盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

文字の大きさ
上 下
66 / 91
水の竜の王の憧憬

魔道ゴーレム

しおりを挟む
 ・・・これが、ゴーレムだと──?

  ゴーレムには身体が樹で出来たウッドゴーレムや、泥のマッドゴーレム、鉄鉱石で出来たアイアンゴーレムなど様々な種類が存在している。

  その成り立ちは不明な点が多く魔物学者などが研究を続けているが、まだそのほとんどが解明していないと言われている。

  その体内には魔石が存在しているため魔物の一種と考えられているが、一般的な魔物とは異なり魔人などが様々な物質に魔石と魔力を込め造り出したのでは──というのが現在で最も有力な説となっている。

  今、目の前にいる巨大なそれは、ミスリルが身体を構成するための主体となっているようだがところどころに黒鉄なども混じっているようだ。

  ここまで巨大で複数の鉱石が混じったゴーレムなどこれまでに見たことも聞いたこともない。

  それに、まるで同化してしまったかのようなゴルドバはいったい・・・。

  ゴーレムは体高に比べて異様に長いその右手を頭上高く持ち上げる。

「いかんっ!カイン、横に跳べっ!!」

  強く地面を蹴り飛び退く。瞬間、恐ろしいほどの速さで振り下ろされたゴーレムの手が下にあった小屋を粉々に吹き飛ばした。

  転がりつつも体勢を立て直し少し距離を取る。

  反対側へ跳んだカインも同様に逃げてくる。

「そ、総隊長・・・こいつは倒せルン、ですかね?」

  カインは声を裏返しながらその巨体を見上げる。

「・・・ううむ」

  ゴーレムは身体を構成する物質によってそれぞれ弱点が異なる。

  ウッドゴーレムなら燃やせばいいし、マッドゴーレムなら熱風で乾燥させてしまえばいい。アイアンゴーレムなどの鉱石系であればそれより硬い鉱石で造られた武器で斬ってしまえばいいのだが。

  しかし、このゴーレムはおそらくミスリル──

  ミスリルより硬い鉱石など伝説の武具の素材と言われているオリハルコン・・・、それこそフリオニールが持つ聖剣くらいのものだろう。

  魔法でも破壊出来ないことはないが、ただでさえミスリルは魔法抵抗値が高い。生半可な魔法では効果はない。

「ううむ。こういうときだけはフリオニールを連れてくれば良かったと心底思うな・・・」

  有効な攻撃手段が思い浮かばない。

  儂の剣ではミスリルを貫けはしないだろうし、勿論魔法も使えない。ユリアが居ればどうにかなったかもしれんが・・・。

  いかんいかん!

  ユリアには基礎からしっかりと教えると決めたばかりではないか。こんな通常ではありえない相手と戦わせてばかりいたらユリアのためにならない。

  今ここに居ないものばかり考えても仕方がない。なんとか時間を稼いで手を考えなければ。

  ところでミリアーナは何処に消えたんだ?

  あいつがいれば少しはやりようがあるんだが。


 「ククク・・・ヒャーハッハッハッハッ!!
  あの魔王をも討伐した英雄ヴェロスクードが、私の造った魔道ゴーレムに手も足も出ないとはなぁ!実に愉快だ!」

  いつの間にかゴーレムの手から地上へと降りていた執事は狂ったかのような嗤い声を上げている。昼間見たときとはまるで違う人物のようだ。

「お前がこれを造っただと?!」

「ああ!そうだ!これで完成というわけではないがな。だが、老いぼれた元英雄ごときにはこのくらいで十分過ぎる程だなぁ!!ヒャーハッハッハッハッ!!」

  人間の手でゴーレムを造り出すなど、魔道具に関して門外漢な儂でも今の技術では絶対に不可能だろうことは分かる。

  そんなことが可能なのはそれこそ魔人だけだろう。

  この男の性質はまさに邪悪ではあるがまさか魔人とは言うまい。魔人が持つ特有の禍々しさは感じない。

「・・・魔人の手を借りたとでも言うのか?」

  かつての戦争の際、帝国軍が使い連合軍に壊滅的な損害をもたらした魔道剣も魔人から齎されたと言われている。

  ここ最近活発になっている魔人の動向もある。この件にも何かしらの関与をしているのだろうか。
 
「魔人・・・だとぉ?」

  そう言った男の表情は先程までの狂喜は消え、強い怒りの感情を顕にする。

「偉大なる我が王よりその叡智を賜り造り上げた我が騎士を・・・あの卑しく浅ましい魔人からなどと、戯れ言をほざくなぁっ!!」

  男が放つ強烈な怒気に思わず気圧される。ただの人間がこれ程までの威圧を放てるものなのか。まるで魔人並だ。

「奴等にこれ程のものを造れる感性などあるはずがないっ!見よ!この美しく力強い姿を!これぞまさに芸術っ!」

  確かに星明りに照らされ白銀の輝きを放つその体躯は他のゴーレムの簡素な造形とは異なり、その姿と意匠はまるで帝国重装騎士インペリアルナイトかの様な強靭さと美しさを兼ね備えている。

  それだけに頭頂部のゴルドバがより異質に見える。

「あぁ・・・ですが、『核』としてちょうど良かったとはいえ、あのような醜い豚を使ったことだけは美しくないですね」

  男の表情は強い苛立ちを見せたかと思えば、陶酔しきった表情でゴーレムを見つめ、その次は心から残念そうにその頭部を見上げる。

  まるで劇役者でも観ているようだ。

「お前はいったい、何者なんだ・・・」

  気になることはあまりにも多い。

  ゴーレムに魔道剣、『偉大なる王』といった存在や、多分ゴルドバのことだろう『核』というもの。

  これだけのことをただの人間が出来る筈がない。 


「・・・私が誰かだと?確かに貴様は私を知らないだろう。私から魔道剣を奪い、私の輝かしい未来を奪い、父の命をも奪った貴様を、貴様等をっ!クラーゼルをっ!私がどれだけ怨み憎んでいるかもなぁ!!」

  父──?魔道剣を奪った──?

