盾の騎士は魔法に憧れる

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加護の儀式と少女の願い

新たなる善神の加護1

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 ♯ユリア

「おはよう、おじいちゃん。おばあ様もおはようございます」

 身支度を整えて下に降りると、食堂にはもう朝ごはんを食べ終わりのんびりとしているおじいちゃんとおばあ様がいた。

「ああ。おはようユリア」

 むう。起きるの早いなぁ。

 アベルさんとジョルジュさんとの特訓を始めてからというもの、あたしの起床時間はかなり早くなった。アベルさん曰く「朝からしっかりと身体を動かすことによって気力と魔力の巡りが良くなり、より効率的に身体を鍛えることが出来る」のだそう。

 たしかに朝から身体を動かすと、なんだか気持ちが良い。毎日のご飯もより美味しく感じられるような気がするのはそのせいなのかな?

 カーラさんとジュディさん。庭で先にご飯を食べていたハリルにも挨拶をして食卓に腰かけると、カーラさんがなんとも美味しそうな匂いのする朝ごはんを運んできてくれた。

「いただきます」

 しっかりと手を合わせてからフォークを手に取る。今日の朝ごはんは焼きたての丸パンふたつとたっぷりの野菜と卵が入ったスープ。パンはそのまま食べてもスープに浸しても美味しいけど、あたしは断然このカーラさん特製の果実煮をつけて食べるのが一番美味しいと思う。今日の果実煮は新作かな?柑橘系の爽やかな甘味と皮ごと煮てあるからか少しの苦味がこれまた美味しい。

「ごちそうさまでした」

 食べ終わるとカーラさんがすぐに食器を下げてくれる。代わりに目の前には果実煮と同じ柑橘系の果物の輪切りが入った冷たいお茶が置かれた。

「これから特訓か?」
「うん。今日から実戦形式の特訓を始めるんだって。相手はハリルだったりアベルさんやジョルジュさんがしてくれるみたい。ちょっと恐いけど・・・楽しみなんだ」

 ずっと基礎訓練ばっかりだったから実際に剣を合わせる特訓はすごく楽しみではあるんだけど、おじいちゃんがやっている守護隊の隊長をしているアベルさんと、きっと同じくらい強いジョルジュさんと訓練とはいえ戦うのは正直恐い・・・。

「そうか。怪我しないように頑張れよ」
「うん。ありがとう」

 お茶を一口飲む。爽やかなお茶の香りとすっきりとした果実の酸味とちょうど良い甘味がとても美味しかった。

「そうだ。アベルには後で儂から伝えるが、午後は冒険者ギルドに行くからな」
「ギルド?何しに行くの?」
「ユリアの冒険者登録をすると言ったきりになっていたからな。また忙しくなる前に行っておこうと思ってな」

 冒険者登録!う~~いやったあぁっ!

「うんっ!行くっ!ぜったい行く!」
「行くのは午後からだからな。まずは確りと特訓をしてくるようにな」

 今日の特訓を恐いと思ってたあたしはもうどこかへ行ってしまった。今なら何でもやれる気がする。

「もちろんっ!アベルさんもジョルジュさんも、まとめてやっつけてくるから!」
「やっつける?!ははっ、それは良い・・・。そうだ。アベルの弱点を教えてやろうか、・・・」



 ◇◆◇◆



「──それでね?おじいちゃんに教えてもらったとおりにしたらね、まぁ結局あたしの剣は当たらなかったんだけど、アベルさんすごい焦った顔してたんだよ」
「はっはっはっ。儂の言った通りだっただろ?アベルには何度も指摘してるだが、全然直らなくてな。ユリアにしてやられて良い薬になったろうな」

 午前の特訓を終えて家で昼ごはんを食べたあと、約束通りあたしの冒険者登録をしに冒険者ギルドに来ている。必要な書類に名前や色々記入して、今は手続きが終わるのを待っている間、おじいちゃんと午前の特訓のことを話している。
 結局アベルさんから一本取ればしなかったんだけど、おじいちゃんに教えてもらった弱点を突いたときのアベルさんの顔があまりにも面白すぎて、頭から離れなくなってしまった。

「ユリアちゃん。お待たせ。登録は無事終わったわ。これであなたも今から冒険者の仲間入りよ。はい、これ」

 冒険者ギルドの受付をしているエナさんが、ニコニコ顔であたしに何かを差し出した。四角い小さな木製の板に、あたしの名前が書かれていてその横に緑の光を内側に宿した小さな石がついている。

「冒険者登録証よ。これがユリアちゃんの冒険者としての身分証明になるわ。最初は単なる木の板だけど、依頼をこなすうちに、黒檀・鉄・銅・銀・金・ミスリルに変わっていくわ。板の中には持ち主の強さを測る術式が刻まれていて、その強さに応じて青から緑・黄・赤に変化するのよ。私は見たことはないけれど、虹色に光る人もいるらしいわね」
「へぇ~。なんだかすごいんだね」

 小さな板を光にかざしたり石を覗き込んだりしてみたが、その術式は見えない。こんなの誰が考えて作ったんだろう?

