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第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

十二.神殿に行ってみた(前)

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 訓練も終わり、部屋に戻ると用意されていた昼食を王子と二人で食べて、王子は執務のために自分の部屋に戻った。

「はあー……」

 俺が溜息を吐くとクリスくんが「どうしましたか?」と聞いてきたから、訓練の時のことを話した。

「まさかあんなに色々口出しされると思わなかったから疲れたよ」

 俺がそう言うとクリスくんは嬉しそうに笑った。

「えー何にも面白い話してないのに何で笑ってるの!?」

 ちょっと疲れてうんざりしていたから、クリスくんに絡んでしまった。

「フフッ――申し訳ございません。しかし、あの殿下が――」

 謝らせてしまって申し訳なかったけど、本当に嬉しそうに笑うクリスくんの話が気になったから続けてもらった。

「謝らせてごめん。クリスくん嬉しそうだけど何でか聞いても良い?」

「そうですね。殿下に対してこう思うのは不敬に当たるのかと思うのですが――」

「大丈夫。王子は勿論、他の誰にも言わないから」

「はい。では遠慮なく――」

 クリスくんは王子にもそういう人間らしい感情があったのが嬉しかったんだって。口やかましく言うほど俺のことを大切に思っているようで、王子の方が年上だけど微笑ましく感じたんだって。

「そうかもしれないけど、毎回あれじゃ疲れちゃうよ……」

 本当に気疲れして明日の訓練が心配になった。

「御心配には及ばないと思いますよ?」

 そんな俺の様子を見てクリスくんがそう言った。

「どういうこと?」

「今日の訓練の時に、あまり口出しするなと仰ったんですよね?」

「うん言った」

「それでしたら、ショウゴ様と訓練をご一緒できなくなる方が、殿下にとってお辛いことだと思いますので、口出しをしたいところを我慢なさると思いますよ」

 クリスくんはそう言うけど、親も割と淡白だったからあんなに口出されたことのない俺は身構えてしまう。午後も特にやることないから余計考えてしまう。

「そうですね、ご気分を変えるために神殿に行かれませんか? ご同郷の聖女様とお話ししたら少しは気分も晴れるのではないでしょうか?」

 確かにあの召喚以来神殿には行っていないし、田辺さんとも国王様との謁見の時に会ったのが最後だ。田辺さんに会ったら余計疲れそうな気もするけど――。神殿の中も気になるし行ってみようかな。

 クリスくんが馬車を用意してくれると言ったけど、徒歩三十分くらいだと思うし運動がてら歩くからと断った。まあ午前中訓練をしているから運動不足ということもないんだけど、これからはもっと体力もつけていかなきゃいけないと思うしね。

 でも判断を誤ったかも? 神殿から見たお城までの距離は、目測で三十分って思ったけど、思ってたより遠かった。というよりも、お城を出るまでも結構入り組んでるし時間が掛かった。俺は暇だから良いけど護衛について来てくれた、ディラン様の元同僚の王子付きの近衛騎士モリスさんに申し訳ないことをしてしまった。騎士だから装備も武器も立派で重そうだし――。

 神殿はお城から見えているし、気軽に行けるもんだと思って歩くって言っちゃったけど、俺が一人で出歩くことは王子が禁止しているって言われちゃって――。危険だからとかそれらしい理由を並べられてまで、一人が良いとは主張しきれなかった。クリスくんも一緒に行ってくれるんだけど、お城の中ならともかく外では護りきれないかもしれないからって、王子に相談してモリスさんが一緒に行ってくれることになった。

 深く考えないで断ってしまったけど、一緒に来てくれる人たちのことを思えば馬車にしたらよかったかな。

「クリスくんもモリスさんも、俺のせいでたくさん歩くことになってごめん。とくにモリスさんは色々重そうなのに――」

 歩きながら二人に謝ると、クリスくんもモリスさんも気にしないようにと言ってくれた。

「ショウゴ様はお優しいのですね。使用人や護衛にまで気を使ってくださるなんて。しかしご心配には及びません。この装備も武器も魔法で軽量化しておりますので、それ程重くはないのですよ。剣は鞘から抜くと本来の重さに戻りますが、抜刀するまでは軽いのです。それにこうやってショウゴ様と歩くのは楽しいので役得ですよ」

