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第32話 暗殺妖精

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須藤は今まで見たことも感じたこともなかったクラウディアの豹変ぶりに身震いしていた。

相手に防御態勢を取らせず一気に間合いを詰める敏捷さ。

盗賊(シーフ)クラスでもそうそうマネできぬそれに加え、敵の魔法攻撃をかわす回避能力の高さと、白兵戦を迷いなく行う異様なまでの度胸。

その戦闘法はまさに戦鬼。
そして、暗殺者(アサシン)クラスのそれだと須藤は見た。

ギルドでもアサシンクラスの冒険者はこれまで彼は何人か見かけていた。

実際に話もしたが、いずれも金で仕事を請け負う輩ばかりでどこか仕事でやっているという割り切った中途半端さが残る連中ばかりだったと須藤は思い出した。

だが、目の前のクラウディアさんは違う。

明らかに本物のプロの戦い方だ。

須藤がそう思う中、残る3名にクラウディアは襲い掛かった。

高速で不規則に移動し、敵に的を絞らせずに一気に間合いを詰める。

3名はそれぞれ攻撃魔法を乱射するが彼女には当たらない。

当たったと思ってもそれは彼女の残像に当てているに過ぎなかった。



背後から男エルフの両肩付近に両刃の短剣が突き刺さる。

悲鳴を上げるエルフから短剣を即座に引き抜く。

両肩口から血が噴水のように吹き上がり、絶叫するエルフ。

クラウディアはそいつを突き飛ばし、大通りの建物の石の壁に叩きつける。

さらにもう一人の男のエルフに短剣を投げつける。

通常、ナイフを投げるとそれは回転して目標に飛んでいく。

だが、クラウディアの投げ方は刃を回転させずに槍の穂先がそのまま飛んでいくような特殊な投げ方だった。

「※※※※※※・・・・・・!」

眉間に短剣が突き刺さった男エルフは力なく仰向けに倒れた。

石畳の通りにたちまち血の海が作られていく。

残されたのは女エルフ一人。

「※※※※!?」

とっさにフードを取り、唖然とする女エルフ。

他の男たちが全滅したショックから、目の前のクラウディアの殺意に充ちた冷酷な目に恐怖と憎悪が混ざった表情を浮かべる。

女エルフは先ほどまでの片手で魔法を放っていたスタイルを改め、両手のひらを前に突き出し、魔法陣を出現させる。

真っ赤な魔法陣の前に黒いエネルギーが凝縮されていく。

「まずい、クラウディアさん!!あれはダークメテオだ!!」

須藤本人もこの世界に来たときから一応習得している闇属性の魔法ダークメテオは魔界のエネルギーを召喚して放つどちらかと言うと爆発系の攻撃魔法だ。

ただ、ベルリオーネからどうしてもという時以外は使うなと須藤はレクチャーされていた。

闇属性の魔法は術者の負の感情を増幅させやすく、精神を蝕みやがて悪の道へと堕落しやすいと須藤は説明されていたため、須藤はまだ一度も使用したことがなかったが、ベルリオーネから見本として最低出力の同魔法を見せてもらってはいた。

だが、そのあとでのベルリオーネのしんどそうな顔から使いたくない須藤の中で使いたくない魔法NO1になったことは言うまでもない。

クラウディアはしかし、須藤の警告にも一切の表情を変えず、仕留めたエルフの額に突き刺さった短剣を引き抜き、即座に両手に持った両刃の短剣を構え、腰を落としてファイティングポーズをとった。

右手の短剣は順手、左手の短剣は逆手に保持して構える。

「※※※!!!」

ダークメテオが放たれた!!!!

術者の魔力にもよるがあの大きさなら半径300メートルは吹き飛ぶ。

だが、クラウディアは何かを唱える。

すると両手の短剣に青白い光が宿り、刀身が燃えるように揺らめき始めた。

クラウディアは放たれた敵のダークメテオに正面から突進する。

そのまま行けば跡形もなく消し飛ぶ。

・・・・消し飛ばない!

彼女はダークメテオの黒いエネルギー体を・・・豆腐を切るがごとく細かく切り刻んだ。

そして、本来爆発するはずのダークメテオのエネルギーは急速にしぼんで空中で雲散霧消した。

同時に驚くべき速度で高々と空中を華麗に舞った。

女ネルフはその光景を唖然と、それでいて美しいものに見とれるような表情をした。

それが彼女の最後の顔だった。

着地と同時に逆手の短剣が彼女の顔に突き刺さり、彼女の左手側の首に順手の短剣が突き刺さった。

刺してすぐに引き抜いて後方に離脱するクラウディア。

彼女が瞬時に離脱して2秒後に女エルフは血を吹き出し、鮮血の雨を大通りにまき散らして倒れた。

そこにはもはや肉の残骸しかなかった。

両手に持った短剣を高速で振り回すその姿に一切の隙は無い。

氷でできた針を次々とはじき飛ばすか粉砕し、炎球もすべてかわす。

この身のこなし、武器の使い方、ただものではない。

「スドウ様、あらかた片付いたようです。お怪我は?」

穏やかな表情に戻り、須藤に歩み寄るクラウディア。

彼女が両手に持つ短剣をその時、須藤はようやくはっきり見た。

思った通りこの世界の刃物ではないと須藤は確信した。

それはヴェトナム戦争などで特殊部隊が愛用した伝説の戦闘ナイフ、ガーバー・マーク2サヴァイヴァルナイフだったのだ。

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