯気を上げていて、俺の腹はキュルキュルと情けない音を立てた。ふわふわのパンもあって口の中に涎が溜まるのを感じて、少し恥ずかしくなった。勧められるまま席に着くと、王子もどこからともなくやってきて、俺の隣に座って食事を始めた。野菜も肉もクタクタになるまで煮込まれたスープは、夕食の仕込みの時に一緒に作って、夜の見張りの時にコトコトじっくり煮込んでくれていたらしい。俺が何も考えずにぐっすり寝ている間に、こういうことまでしてくれていたなんて思ってもいなかった――。申し訳なさでいっぱいになったけど、ここは謝るんじゃなくてお礼を言う場面だと思い直して、美味しい料理をありがとうとお礼を言うと「喜んでもらえて良かったです」と言って笑ってくれた。
王子の護衛の人たちはみんな優しくて頼りになって、さすがだなと思った。食事が済むとテントを畳んだりする作業を手伝って、また昨日までと同じ配置で移動することになった。
荒野を走っていると、少しずつ整備された道に変わってきたことに気が付いた。整備された道があるということは、街が近いということだと王子は教えてくれた。昼頃にはキャベリックに着くということだし、エリックさんという人物がどんな人なのかが楽しみになってきた。神様が仲間だっていうくらいなんだから変な人ではないと思うんだけど。
馬を走らせていると後衛の人から上空に何かがいるので気を付けてくださいという連絡が入った。連絡を受けて王子が上空に探索の魔法をかけると、飛行型の魔獣がいるとのことだった。その魔獣は獲物を見つけると急降下して、鋭い鉤爪を食い込ませて掴み上げて連れ去り、暴れる獲物を大人しくさせるために高いところから数度落とすそう。そうすることによって獲物は大人しくなり(死ぬともいう……)肉も柔らかくなるからしているのではと言われているとかなんとか……。エグイけど元の世界でも、そんなことする生き物がいるって聞いたような気がするし、そんなもんなのかもしれないけど――。
その飛行型の魔獣がいるということは、この近くに獲物がいるか、俺たちを獲物認定しているかで、警戒する必要があるんだって。空から来られたら怖すぎる――。
「ショウゴ殿、安心してください。この馬周辺に結界を張っているのでわたしたちは襲撃を受けることはありませんから」
王子がそう言ったので俺はホッと胸を撫でおろした。
「じゃあ、護衛の人たちも大丈夫なんだね?」
「いえ、彼らはそこまでの魔法は使うことが出来ないので、結界は張っていないでしょう」
「えっ!? 護衛の人たちには結界張ってあげないの!?」
自分たちだけが結界に護られていることにも驚いたし、王子が当たり前のようにそう言うことにも驚いて、どうしてか訊ねる。
「彼らは第三王子であるわたしの護衛騎士です。その騎士を護衛対象が護るのでは、彼らが同行する意味がないですよね? ショウゴ殿には冷たいと思われてしまうかもしれないのですが、彼らはあくまでわたしの護衛です。そしてわたしはショウゴ殿の護衛ですので、護る義務があります」
王子の言葉に衝撃を受けながらも、護衛の仕事のことを言われると納得するしかないのかな――。俺個人としては、護ってあげられるなら護衛対象であろうとも協力するべきっていうか、アシストしても良いのでは? と思ってしまう。甘いのかもしれないけどさ、ここまで一緒に来た仲間だし、襲われないように出来るならしてあげて欲しいんだけど――。
「ご心配には及びませんよ。彼らは厳しい訓練を重ね、わたしの護衛として選び抜かれた人材たちです。このような魔獣ごときに引けを取ることなど有り得ません」
ああ、王子は一線を引きつつも彼らの実力を認めて信じているんだな。付き合いの短い俺がとやかく言うことではなかったんだ。そんなやり取りをしていると、未だ探索魔法を使用している王子が、後衛の一人目掛けて飛行型の魔獣が急降下してきたと言う。
「えっ! 助けに行かないと!」
馬を止めて様子を窺っている王子は、慌ててそう言う俺に、冷静に彼らに任せておけば大丈夫だと言った。
