幻想の挽歌(ファンタジーのバラード)

幻影の狙撃手

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第6話 説明会

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翌朝。

朝6時、ノックする音が聞こえる。

「失礼いたします」

「はい、どうぞ」

既に起きていた俺の耳に昨日聞いた覚えのある声がドア越しに聞こえてきた。

入室の許可を言うと、メイドさんが入ってきた。

「おはようございます、ヒョウエ・スドウ」

昨日一緒に案内してくれた亜麻色のショートが似合う美人さんだ。

年齢は俺の感からして高3くらいか。

昨日会った時から落ち着いた感じでとても好印象な人である。

「改めまして、私はクラウディア・キルヒ。本日よりスドウ様の身の回りの御世話をさせていただきます」

ヴィクトリア朝風の正統派のメイド服に瀟洒なヒールを履いた正統派のメイドさんである。

これから身の回りの世話を主に担当してくれるということで、恐れ多い。

丁寧に着替えなどを用意してくれていて助かった。

だが、さすがに着替えを介助してくれるというのは断った。

幼稚園児でもあるまいし・・・。

最後パンツを脱ぐのを手伝いましょうかと聞いてきたときはこちらの背筋が凍ったわ!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今、俺は朝食会に招かれて食事中だ。

昨日の夜は大変だった。

よりによって契約のためとかぬかして俺と一晩を共にするとかあの魔導士が言い出して・・・。

この世界の貞操観念はどうなっておる!?

それはそうと朝食をいただく。

朝食会と言っても、比較的小さな部屋での女王様とベルリオーネとの3名のみのものだ。

かしこまりすぎるとよくないと思って女王様が配慮してくれたと執事のコンスタンチンから聞いた。

テーブルの上には銀色の金属製、おそらく銀製であろうお皿を3枚上から載せられるようになった食器台が置かれている。

3枚の皿にそれぞれスクランブルエッグやサーモン、サラダなどが盛られている。

他に、カイザーゼンメルという丸い渦を巻いたようなパンが3個、ジャムが4種類、スープ、そしてクリームがパフェのように入ったコーヒーがついている。

俺はいただきますをしてからそれらをいただく。

カイザーゼンメルというパンはネットで一度見たことがあったので知っていた。

ドイツやオーストリアのあたりでよく食べられている丸いパンで、渦が巻いているようなのはドイツ語で皇帝を意味するカイザーの名がつくらしい。

俺はそれをナイフで横に切れ目を入れるように切り、中にハムや野菜を挟んでかぶりつく。

味は言うことのないレベルである。

到底地球とは別の世界とは思えぬ。

スープにはかぼちゃのオイルが入っており、独特の風味が朝の頭をはっきりとさせてくれる。

「ヒョウエ。それでは昨日のお話の続きをいたします」

食事が一通り終わり、俺がコーヒーで一服して、程よく甘いクリームを口の中で味わっている時、女王様の口が開いた。

「用件を聞こう」

俺は臆さず、女王様に返答する。

「私たちがなぜあなたを召喚したのかを。そして、世界を救ってほしいと言ったことの意味をお伝えします」

ベルリオーネは一応俺と隣の席に座っている。

「この世界はバアルゼブルという大魔王が10年前から出現し、いたるところで人間の領土を侵略し始めました」

「我が領土も数年前から魔王の軍勢の攻勢にさらされるようになり、既に領土の3分の1は奴らの占領下にあります。代々我が国と同盟関係の国々も半数以上は既に滅亡してしまいました」

「ならばあなたの部下たちはどうしているんだ?俺よりも練度の高い猛者はこれほど豪華な城をしつらえられるあなたほどの権力を持つ存在なら十分集められるだろうに」

「もはやこの世界にそれほどの技量を持った者たちはおりません」

「どういうことだ?」

「わたくしも魔王の襲来以来、世界中から腕に覚えのある者たちを集め、軍事力も強化して戦ってきました。しかし、魔王の本土に攻め入った猛者たちの内生きて帰ってきた者はいません。おそらく全滅しているでしょう。何名かは生存している可能性はあるのですが」