  そういえば先程ゴルドバが将軍という言葉を口にしていた。まさかこの男は──

「・・・ルードヴィング」

「ほぉ!分かったか。そうだ、私の名はルーファス・フォン・ルードヴィング。我が父、栄光あるシャルマート帝国魔道将軍オードウィン・フォン・ルードヴィング、その遺志を継ぎ、その無念を晴らすものだっ!!」


  やはりか・・・。

  三十数年前──魔王を討伐したあとも帝国軍残党は各地で抵抗を続け、それを率いていた将の中にルードヴィング家の者がいたことは知っていたが、その反乱は夜襲奇襲と手段を問わず乱戦を極め、誰が何処で捕縛されどのように死亡したかなど確めようもない状況だった。

  名だたる貴族や将の何人かは未だにその消息が分からないものも少なくないという。

  ルードヴィングもそのひとりであったが、まさかこれ程王都の近くに潜伏していたとは。

「ククク・・・しかし、計画とは大分ずれてしまったが、まさかこんなところでこうも簡単に怨敵のひとりを殺せるチャンスが巡ってくるとは想わなかったなぁ」

  自らが造り出したゴーレムによっぽどの自信があるのだろう。執事・・・いや。ルードヴィングは、既に勝ったつもりのようだ。

「可笑しなことを言うな?儂等はまだ生きているぞ。それにまだこちらは攻撃すらしてもいないのにもう勝ったつもりか?」

  言ってはみたもののまだ起死回生の手は浮かんでいない。

  会話を引き延ばしつつ頭の中であらゆる手で試行錯誤を行ってはみたものの、どうしても火力不足だ。確実な勝筋は見えてこない。

  魔法耐性の高いミスリルとはいえ金属には変わらない。大空洞でも使った『焼入れ』が一番効果的かと思うが、あの時とは状況が違うからな。

「可笑しなことぉ??それは、貴様だろぉ!!ヴェロスクードぉ!!かつてのお仲間が一緒でない貴様など、攻撃を防ぐしか能がないただの老いぼれじゃないか。あぁ?!!
  それに、自慢の盾の神器も持ってないようだしなぁ。どう考えても貴様の死は明確だろうが!!」

「・・・やってみなけりゃ分からんよ」

  切り札を使ったアイギスはまだ小さいまま。翌日まで元には戻らない。

「ヒヒ・・・ヒャーハッハッハッハッ!!
  やれるものならやってみろよぉっ!!!」
「ウォォォオオオオオォォォォ!!!」

  ルードヴィングの声に呼応しゴーレムと頭上のゴルドバが、強風が深い谷間を吹き抜けるかの様に低く唸るような叫びを響かせ、その両腕を高々と振り上げる。

  普通に考えれば、ここは一度退き体勢を立て直して挑むべきだが、それではゴーレムによって街に大きな被害が出てしまうだろう。

  なんとか耐え忍び、癪だがミリアーナが来るのを待つしかあるまい。

「カイン!お前は逃げろっ!今の儂では守りきれんっ!」
「そ、総隊長をひとりには出来ませんっ!及ばずながら囮にでもなる覚悟はあります!」
「バ、バカを言うなっ!!さっさと逃げろ──


  先程の様な力任せな攻撃ではなく、固く握られた巨大な拳が確実に儂らを狙い放たれる。

「チッ!『シールドバッシュッ!』
「──なっ?!グハッ!!」

  咄嗟に横に居たカインを下から掬い上げるように盾の突進技で吹き飛ばす。カインはものの見事に吹き飛ぶ。

  そのまま身体を捻り身体を回転させゴーレムに向け盾を構える。

  真っ黒な猛威はもう眼前に迫っていた。

  これ程の巨大な質量相手に成功するかは分からないが、『パリング』で受け流すしかあるまい。

  頼むぞ!アイギスッ!!


『・・・クリムゾンブラスト』


  盾と拳がぶつかろうとさした瞬間──

  少し眠たそうで、それでいて何処か怒気の籠った聞き慣れた声が静かに響く。

  ゴーレムの目の前で凝縮された濃密な魔力が猛烈な炎と爆風を弾けさせる。これは、火と風の複合魔法。

  鼻の先まで迫っていた暴威は力の法則を無視するかの様に真後ろへと吹き飛ばされた。

「おいおい・・・また儂を巻き込むつもりか?」
「・・・さっきも言ったけど当たってないでしょ?」

  後ろを振り向くとそこには、猫耳大魔道士ミリアーナ。

  隣にはロディに支えられたルーテが居た。

  その胸には静かに蒼い輝きを放つ、大きな竜結晶が抱えられていた──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...