 爽やかに笑ってそう言ってくれるモリスさんは本当に優しくていい人そうだ。二人にこの世界のことを色々聞きながら歩いているといつの間にか神殿の前まで来ていた。

 神殿の門を潜ると、神殿の職員の人が気付いてくれて中に入れてくれた。こちらの世界に来た日に案内された応接室に通されて、神殿長と田辺さんが来るのを待った。

「北川一昨日ぶり~! 異世界生活も四日目だね! 元気?」

 田辺さんは元気いっぱいに挨拶してくれた。順応能力が高いようで安心した。ここで田辺さんも落ち込んでいたらどうしようかと思っていたんだ。落ち込む女の子の慰め方なんか知らないし。

「うん。元気にやってるよ。田辺さんも元気そうで安心した」

 白いワンピースに包まれた田辺さんは本当に正統派美少女だから、そんなににっこり微笑まれると照れてしまう。――これは田辺さんが好きとかそういうんじゃなくて、健全な男子なら仕方ないと思う。だって本当に可愛いんだ。高校に入学して同じクラスになっただけの田辺さんとは日直が一緒じゃなかったら話す機会もなかったと思うし。俺は話しかけられれば喋るし、地味なグループには属していたけど、友達はいない訳ではなかった。それでも田辺さんのいるグループとは接点なんてなかったから、日直の時はほんの少しだけ田辺さんと話せるのが嬉しかったのは内緒だ。彼女はクラスの頂点グループではあったけど、口は悪いけどわりとキチンとしているという印象だったし。まあ、こっちの世界に来て、意外な一面を知ってしまった訳だけど――。

 神殿長は挨拶をするとすぐ仕事に戻って行ったので、ここには田辺さんと俺たち三人だけだ。

「ねえねえ、今日は王子様は一緒じゃないの?」

 王子がいないことで少し不満そうな顔をした田辺さんのそれが、王子に会いたかったのに的な理由なら良かったんだけど、明らか違う理由だと分かるから気が滅入る。

「王子は執務があるから自分の執務室にいるよ」

「へー。ちゃんと王子様の予定把握してるんだぁ」

 何か含みがあって嫌な言い方だけど、世話になってるんだから多少は把握くらいするだろうに。

「そりゃあお世話になってるからね。ここに来るのも王子に許可が必要なくらいだし」

 言ってからしまったと思ったけど、もう遅かった。

「うふふ……。大事にしてもらってるようで良かった♪」

 田辺さんは機嫌が良さそうにお茶を啜った。俺はもうげんなりしてるんだが……。気分転換にここに来たはずだったんだけどな? おかしいな――。

 でも腐女子の田辺さんなら、もしかしたらい良いアドバイスをくれるかもしれないと、王子の事情を伏せて、モンペのことを話した。

「アハハ! 王子様愛が重いタイプなんだね! 北川愛されてんじゃん!」

 やっぱり言わなきゃよかった――。

「でも俺は王子とはどうこうなるつもりはなくて悩んでるから、田辺さん面白がってないでちゃんとアドバイスして欲しいんだ……」

 俺は本気で悩んでいる。友人以上の関係は求めていないのだから。

「ごめんごめん。北川の気持ちも分かるよ? うちらの世界じゃ同性同士の恋愛はまだまだ少なかったしね。でも安心して! この世界って同性婚も普通なんだって! 何なら子供を授かる方法もあるらしいよ!」

 何をもって安心しろと言っているのか――。同性婚が普通って――。このままこの話を続けても田辺さんとは噛み合わないだろう。こっちに来る前はそんなこと思わなかったけど、腐女子を隠す必要がなくなった田辺さんは、本来は結構不思議ちゃんなのかもしれないな。
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