「ユリアは最初から緑色だな。日頃の特訓の成果が出ているようで何より何より」
「おじいちゃんも冒険者だったんだよね?最初何色だったの?」
「ん?儂が冒険者登録をしたときには、まだそういった便利な物はなくてなぁ。ただ単純に腕っぷしだとか積み重ねた依頼の信用度なんかで区別していたからな。何色だったかは分からんな」
「ふーん。そうなんだ。これって最近出来たものなんだね。こんなにすごいもの誰が作ったんだろ?」

 おじいちゃんが冒険者をしてたのはたしか三十年前くらいだったはず。技術の進歩っていうのはすごいんだね。

「これか?これは確か二十年前くらいにミリアーナが作ったんだぞ。とんでもないドヤ顔で自慢してきてなぁ、無理矢理に持たされたもんだ」
「えっ?!これってミリアーナさんが作ったの?」
「ああ。あいつはああ見えて魔道具作りの権威だからな。他にも例えばあれとか──」


 そんな話をしばらくしてから、ギルドを出た。ふふーん。これであたしも冒険者。たくさん依頼をこなして、魔物ともいっぱい戦って、板と石の色を早く上げて一人前の冒険者になるんだ!
 そしたらおじいちゃんと一緒に冒険に出かけて、おじいちゃんを守るんだ。そのためにも、毎日の特訓も魔法の勉強ももっと頑張らないと。
 うん!俄然やる気が出てきた。

 おじいちゃんはあたしに盾を買ってくれたモグラのダンダルさんの店に用があるみたいで、あたしも午後の特訓がなくなって時間があるから着いていくことにした。
 途中、大聖堂の前に見知った人達の姿が目に入った。フリオおじさんと護衛のエダさんとディーンさん。真っ白なローブを来た人は司祭さんかな?他にも何人かの大人の人がいる。
 そのなかにひとり、フリオおじさんの横に小さな女の子が立っていた。フリオおじさんと同じキレイな金色に輝くふわふわな髪のお人形さんみたいな女の子。

「あ・・・、ジュリちゃん!」
「!ユ、ユリアちゃん!」

 堪らず走り出してこれまたお人形さんみたいな両手を握る。その手は柔らかくて触っているだけで気持ちいい。素振りのしすぎでガチガチになってきたあたしの手とは大違いだ。

「ジュリちゃん久しぶり。元気にしてた?」
「ええ、とても。ユリアちゃんは・・・ちょっと逞しくなりましたか?」
「お?分かる?ふふーん。あたしはついさっき冒険者になったんだ!毎日特訓もしてるしね」
「まあ。それはおめでとうございます。とても楽しそうで羨ましいです」

 この女の子の名前は『ジュリエット』。あたしはジュリちゃんって呼んでるけど、何を隠そうフリオおじさんの娘──つまり王女様なのだ。

「フリオニール。こんなところに大事な娘を連れてどうしたんだ?やたらと取巻きも多いが・・・」
「フェンスこそ孫と散歩か?まぁ天気も良いしな。私はほらあれだ。ジュリエットも今日、成人を向かえてな。早いとこ儀式を受けさせろと煩くてな。こうしてやってきたところだ」
「あ、ああ。そうか。ジュリエットもユリアと同い年だったな。良い加護が授かれると良いな」
「ああ。そうだ、良かったら見ていくか?遠慮はしなくて良いぞ」
「ユリア。だそうだが、どうする?拝見させてもらうか?」

 ジュリちゃんとは小さな頃からずっと成人して加護を貰えたら、おじいちゃんやフリオおじさんみたいに一緒に冒険しようと約束をした仲。そのジュリちゃんがどの神さまの加護を貰えるかは気になるに決まっている。返事はもちろん──

「もちろんっ!」

 ジュリちゃんは優しくて聖女さまみたいな雰囲気があるから、聖杖の神さまだったりするのかな?そしたらあたしがバシバシ剣で戦って、ジュリちゃんが傷を治してくれる。そんな理想のパーティになれるかも。二人だと少し不安もあるから、仕方ない。ルシオスも入れてあげようかな。

 ふふっ。楽しみがいっぱいだ──
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