聖女はそっちなんだから俺に構うな!

ネオン

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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

十四.神託が下ったというので

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 前回神殿に行ってから数日経ったある日、田辺さんから神託が下ったという連絡があり、俺は王子とディラン様と三人で神殿に行くことになった。

 結局勇者との顔合わせは個々で済ませてしまったので、改まった場は設けられなかった。俺としても畏まった場を何度も経験するのは避けたいところだから、そういうのがなくて正直助かった。

 神殿に着くといつもの応接室に案内されて、部屋の中に入ると田辺さんが真面目な顔をして待っていた。そんな表情をしている田辺さんは本当にどこからどう見ても聖女様という感じだ。

「パビケンヴォブルス神から神託をもらったんだけど、もう一人の仲間がこの国の『キャベリック』っていう街にいるんだって。その人の名前が『エリック』っていうことしか分からないんだけど、迎えに行くようにっていう神託だった」

 田辺さんは早速神託について話してくれて、もう一人の仲間の存在を教えてくれた。そのエリックさんがどんな人物なのかは、キャベリックに行くまで分からないんだって。そのエリックさんを迎えに行くのはなぜか王子と俺の役目になって明日出発することになった。

「あ、それと北川のことも言ってたよ」

 田辺さんの言葉にいち早く反応したのはやっぱり王子だった。

「聖女様、パビケンヴォブルス神はショウゴ殿について何と仰っておられたのですか?」

 俺よりも先に聞いてくる王子が面白かったようで、田辺さんが少し笑っているけど、今は真面目な話をしているんだから我慢して欲しい――。神様は俺のこと何て言っていたんだろう?

「うふふ……。北川については巻き込んでゴメンって。それから、チートとかはないけどギフトを授けたって」

「ギフト?」

 神様謝ってたんだ――。それにしても田辺さんが言うと謝罪も軽く聞こえるからちっとも誠意が感じられない。まあ神様というよりは、俺ごと田辺さんを引っ張り込んだ王子が原因だと思うし、もう来てしまったものは仕方がないから、とやかく言うつもりはないけど、どうせならチート付けてくれたら良かったのに――。魔法も使ってみたかったしなあ。それにしてもギフトって何だろう?

「北川のギフトについては、そのうち分かるって言って詳しくは教えてくれなかったけど、魔法が使えるとかそんなんではないらしいよ」

 田辺さんの言葉に少しがっかりしてしまったけど、ただの一般人の自分にも何か能力がもらえるのなら、みんなの役に立つような能力でありますようにと祈るしか出来なかった。ここでファンタジー漫画で良くある『鑑定スキル』とか持ってる人がいれば、俺のステータスを確認してギフトの正体が分かったりするんだろうけど、そんな便利な物はないみたいだ。

「まあショウゴの能力については、そのうち分かるってことだし、今のまま短剣の訓練は続けた方が良さそうだな」
「ディー様と王子様が北川の訓練してるんだっけ?」

「はい。わたしとディランの二人でショウゴ殿に身の守り方を伝授しています」

「そうなんだね。うちも護身術くらい習っておいた方が良いかな?」

 聖女である田辺さんのことは他のメンバーが護るから、引き続き『浄化』と『回復』の魔法の訓練に集中してくださいと王子は言った。

「そう言えば、田辺さんもディラン様もレオンハルト様とは呼ばないの? 王子が五人いるから名前で呼ぶようにって言われたけど――」

 俺がそう言うと王子は少しバツの悪い顔をして、それを見た田辺さんは訳知り顔でニヤリと笑った。

「うわぁ……北川ニブチン……。うちは王子様のままで良いかなあ。王子様と北川に悪いし?」

「俺は殿下が子供の頃から殿下呼びだったからこのままでいい」


 ディラン様はともかく田辺さんは何か気になる言い回しだな――。

「それだったら俺も王子の方が短くて呼びやすいんだけど――」

 俺が王子呼びの方が良いと言う前に田辺さんが被せるように口を開く。

「いやいや、北川は王子様のこと名前で呼ばなきゃ! お城で生活してるんだし? 他の王子たちにも会うかもしんないじゃん。あとは二人だけの特別って感じで――うふふ」

 やっぱり田辺さんは面白がってるだけじゃんか。王子は王子で、俺が王子呼びしたいって言いかけたらあからさまにシュンとしてさ――。強く出れないじゃんか。

「――じゃあ俺は今まで通りレオンハルト様って呼ばせてもらいます」

 俺がそう言うと王子の見えない犬耳がピンと立ったのが分かった。それは田辺さんにも分かったみたいで、俺の背中をバシバシ叩きながら笑っている。それを見た王子が殺気立つ――。何で?

「例え聖女様が相手でも、わたしはショウゴ殿をお譲りするつもりはありませんから」

 なぜか王子が不機嫌そうに田辺さんにそう宣言するんだけど、田辺さんが俺に興味持つ訳ないじゃんか。見当違いも甚だしいし、やめて欲しい――。恥ずかしくて堪んないよ。

「ああ……。フフフ」

 田辺さんが愉快そうに笑うと王子は不機嫌そうに訊ねた。

「何がそんなにおかしいのですか」

「フフフ……ごめん……そんな必死に牽制しなくても……うちは北川のこと何とも思ってないし、ふふっ……むしろ王子様を応援してるから安心して欲しいかなあ」

 もうほんとやめてくれ――。ディラン様も肩が震えてるから! 笑うの堪えてるのバレバレ!

「わたしはショウゴ殿にしか興味がないのです。聖女様とも必要以上慣れ合うつもりはありませんので、わたしに何かを期待されても無駄ですよ」

 王子よ! 田辺さんはそういうつもりで言ったんじゃないから! ツンって横向いて何言ってんだこの王子は――。

「ああ、そう取っちゃった? 違うから~。うちは王子様のこともそういう風には見てないんで、安心してもらって大丈夫なんで! 北川と王子様が上手くいくことを応援してるって意味なんで!」

 田辺さんがそう言うと王子はやっと意味が分かったらしく、少しだけ機嫌が直ったけどまだブツブツ言っている。

「そうですか。しかし、唯一の同郷出身者同士で交流を深めるうちに、聖女様がショウゴ殿の魅力に気が付く時がくるかもしれませんので、安心は出来ません」

 ――王子めーっ! こんなの巻き込み事故といっしょじゃないか。俺は何にも言っていないのにすごく辱められている――。

 きっと俺の顔がすごいことになっていたのだろう――笑いを堪えていたディラン様が王子と田辺さんのやり取りを止めてくれた。

「殿下もマリカもその辺にしたらどうだ? ショウゴが板挟みになって茹でダコみたいになってるぞ」
 止めてくれたのはありがたいんだけど、茹でダコとか言われて、二人に注目されて消えてしまいたくなるほど恥ずかしくなってしまった。

「ほんとだ! 北川真っ赤っかじゃんww」

「ショウゴ殿失礼いたしました! そこの二人! ショウゴ殿のこのような愛らしい姿は見せ物ではないので、今すぐ目を塞いでください」

 もう王子が喋れば喋るほど、田辺さんは愉快そうにしているし、早く部屋に戻りたい――。クリスくんに会いたい。話を聞いて欲しい。まあクリスくんも王子大好きだから、この話を聞いても喜ぶだけかもしれないけど、俺の気持ちにも寄り添ってくれるから、話を聞いてもらいたいんだ。

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