後衛の狙われた人や他の騎士たちが、今どういう状態なのかがちっとも分からなくて、不安が募る。王子の結界に護られながら神様に祈ることしか出来ない。俺の祈りが神様に届くとは考えていないけれど、彼らの無事を祈らずにはいられなかった。そんな風にしていると、五分ほどで鳥型の伝達魔法で無事に仕留めましたという連絡が入った。
「よ……良かった……」
王子は当然というように「魔獣の討伐ご苦労」と言って護衛の人たちを労っていた。この飛行型の魔獣も食用肉として好まれるらしく、帰りの野営の時に調理してくれると言っていたけど……。下手したら人を食べたことがあるんじゃないかって思ったら、気分が悪くなってしまった。猪型の魔獣は人を襲いこそするけど、基本的には草食だっていうから抵抗なく受け入れることが出来たけど、この飛行型の魔獣は無理だ――。なかなか市場に出回らない貴重な肉だっていうけど、生理的に受け付けないのだから仕方がない。王子にそう言うと、ショウゴ殿は繊細なのですねって言われたけど、日本人の感覚でいったら普通だと思う――。間接的にでも嫌な物は嫌なんだ。
胃がムカムカするけど、キャベリックに着くまで我慢しなければ――。王子が病気などには回復魔法が効かないと言って申し訳なさそうにしているから、精神的な物だしそのうち治まるから気にしないでと伝えて、キャベリックへの道を急いだ。
これだけ準備万端な王子だけど、薬を持ってくるのを忘れたんだって。俺が身に着けている宝石で食あたりとかの恐れもないし、怪我しないように王子が護るからとさほど重要視していなかったとか。精神的な物は防ぎようがないから仕方ないと思うんだけど、王子は物すごく落ち込んでいるし、何度も謝ってくるから余計に具合が悪くなった気がする。
その後は特に魔獣の襲撃にも合わず、キャベリックに着くことが出来た。キャベリックは王都とは違った雰囲気の街で、賑わっているし屋台の人も気さくに声を掛けているようだった。
「まずはショウゴ殿の薬を探しましょう」
たくさんの店の中から薬屋さんを探すと、王子と俺は店内に入って行った。棚には様々な薬の材料が並んでいて、瓶詰になった虫とかもあって鳥肌が立った。胃薬の材料が虫とかだったら泣くよ俺?
「いらっしゃい」
ドアに付いている鈴がドアを開けたことで鳴ったから、奥からお店の人が出てきた。ひ孫までいそうな感じのお婆さんが、「何を探しとるんじゃ?」と聞いてくれたから、胃がムカムカすると伝えると、棚から数種類の薬草や木の実を取り出して潰したりして、その場で調合してくれた。
「わしが診たところ、食あたりじゃのうて、精神的なもんじゃろ? それやったらこの薬がよう効くわ」
「ありがとうございます」
お婆さんから薬を受け取ると、自然な流れで王子が水の入ったコップを差し出してくれた。いつの間に亜空間収納から出したんだろうか? 王子のかゆいところに手が届く感じは素直に感心させられる。しかし、材料に虫が入らなくてホッとした――。少し草の匂いがするけど、口の中に入れるとほのかにスーッとして、飲み込むと喉も何かスッキリした感じがした。それからすぐにあんなにムカムカしていたのに、すっかり通常通りの胃の状態になった。胃の調子が悪いだけでやる気が出ないもんな――。本当に助かる。
「余分に拵えたから、またそういう状態になったら飲むんじゃぞ? おまえさん意外と繊細そうじゃからのう」
お婆さんは瓶に薬を詰めてくれて、俺はそれを受け取り王子がお金を支払ってくれた。だって俺この世界のお金持っていないし――。王子が薬を預かろうとしてくれたけど、そんなにそういう機会ないとは思うけど、自分のタイミングで飲みたいから、手元に置いておきたくて、俺が身に着けているウエストポーチにしまった。
微妙に関西弁っぽい喋り方のお婆さんにこの街にいるエリックさんの情報を聞いてみた。
「エリックやったらうちにもおるで。今は素材集めに行っているが、直に戻りよる」
「えっ!? エリックさんってもしかしてお婆さんのお孫さん?」
偶然にしてはすごい。もしかしてもう見つかった?