「なぜ全滅したと言い切れる?」

「お食事の後で申し訳ないのですが、奴らは私たちが派遣した討伐隊の手練れの者たちの生首など体の一部をを私たちにおくりつけてきたのです」

「・・・・・・・・・・・・・・」

マフィアやテロ組織が使う脅迫の手段そのものだな。

「こちらの軍勢は?」

「残された領土を守ることで精一杯の状態です。あとどれだけ持つか・・・・」

「ではなぜ俺がここに召喚されたんだ?」

「存亡の危機の中、私たちはある賭けに出たのです」

「この世界とは別の世界で不慮の事故などで亡くなった人間の中から強大な力を開花させる可能性のある人材を召喚する儀式を国中の魔導士たちに行わせることにしたのです」

「これまでも多くの素質ある若者が召喚されました。もちろんあなたの生きていた世界からもです」

「ということは俺の世界から来た人間もいるってことか?」

「おっしゃる通りです」

「ですが、大魔王を倒せる素質を開花させられると言い伝えられている勇者クラスの素質がある人材はめったに召喚できません。それが今回、偶然にも魔導士になりたてのベルリオーネがあなたの召喚に成功したというわけです」

「・・・・・・・・」

「要は俺を召喚した理由はそいつを倒せ、ということだな?」

「おっしゃる通りです」

「だが、俺は昨日のステータスアップとかいう呪文か何か唱えて出てきた数値を見る限り、到底そんなラスボスを倒せるような実力のある人間じゃない。俺を鉄砲玉に使用って言うのか?」

一瞬、女王のまぶたが動いた。

「そんなことはございません。そのためにあなたには領土奪還を兼ねて短期間でレベルアップしてもらうことになりました。ここにいるベルリオーネを仲間としてあなたに同行させます。他にも仲間が必要ならばあとで紹介できる場所をお教えいたします。装備品の調達に必要な費用もこちらで工面いたしますので」

俺はそのあと、女王様との話を聞いて一応この件を受けることにした。

というよりそれ以外に物事を進めていく具体的方策が現時点では他に見られない。

どのみち現時点では元の世界に帰れる方法がない。

ならばこの世界を探ってみて道が開ける可能性に賭けるしかない。

ベルリオーネは終始、無表情で俺と女王の話を聞いているだけだった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はあ~・・・・・・・・。

ここまでカタブツ君だったなんて・・・・。

中学の男子なんて少し色仕掛けしたら猿のように飛んでくるのが常識のはずなのに・・・・・。

でも・・・・、彼がカタブツでよかったかも・・・・・。

食事の後、私は女王陛下に呼び出されて昨晩の報告をした。

「彼の様子はどうかしら?」

「はい、まだこの世界に若干ですがとまどっている様子で・・・」

「契約は結べたの?」

「そ・・・・・、それ・・・は・・・・」

「ああ、今晩は無理だったってことね」

「もっ、申し訳ございません、女王陛下!」

「いいの、いいの。彼、この世界に来たばかりだし、少しずつ慣れてきたころにキメなさい」

ベルリオーネの顔が見る見るうちに真っ赤になり、口元がもじゃもじゃした形になり、両手が硬直する。

が、その直後に女王の目線は鋭くなった。

「ただし、悠長なことは言っていられないわよ、ベルリオーネ。あなたの他の魔導士たちは既に多くの召喚者たちを自らの物にして働いてもらっている」

「あなたは素質を見込まれて第一級魔導士の試験をパスして私の側近に配属された身。きちんと結果を出して私に示してもらうわよ」

「わっ、分かっております・・・・、女王陛下」

私は例をして謁見の間から退出した。

あなたの目的は何なの・・・・・・・・女王・・・・・?

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