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本編
ポワソンの涙③
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「何を差し入れてくださったのかしら? エメラルド国の有名パティシエのお菓子かしら?」
ロイさんがルシアンと王女様のお茶を用意して、二人の前にプリンを置いた。
それを見た王女様がポワソン少年の方に向き直ると口を開いた。
「こちらは、精霊姫様の母国のプリンだそうです。王都で売られている物よりも固めですが、精霊姫様がルシアン殿下とエリザベス王女殿下のためにお作りになりました」
ポワソン少年がそう言うと、王女様の目はみるみる吊り上がり、どんどん顔が赤くなった。
徐に椅子から立ち上がると、自分とルシアンの前にあるプリンを掴んで床に叩きつけた。
器が割れて中身が飛び散る……。
「そんな庶民が作った物をわたくしに食べろとおっしゃるのですか!?」
「エリザベス王女、これはやりすぎではないでしょうか」
凄い剣幕でポワソン少年に詰め寄った王女様に、ルシアンは冷たい声で苦言を呈した。
今まで一度も自分のすることに嫌な顔一つしなかったルシアンが、注意をしてきたことに余計に腹を立てたのか、王女様はテーブルに準備されたティーカップなどを、何から何まで全部テーブルから払い落して大声で怒鳴った。
「精霊姫だか何だか存知ませんが、ただの貧相な男じゃないですか! いきなり現れた癖に、この国の王族に嫁ぐですって!? 馬鹿にしないで頂戴! 政略的にもわたくしとルシアン様が結婚して、アルペンとエメラルド国の繋がりを強固にするのが一番良いのに決まっていますのに、よりにもよって何故男なんですの!?」
どうやら現れた精霊姫が男だったことがどうしても許せないらしく、王女様はヒステリックに声を張り上げて続けた。
「百歩譲って精霊姫が女性だったのなら、わたくしもここまで拒絶反応は示しませんでしたのに。よりにもよって、ルシアン様はあんな貧相な男を大切な人だとおっしゃいました。その時のわたくしの惨めな気持ちがお分かりですか!? わたくしは、ルシアン様を幼少の頃よりお慕いしておりました。何度も婚約を申し込んでは色好いお返事をいただけず、悲しみに暮れているところに、ルシアン様が貧相な男にご執心だと聞いたわたくしの気持ちが‼」
テーブルをバンバンと叩きながら、ルシアンたちを睨みつけさらに続ける。
「居てもたってもいられず、わたくしはエメラルド国にやってきました。一緒に過ごせばきっとわたくしのことを好きになっていただけると信じて……。それなのに! 小賢しいことに、奴はチョロチョロわたくしとルシアン様の前に姿を見せ、その存在をアピールしてくる! わたくしはあんな貧相な男を精霊姫とは認めませんし、異世界から来たという怪しげな男の作った物など口に出来ませんわ。こんな庶民の菓子などルシアン様が口にするべきではありませんわ」
王女様がそう言い終わるのを静かに聞いていたルシアンの表情は、貼り付けていた微笑が消えて怖いくらいに無表情だった。
それを見た王女様は一瞬怯んでいたけど、ルシアンが自分の意見に同意しなかったことで、さらに怒りを深めたようだった。
「ルシアン様はわたくしと結婚なさるべきですわ。あんな貧相な男などルシアン様の横に立つに相応しくございませんもの」
それまで静かにしていたルシアンがゆっくり席を立った。
そしてロイさんに床の掃除を頼むと、ポワソン少年にプリンはまだあるか訊ねた。
ポワソン少年が、自分とロイさんの分だということを伏せてまだあると伝える。
自分を無視して従者に話しかけるルシアンに腹を立てた王女様は突然、ポワソン少年の持っているバスケットを奪うと壁に叩きつけた。
中身こそ飛び散らなかったけど、中で器が割れる音が聞こえた。
ロイさんがルシアンと王女様のお茶を用意して、二人の前にプリンを置いた。
それを見た王女様がポワソン少年の方に向き直ると口を開いた。
「こちらは、精霊姫様の母国のプリンだそうです。王都で売られている物よりも固めですが、精霊姫様がルシアン殿下とエリザベス王女殿下のためにお作りになりました」
ポワソン少年がそう言うと、王女様の目はみるみる吊り上がり、どんどん顔が赤くなった。
徐に椅子から立ち上がると、自分とルシアンの前にあるプリンを掴んで床に叩きつけた。
器が割れて中身が飛び散る……。
「そんな庶民が作った物をわたくしに食べろとおっしゃるのですか!?」
「エリザベス王女、これはやりすぎではないでしょうか」
凄い剣幕でポワソン少年に詰め寄った王女様に、ルシアンは冷たい声で苦言を呈した。
今まで一度も自分のすることに嫌な顔一つしなかったルシアンが、注意をしてきたことに余計に腹を立てたのか、王女様はテーブルに準備されたティーカップなどを、何から何まで全部テーブルから払い落して大声で怒鳴った。
「精霊姫だか何だか存知ませんが、ただの貧相な男じゃないですか! いきなり現れた癖に、この国の王族に嫁ぐですって!? 馬鹿にしないで頂戴! 政略的にもわたくしとルシアン様が結婚して、アルペンとエメラルド国の繋がりを強固にするのが一番良いのに決まっていますのに、よりにもよって何故男なんですの!?」
どうやら現れた精霊姫が男だったことがどうしても許せないらしく、王女様はヒステリックに声を張り上げて続けた。
「百歩譲って精霊姫が女性だったのなら、わたくしもここまで拒絶反応は示しませんでしたのに。よりにもよって、ルシアン様はあんな貧相な男を大切な人だとおっしゃいました。その時のわたくしの惨めな気持ちがお分かりですか!? わたくしは、ルシアン様を幼少の頃よりお慕いしておりました。何度も婚約を申し込んでは色好いお返事をいただけず、悲しみに暮れているところに、ルシアン様が貧相な男にご執心だと聞いたわたくしの気持ちが‼」
テーブルをバンバンと叩きながら、ルシアンたちを睨みつけさらに続ける。
「居てもたってもいられず、わたくしはエメラルド国にやってきました。一緒に過ごせばきっとわたくしのことを好きになっていただけると信じて……。それなのに! 小賢しいことに、奴はチョロチョロわたくしとルシアン様の前に姿を見せ、その存在をアピールしてくる! わたくしはあんな貧相な男を精霊姫とは認めませんし、異世界から来たという怪しげな男の作った物など口に出来ませんわ。こんな庶民の菓子などルシアン様が口にするべきではありませんわ」
王女様がそう言い終わるのを静かに聞いていたルシアンの表情は、貼り付けていた微笑が消えて怖いくらいに無表情だった。
それを見た王女様は一瞬怯んでいたけど、ルシアンが自分の意見に同意しなかったことで、さらに怒りを深めたようだった。
「ルシアン様はわたくしと結婚なさるべきですわ。あんな貧相な男などルシアン様の横に立つに相応しくございませんもの」
それまで静かにしていたルシアンがゆっくり席を立った。
そしてロイさんに床の掃除を頼むと、ポワソン少年にプリンはまだあるか訊ねた。
ポワソン少年が、自分とロイさんの分だということを伏せてまだあると伝える。
自分を無視して従者に話しかけるルシアンに腹を立てた王女様は突然、ポワソン少年の持っているバスケットを奪うと壁に叩きつけた。
中身こそ飛び散らなかったけど、中で器が割れる音が聞こえた。
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