「ちゃうちゃう、エリックはわしの孫じゃのうて、親戚のところの子じゃ。ここで住み込みでわしの手伝いをしてくれとる」
素材を集めに行っているけど、もう少ししたら戻って来るとかで、このまま店内で待たせてもらえることになった。
そう言えば、俺と田辺さんはこの世界に来て直ぐに言葉も通じたし、字も読むことが出来た。召喚時の魔法陣に言語の自動翻訳的な機能も組み込まれていたとか何とか言ってた。よく見ると、喋っている声と口の動きが微妙に違ってたりするから、元々の言葉が日本語で訳されているだけで、本来は全然違うんだと思う。でも、方言まで出てくると、どういう基準で翻訳し分けているのかが気になるところだ。何でお婆さん関西弁混じり何だろうか――。まあお婆さんの雰囲気には合ってるんだけどね。アニマルプリントの服めっちゃ似合いそうだし。
――チリン――鈴の音と共にドアが開き誰かが入ってきた。
「婆ちゃん、お客さん?」
この人がエリックさんなのだろうか?
王子の護衛の人たちはみんな優しくて頼りになって、さすがだなと思った。食事が済むとテントを畳んだりする作業を手伝って、また昨日までと同じ配置で移動することになった。
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その飛行型の魔獣がいるということは、この近くに獲物がいるか、俺たちを獲物認定しているかで、警戒する必要があるんだって。空から来られたら怖すぎる――。
「ショウゴ殿、安心してください。この馬周辺に結界を張っているのでわたしたちは襲撃を受けることはありませんから」
王子がそう言ったので俺はホッと胸を撫でおろした。
「じゃあ、護衛の人たちも大丈夫なんだね?」
「いえ、彼らはそこまでの魔法は使うことが出来ないので、結界は張っていないでしょう」
「えっ!? 護衛の人たちには結界張ってあげないの!?」
自分たちだけが結界に護られていることにも驚いたし、王子が当たり前のようにそう言うことにも驚いて、どうしてか訊ねる。
「彼らは第三王子であるわたしの護衛騎士です。その騎士を護衛対象が護るのでは、彼らが同行する意味がないですよね? ショウゴ殿には冷たいと思われてしまうかもしれないのですが、彼らはあくまでわたしの護衛です。そしてわたしはショウゴ殿の護衛ですので、護る義務があります」
王子の言葉に衝撃を受けながらも、護衛の仕事のことを言われると納得するしかないのかな――。俺個人としては、護ってあげられるなら護衛対象であろうとも協力するべきっていうか、アシストしても良いのでは? と思ってしまう。甘いのかもしれないけどさ、ここまで一緒に来た仲間だし、襲われないように出来るならしてあげて欲しいんだけど――。
「ご心配には及びませんよ。彼らは厳しい訓練を重ね、わたしの護衛として選び抜かれた人材たちです。このような魔獣ごときに引けを取ることなど有り得ません」
ああ、王子は一線を引きつつも彼らの実力を認めて信じているんだな。付き合いの短い俺がとやかく言うことではなかったんだ。そんなやり取りをしていると、未だ探索魔法を使用している王子が、後衛の一人目掛けて飛行型の魔獣が急降下してきたと言う。
「えっ! 助けに行かないと!」
馬を止めて様子を窺っている王子は、慌ててそう言う俺に、冷静に彼らに任せておけば大丈夫だと言った。
後衛の狙われた人や他の騎士たちが、今どういう状態なのかがちっとも分からなくて、不安が募る。王子の結界に護られながら神様に祈ることしか出来ない。俺の祈りが神様に届くとは考えていないけれど、彼らの無事を祈らずにはいられなかった。そんな風にしていると、五分ほどで鳥型の伝達魔法で無事に仕留めましたという連絡が入った。
「よ……良かった……」
王子は当然というように「魔獣の討伐ご苦労」と言って護衛の人たちを労っていた。この飛行型の魔獣も食用肉として好まれるらしく、帰りの野営の時に調理してくれると言っていたけど……。下手したら人を食べたことがあるんじゃないかって思ったら、気分が悪くなってしまった。猪型の魔獣は人を襲いこそするけど、基本的には草食だっていうから抵抗なく受け入れることが出来たけど、この飛行型の魔獣は無理だ――。なかなか市場に出回らない貴重な肉だっていうけど、生理的に受け付けないのだから仕方がない。王子にそう言うと、ショウゴ殿は繊細なのですねって言われたけど、日本人の感覚でいったら普通だと思う――。間接的にでも嫌な物は嫌なんだ。
