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第3話 部屋の案内

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カッカッカッカッ。

俺は魔法使い、というか正確には魔導士さんというらしいマリー・ベルリオーネさんの後ろをついていく。

さらに俺の後ろには執事風の初老男性1人と、メイドさん1人がついてくる。

ベルリオーネさんの姿はローブに古典的な魔女帽子、ひさしが大きいとんがり帽子で、先端は折れてその先に青みがかった透明の星のオブジェ?がついている。

帽子もローブも魔女によくある黒や紺色ではなく真っ白なのも何か清潔感があり、魔女のスタイルをしていても見た限りでは邪悪なたぐいの印象は受けない。

茶色のロングブーツも白い服に映えてお洒落な雰囲気を感じる。

壮麗な廊下はまばゆいばかりに輝いていて、まさしく王宮そのものだった。

所々には大理石によると思われる彫像と胸像が等間隔で置かれてある。

何か昔の偉人の像の様で、しかし中にはモンスターのような異形の形相の物もあった。

何で立派な王様らしい肖像画とか胸像がある中にあんな悪趣味な悪魔っぽい像があるのだろう・・・・?

また、さっきから何か誰かに見られているような妙な感じがする。

だが、確証がない。

そんな違和感はさておき、なんか場内を歩いているだけでもヨーロッパ旅行の際にお城を見学するときと同じ興味深さにかられる。

床はすべて鮮やかな深紅のじゅうたんが敷かれている。

やがて魔導士の少女さんは大きな扉の前で足を止めた。

「こちらです」

すかさず執事が扉を開けた。

中は高級ホテルそのものと言ってよい光景だった。

仕切りのない部屋の内部は天井がかなり高く、入った瞬間に開放感を与える造りになっている。

上品な水差しが置かれた机は金色に輝き、中に飾られている調度品は素人目にも目が飛び出るほどの価値がある物であるとすぐに分かった。

中でも机の上に置かれていた白磁器の繊細な模様が俺の心に絵を描くような印象を与えた。

部屋の隅にはかなり大きなダブルベッドが置かれており、四隅に柱が立ち、垂れ幕のようなもので上部が覆われた相当豪華な造りである。

「今日からここを自由に使ってください」

「それとこの2名はあなたの身の回りを世話しますので」

ベルリオーネさんの説明とともに執事とメイドさんが俺の前に進み出た。

「2人ともスドウ・ヒョウエに挨拶を」

「コンスタンチンと申します。よろしくお願いいたします」

「クラウディアと申します。お見知りおきを」

2名とも丁寧にお辞儀をしてきた。

俺も返す。

「こちらこそ急なことでお世話になることになりました。よろしくお願いいたします」

そのあと、わざわざ夕食を部屋に持ってきてくれた。

なぜかベルリオーネさんも俺と一緒に夕飯をとる。

いきなりこの世界に来て戸惑うだろうからと、まずは簡単な食事を持ってきてくれた。

食事の内容は簡素ながら現実の世界とも遜色のない物だった。

「よろしいんですか、いただいても」

「もちろんです」

ベルリオーネさんは淡々とした表情のままだ。

「それではいただきます」

俺は用意されたローストビーフに新鮮な生玉ねぎが挟まれたサンドウィッチをほおばる。

ローストの加減は絶妙。

シンプルな料理ながら素材を生かした味のレベルは高い。

次いでスープもいただく。

オニオンコンソメのスープは癖のない味で俺のいた世界と変わらない。

食器はさっき見た机の上の白磁器とおそらく同じで、マイセンに似た格式ある物だった。

俺は締めのお茶を喉に流し込む。

見た感じは紅茶に似た色合いのお茶はしかし味は淡白なルイボスティ―に近い物だった。

明らかに紅茶ではない。

そんなこんなで食事を終え、後は2人が片付けてくれた。

「それでは2人とも下がってよろしい」

ベルリオーネは食器の片づけを終えた2人に命じた。

「ハイ、それではベルリオーネ様。スドウ様のお着替えは浴室に」

「了解しました」

2人の説明にベルリオーネはコクンと頷いた。

ん、浴室?

あっちのドアの向こうには風呂場もあるのか?

にしてもやはり土足で部屋に上がるのはやや落ち着かないのは仕方ないが、まあ慣れるだろう。

「それではスドウ様、お先に風呂へ」

「えっ、風呂に?」

俺はそのまま風呂に案内された。

脱衣所には丁寧に木で編まれた篭があり、何となく日本の銭湯のそれに似ている。

「それでは一旦失礼いたします」

「はい、ありがとうございます」

そう言ってベルリオーネさんはいそいそと部屋を出ていった。

脱衣所に入る。

俺は服を脱ぎながらふとベルリオーネさんのことを考えた。

さっきからベルリオーネさんはなぜかだんまりを決め込んでいた。

食事の時もなんか緊張しているみたいで、なんか知らんが顔が赤くなっていた気がする。

まあ、何か急ぎの用事でもあったのだろう。

浴室の扉を開いた。

風呂の中はバスタブの中で洗うヨーロッパ風のものではなく、バスタブと体を洗う場所が分離された日本式の物だった。

しかも既に熱々のお湯が張ってあり、浴室は湯気に充満していた。

これは助かる。

風呂の良し悪しで快適さが決まると言っても過言ではない。

部屋の清潔さもそうだが、不衛生は災いしか招かぬ。

ゆえに可能な限り清潔を保たねばならぬ。

壁に付けられた蛇口をひねるとお湯が出た。

こんな中世風の世界にこのような近代的な設備があるとは。

廊下の窓を見ていたが、日は落ちていてほとんど見えなかった。

ここはひょっとしてアトラクション施設か何かじゃないのかともふと思った。

けれど、今現在診た限りは周囲に近代的な設備、動力室とかの類は見当たらない。

しかし、なんか変なところだけ近代化されている便利なとこだな。

もしかしたらこういうのはガスではなく魔法か何かで温度調整やっているのか?

まあいい、明日女王様から具体的な話を聞くことにしよう。

俺は体を洗いバスタブにつかる。

天井を見て俺はいまだ自分の身に起きた自体が飲み込めきれていない自分と、自分でも驚くほど冷静に行動している自分の矛盾に我ながら驚く。

昔からよく周囲に言われていた。

一見おとなしいようで君は野生児だと。

昔の子供ならよくやっていた危険な遊びの類、高い木の上に砦を作ったり、立ち入り禁止の池に入ってザリガニがよくいるスポットを独占したり、ドングリを漁る猪を牡丹鍋にしようと考えて仕留めようとしたりした(逃げられたが)。

だが、その遊びは異端視されて学校から禁止の憂き目にあった。

いい湯加減だった余韻に浸りながら寝間着に着替える。

程よい綿の寝間着を用意してくれていた。

・・・・・本当にこんなよい待遇をされて、本当はなにか裏があるのではないか?

しかし、今考えていても仕方がない。

俺は同じく用意されていた歯ブラシで歯を磨いた後、冷静に明日に備えることにした。

そして、部屋へ戻ろうとした時、ドアの向こうから気のせいか人気を感じた。

!?

誰かいる。

21世紀では問題児として扱われる昔ながらの遊びにいそしんできたことで鍛えられた第六感が何者かの気配を俺に教えている。

根拠のない、だが動物的ともいえる直感はなぜか必ずと言っていいほど当たる。

それにより、周囲の本質的な違和感に気づきすぎることが多く、教師などとの軋轢が多かったのだ。

「失礼いたします、スドウ様」

!?

ドアの向こうから聞こえてきたのは退室したはずのベルリオーネさんの声だった。
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