胃がムカムカするけど、キャベリックに着くまで我慢しなければ――。王子が病気などには回復魔法が効かないと言って申し訳なさそうにしているから、精神的な物だしそのうち治まるから気にしないでと伝えて、キャベリックへの道を急いだ。
これだけ準備万端な王子だけど、薬を持ってくるのを忘れたんだって。俺が身に着けている宝石で食あたりとかの恐れもないし、怪我しないように王子が護るからとさほど重要視していなかったとか。精神的な物は防ぎようがないから仕方ないと思うんだけど、王子は物すごく落ち込んでいるし、何度も謝ってくるから余計に具合が悪くなった気がする。
その後は特に魔獣の襲撃にも合わず、キャベリックに着くことが出来た。キャベリックは王都とは違った雰囲気の街で、賑わっているし屋台の人も気さくに声を掛けているようだった。
「まずはショウゴ殿の薬を探しましょう」
たくさんの店の中から薬屋さんを探すと、王子と俺は店内に入って行った。棚には様々な薬の材料が並んでいて、瓶詰になった虫とかもあって鳥肌が立った。胃薬の材料が虫とかだったら泣くよ俺?
「いらっしゃい」
ドアに付いている鈴がドアを開けたことで鳴ったから、奥からお店の人が出てきた。ひ孫までいそうな感じのお婆さんが、「何を探しとるんじゃ?」と聞いてくれたから、胃がムカムカすると伝えると、棚から数種類の薬草や木の実を取り出して潰したりして、その場で調合してくれた。
「わしが診たところ、食あたりじゃのうて、精神的なもんじゃろ? それやったらこの薬がよう効くわ」
「ありがとうございます」
お婆さんから薬を受け取ると、自然な流れで王子が水の入ったコップを差し出してくれた。いつの間に亜空間収納から出したんだろうか? 王子のかゆいところに手が届く感じは素直に感心させられる。しかし、材料に虫が入らなくてホッとした――。少し草の匂いがするけど、口の中に入れるとほのかにスーッとして、飲み込むと喉も何かスッキリした感じがした。それからすぐにあんなにムカムカしていたのに、すっかり通常通りの胃の状態になった。胃の調子が悪いだけでやる気が出ないもんな――。本当に助かる。
「余分に拵えたから、またそういう状態になったら飲むんじゃぞ? おまえさん意外と繊細そうじゃからのう」
お婆さんは瓶に薬を詰めてくれて、俺はそれを受け取り王子がお金を支払ってくれた。だって俺この世界のお金持っていないし――。王子が薬を預かろうとしてくれたけど、そんなにそういう機会ないとは思うけど、自分のタイミングで飲みたいから、手元に置いておきたくて、俺が身に着けているウエストポーチにしまった。
微妙に関西弁っぽい喋り方のお婆さんにこの街にいるエリックさんの情報を聞いてみた。
「エリックやったらうちにもおるで。今は素材集めに行っているが、直に戻りよる」
「えっ!? エリックさんってもしかしてお婆さんのお孫さん?」
偶然にしてはすごい。もしかしてもう見つかった?
「ちゃうちゃう、エリックはわしの孫じゃのうて、親戚のところの子じゃ。ここで住み込みでわしの手伝いをしてくれとる」
素材を集めに行っているけど、もう少ししたら戻って来るとかで、このまま店内で待たせてもらえることになった。
そう言えば、俺と田辺さんはこの世界に来て直ぐに言葉も通じたし、字も読むことが出来た。召喚時の魔法陣に言語の自動翻訳的な機能も組み込まれていたとか何とか言ってた。よく見ると、喋っている声と口の動きが微妙に違ってたりするから、元々の言葉が日本語で訳されているだけで、本来は全然違うんだと思う。でも、方言まで出てくると、どういう基準で翻訳し分けているのかが気になるところだ。何でお婆さん関西弁混じり何だろうか――。まあお婆さんの雰囲気には合ってるんだけどね。アニマルプリントの服めっちゃ似合いそうだし。
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